この連載では、「山河令」の台詞に引用されている漢詩や故事と、そこに隠された意味を紹介します。

第1回 三生石上旧精魂

「山河令」の台詞には有名な漢詩や故事が多く引用されていて、そこには深い意味が隠されています。
今回は第3話に登場する「三生石上旧精魂」を解説します。

第3話、旅館で待ち伏せしていた温客行は周子舒に「私たちには浅からぬ縁があるようだな。霊魂同士が結び合った運命の相手やも」と話しかけます。 

この「霊魂同士が結び合った運命の相手」の原文は、固い絆で結ばれた男性2人について書かれた有名な故事に出てくる一節「三生石上旧精魂」で、三生とは輪廻転生（人間が何度も新しい命に生まれ変わること）の考えに基づき、前世、今世、来世を指します。つまり、このセリフでは、温客行が「三生石上旧精魂」という言葉で、自分と周子舒は前世からの深い縁がある特別なソウルメイトだと表現しています。

唐代の作家・袁郊が書いた伝奇集「甘澤謡」に収められたこの故事の一部を抜粋しましょう。

唐の時代、安史の乱で父を亡くし現世に幻滅した李源は寺で隠居生活を送るうち、円沢禅師と親しくなり、かけがえのない友となります。やがて、円沢禅師は生まれ変わることになり、息を引き取る前に李源と13年後に天竺寺で会う約束をします。

13年後、約束通り天竺寺を訪れた李源は牧童が「三生石上旧精魂，賞月吟風不要論（意訳：前世、今世、来世で会う約束をした縁ある人と、月をめで風を吟じたのはとうの昔）」と歌いだすのを耳にします。その牧童こそが円沢禅師の生まれ変わりで、李源に「あなたは俗世の縁がまだ終わっていないから、私たちの前世の縁をつなぐため、修行を続けてください」と言うのでした。

ちなみに、杭州の天竺山には仏寺が多くあり、現在では上天竺寺（法喜寺）、中天竺寺（法浄禅寺）、下天竺寺（法鏡寺）が三天竺寺と呼ばれています。その三天竺寺付近に今も残る岩が、李源と円沢禅師が再会した場所にあった三生石だとされ、人気の観光名所となっています。

このように、古くは男性同士の深い友情を表した三生石ですが、のちには中国の古代神話で人間を作ったとされる女神・女娲（じょか）の伝説として伝わる、縁結びの石を指すようにもなりました。縁結びとしての三生石が登場する物語としては、清代の作家・曹雪芹が書いた「紅楼夢」が有名で、ドラマ「永遠の桃花〜三生三世〜」「夢幻の桃花～三生三世枕上書～」で描かれる東華帝君と白鳳九のラブストーリーにもそのエピソードを見ることができます。

＜第2回「高山流水」へ続きます＞

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TEXT： 小酒真由子（フリーライター）
アジアから欧米までドラマについて執筆しています。双葉社『韓国TVドラマガイド』にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる！」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。また、執筆させていただいたキネマ旬報ムック『最新！中国時代劇ドラマガイド 2021』が絶賛発売中です。

Edited：小俣悦子（フリーランス編集・ライター）

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