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【インタビュー】『映画 真・三國無双』音楽制作担当 波多野裕介氏 “登場人物たちの戦いと一緒に演奏しているという迫力を出したかった”



― 音楽を作る際に苦労したことはありますか?

波多野 どの音楽を使えばいいのか、どこに自分のオリジナル曲をいれたら良いのか、試行錯誤の連続でした。ざっくり作ったものを監督さんに見せて、これはどう?ここは違うかな?と答え合わせをしながら仕上げていきました。

CGが入る前のラフカットを見ながら作らなければならなかったのも大変でした。グリーンバックのなかで俳優さんたちが演技しているので、何が起こっているのかよく分からない状況で(笑)。ここは馬に乗っているのだろう、おそらく人が飛んでいるのであろうと想像力を働かせて、このくらいの迫力でいいのかな?と考えながら作るのが難しかったです。でもCGを入れてみたらすごくカッコよくて、ちょっと強めの音楽にしておいてよかった、と安心したりしたこともあります。


― 音楽を制作した波多野さんから、「ここはぜひ観てほしい」というシーンはありますか?

波多野 オープニングシーンですね。アクション部分の音楽は、誰が聞いても気合が入っているというのは分かると思いますが、オープニングシーンでは、音楽的に複雑な和音を使ったり、アジア音楽のようでありながらジャズのハーモニーを入れたりした部分がところどころあって、自分的にかなりチャレンジしました。誰もが知る「真・三國無双」の音楽の中で、唯一自分の色を入れてみたいと思って作ったところでもあるので、ぜひ観てほしいです。

もう一つは、曹操が陳宮と一緒に旅に出るシーンです。広場のなかの狭い空間から広大な草原へと情景が移っていく場面で、音楽もバイオリンのカルテットからオーケストラの演奏へと展開させていきました。見た目の迫力に合うように、空間的なサイズと音楽的なサイズを意識して作ったこだわりの部分です。


― 波多野さんは、映画音楽を制作される際に監督の性格も考慮して作曲すると伺いました。今回の「映画 真・三國無双」には、ロイ・チョウ監督の性格はどう反映されていますか?

波多野 そうですね。映画には当然監督さんの特色やセンスが出るもので、「どんな映画を撮っても、その監督が伝えたいことは同じだ」という話も聞いたことがあります。映画はチームワークですので、監督さんが伝えたいことが柱としてあって、僕はそれを音楽的に広げなければいけないと考えています。 監督さんによっても違うとは思いますが、テーマとして伝えたいことにはその監督の性格や経験が反映されていることが多いのではないかということに気付きまして。だから、たとえば普段ヨーロッパのインディーズ音楽を聴いているような若い監督さんには、デモの段階でもそういうヨーロッパのセンスが強めのサントラを用意するなど、監督さんのセンスに合わせて作ることが多いです。

『映画 真・三國無双』の場合はゲーム音楽の印象が強すぎたので、ロイ・チョウ監督の特色はそこまで入れられませんでしたが、すごく音楽に敏感な方なのは間違いないです。とくにメロディーを重視されるところがあったので、自分もメロディーが前に出るような曲作りをしました。


― 他の監督さんの性格で何か印象に残っているエピソードはありますか?

波多野 『全力スマッシュ』のときのデレク・クォック監督はすごく情熱的で、日本の70~80年代の音楽や、仮面ライダー、アトムなどが大好きな方でした。小さなスタジオのなかで30分間映画の説明を受けたときも、まさに『全力スマッシュ』の熱い雰囲気そのままで(笑)。目に炎を浮かべるくらい情熱的に作品への思いを伝えてくださいました。それで、この監督に合った音楽って何だろう?と考えた末に、彼が聞いてきた年代の音楽と同じような曲を作ってみたんです。結果はバッチリはまりました。監督の性格に寄せて作るようになったのは、おそらくこの時の経験が大きいかもしれないです。

『花椒の味』(2021年11月5日より日本でも公開中)のヘイワード・マック監督はデレク・クォック監督とは対照的で、どちらかというと青く控えめだけれど強い光を放つ監督さんでした。


<次のページ:波多野さんが中華圏の映画業界で活躍するようになったきっかけ>

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