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【連載「山河令」の台詞を読み解く】第9回 唐雎不辱使命

この連載では、「山河令」の台詞に引用されている漢詩や故事と、そこに隠された意味を紹介します。

連載「山河令」の台詞を読み解く
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第9回 唐雎不辱使命

「山河令」の台詞には有名な漢詩や故事が多く引用されていて、そこには深い意味が隠されています。今回は第30話に登場する故事「唐雎不辱使命」を解説します。

第30話、囚われの身となった周子舒は晋城へ連れて行かれ、ついに晋王と2人きりで対面します。そこで晋王は彼に再び自分に仕えるべきだと話し、「そなたの故郷は晋州だ」「そなたは最後に戻ると思った。快く迎える気だった」と言います。しかし、周子舒は命を落とした四季山荘の者たちを顧みない晋王を責め、己の野心に駆られた傲慢な彼に白衣剣を突きつけると、「天子が怒れば世は血の海と化す 民が怒れば流血は少ないが天下が喪に服す(天子之怒流血漂櫓,布衣之怒血濺五歩卻令天下縞素)」と返します。
 


「山河令」第30話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


これは戦国時代の縦横家(外交の駆引きで活躍した策士たち)の術策や逸話がまとめられた書物「戦国策」に収録されている安陵国の策士・唐雎のエピソード「唐雎不辱使命(唐雎が使命を果たす)」からの引用です。

戦国時代、秦王の嬴政(のちの始皇帝)は安陵国の君主に、五百里の土地を用意するから安陵国の五十里の国土と交換しろと迫りました。すでに安陵国の宗主国だった魏を滅ぼした嬴政にとって、安陵国など取るに足らない小国。脅せばすぐに国土を奪えると思っていましたが、安陵国の君主はこれを固辞します。

その後、安陵国の君主は腹心の唐雎を秦に派遣します。そこで、嬴政は再び唐雎に五百里の土地を用意するのに交換に同意しないとは何事かと、居丈高に迫ります。すると、唐雎は「君主は先の王から受け継いだ領地を守りたいのです。千里の土地でも交換するつもりはないのに、五百里の土地で交換するわけがありません」と、毅然として答えます。

これに嬴政は激怒して、「天子が怒ればどうなるのか知っているのか。百万の死体が山となり千里にわたって血の海になる」と言い放ちます。これに対して唐雎はひるまずに「民が怒ればどうなるのか知っていますか。民の中でも度胸と見識がある者が怒れば、死体はたった二つで流血は五歩の範囲でも、天下の民は喪に服すことになります」と言って、相討ち覚悟で剣を手に取って嬴政と対峙します。すると、この唐雎の賢さと勇気に感服した嬴政は、彼の前で膝をついて謝罪し、唐雎は安陵国を守る使命を全うすることができたといいます。

このように唐雎が嬴政に剣を突きつけたのと、周子舒が晋王に白衣剣を突きつけたのは、同じような状況だったといえるでしょう。晋王は周子舒を服従させることができると傲慢に考えていましたが、周子舒は決して脅しには屈しないという覚悟で晋王と対決します。かつて四季山荘を守りきれず晋王の元に逃げた、仲間を全て失って天窗からも逃げたと、自分を責めている周子舒にとって、今度ばかりは決して逃げないと心に誓った勝負の時だったのではないでしょうか。


「山河令」第30話より ©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.


こうした周子舒の姿を見た晋王は、最後に部下たちに「殺してはいかん」と言って周子舒の命を守ります。残虐な暴君として知られる嬴政も最後には唐雎に謝罪したように、晋王も周子舒に謝罪の気持ちを持ったのでしょうか。それとも、自分が受けた傷を治せるのは周子舒だけだと悟っていたのでしょうか。それとも……!?

晋王は天下を手に入れる野望に取り憑かれていましたが、周子舒が願っていたのは世の平和でした。唐雎は10倍の土地を用意するという嬴政の甘言に惑わされず国を守りましたが、この時、周子舒もまた、晋王の要求をはねつけて大事な自分の信念を守り抜いたのです。

最終回「千山暮雪」へ続きます

\「山河令」特集はこちら/

TEXT: 小酒真由子(フリーライター)
アジアから欧米までドラマについて執筆しています。双葉社『韓国TVドラマガイド』にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。また、執筆させていただいたキネマ旬報ムック『最新!中国時代劇ドラマガイド 2021』が絶賛発売中です。

Edited:小俣悦子(フリーランス編集・ライター)

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