韓国映画特集
コケても立ち上がる! 韓国映画の“怪獣”が描いてきた敵とは
韓国の今がそこから見える『グエムル 漢江の怪物』
さて、そんなわけで韓国怪獣映画の寂しい歴史を紹介してきたわけだが、韓国にも成功した怪獣映画が1本だけある。
『パラサイト 半地下の家族』の世界的なフィーバーぶりが記憶に新しい、ポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』(2006年)だ。観客動員1000万人を超える大ヒットを記録し、世界から大絶賛された本作は、これまでの怪獣映画と一体何が違っていたのだろうか。
その背景には、韓国映画が草創期から重んじてきた「リアリズム」の要素が大きく関わっているように思う。ここでいう「リアリズム」とは、単に「現実的」「写実的」を意味するのではなく、「今現在の韓国がそこから見えるかどうか」という点にある。実話に基づいていようが、SFだろうが怪獣だろうが、大切なのは現実を反映する「メタファー」がそこに描かれているかどうかなのだ。
そして『グエムル』の怪獣は、実に様々な「韓国の現実」のメタファーとして存在している。
「反米」と「米軍問題」、「国家権力の無力さ」そして「愚かな国民」まで、韓国がまさに今抱えている現実が「怪獣」となり、主人公一家が「グエムルをやっつける=問題を解決していく」過程を通して、観客は多くのことを考えさせられるのだ。
韓国における「怪獣映画」の成功と失敗の分かれ道は、「リアリズム」をもった作品であるかどうかにかかっていると言っても過言ではないだろう。
前述のシム監督が目指すべきだったのは「アメリカを超える」ことではなく、「アメリカに拘泥する韓国という現実を映画に映し出す」ことだったのかもしれない。そう考えると、日本が生み出した『ゴジラ』はやはり素晴らしい怪獣だったと言わざるを得ない。
『グエムル』という大きな成功例があったにも関わらず、2018年に公開された久々の怪獣映画『ムルゲ 王朝の怪物』(ホ・ジョンホ監督)はまたしても前評判を越えることなく終わってしまった。
朝鮮王朝実録から想起したという『ムルゲ』も、CGにはこだわっているものの、そこにリアリズムは見られず、「韓国の現実」は伝わってこなかった。
(ただ、コロナ禍のなかで日本や韓国を含む全世界の社会システムが根底から揺らいでいる今、改めて観ると、予期せぬ災難に立ち向かうことの困難さや、それでも諦めずに闘い抜き愛する家族や社会を守ることの大切さを、『ムルゲ』はリアルに伝えてもいる。そういう意味では公開当時よりも2020年のコロナ禍の今だからこそ、観るべき作品だと言えよう。)
さて、今後再び韓国で怪獣映画は作られるのだろうか。活況を呈する韓国映画界においてはますます未知数だが、怪獣映画が成功するために必要なものが何なのか、少しだけわかったような気はしないだろうか。
Text:崔盛旭 (チェ・ソンウク)
映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。日韓の映画を中心に映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。Twitter @JinpaTb313
Edited:岡崎暢子(韓日翻訳、フリー編集者)
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