『返校 言葉が消えた日』が称賛された理由とは―― <後編>年代別!映画から台湾の歴史を知る
中国から来た青年の奮闘記『バナナパラダイス』
日本統治時代が終わり、中国を追われた国民党が台湾に逃れてくる時代を舞台に作られたのが、昨年、台湾巨匠傑作選を皮切りに劇場初公開となった1989年の作品『バナナパラダイス』だ。
中国、台湾の歴史の大きなうねりの中、流れに抗うこともままならない立場に置かれた非力な人々が とにかく必死に生きようとする姿をユーモアを交えて描いた作品だ。
幼馴染みを頼って国共内戦中の国民党軍に潜り込んだ青年が、台湾にたどり着く。バナナが実る緑豊かな台湾に夢を抱いて来たのだが、スパイ容疑をかけられ命からがら部隊から逃げ出す。途方に暮れる中で、ある男の臨終に遭遇し、その妻から夫になりすましてくれと頼まれる。
こうして他人の人生を生きることになった主人公を、のちに監督となるニウ・チェンザー(鈕承澤)が演じ、そのひたむきさに2時間半という時間を忘れる。ありえない展開も、説得力あるワン・シャオディー(王小棣)とソン・ホン(宋紘)の脚本でグイグイと引きこまれる。
監督のワン・トン(王童)自身が子供の頃に中国から家族で台湾に移住したため、その視点から本作や『村と爆弾』(87)『無言の丘』(92)などを撮っている。2015年に同じく中国から台湾に来た若者たちを描いた『風の中の家族』を持って東京国際映画祭に参加した時、こう語っていた。
「台湾の歴史はとても複雑だ。その時の政権によって歴史の伝え方も違うので、教科書に書いてあることが正しいとは限らない。だから、映画を見て歴史を学んだほうが良いと思う。私も台湾に来て70年くらいになるが、歴史はとても大事なもの。それは鏡を見るようなもので、自分を見つめ直して過ちを犯さないようにする」と。
ワン・トン監督は、台北電影節や金馬奨の主席を務めたり、大学で教鞭をとって後進の育成はじめ、台湾映画界の発展のため多大な貢献をし、2019年に金馬奨の終身成就賞を受賞した。
◆『バナナパラダイス』予告編 【台湾巨匠傑作選2020】上映作 CinemartChannelチャンネル
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