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韓国映画特集

コケても立ち上がる! 韓国映画の“怪獣”が描いてきた敵とは

怪獣映画において、「怪獣」を作り出すものとは何だろうか? 戦争や感染病など人間に対する脅威や、得体の知れない他者への恐怖、あるいはトラウマや精神的な不安を怪獣の源と捉える映画研究者たちは多い。

たとえば日本を代表する怪獣映画「ゴジラ」シリーズでは、水爆や戦争、原発といった様々な意味がゴジラに与えられている。ゴジラは、人間が生み出した「破壊的なるもの」の一種のメタファーと考えられているのだ。

では韓国における怪獣映画はどうだろう。

実は、韓国映画におけるジャンルの中で、怪獣映画は最も存在感が薄いと言ってもよいほど、韓国に怪獣映画と呼べる作品は少ない。

植民地時代、朝鮮戦争と休戦後の南北分断など、激動の歴史を歩んできた韓国だからこそ、怪獣にメタファーを与えやすいであろうに、一体なぜだろうか。本稿ではその理由を考えながら、韓国における怪獣映画の系譜について紹介していきたい。

 

1967年、冷戦の構図下に生まれた『大怪獣ヨンガリ』

韓国に怪獣映画が根付いていない理由としてまず挙げられるのは、技術的な乏しさである。韓国にはそもそも怪獣映画に欠かせない「特撮」という技術的な能力がなく、さらに日本のような大手撮影所を持たなかったために、1990年代までは小規模のプロダクションを中心に映画製作が行われていた。

そのような事情により、現存する最古の韓国怪獣映画『大怪獣ヨンガリ』(キム・キドク監督、1967年)は、日本の映画会社・東宝の特撮スタッフを招いて実現したものだった。

 
『大怪獣ヨンガリ』 資料提供先:韓国映像資料院

怪獣としてのヨンガリのクオリティや、ソウル市内を再現したミニチュアの完成度、戦闘シーンなど、さすがゴジラを作り出した東宝の技術力だと感心させられるが、とりわけ興味深いのは、ヨンガリもまたゴジラのように「核実験」によって誕生したという設定である。

ある国が中東で行った核実験によって、数万年もの間、地中に眠っていたヨンガリが目を覚ます——。このようにキャラクター設定にもゴジラの影響が垣間見られるヨンガリはまた、ゴジラ同様にメタファーを背負った存在になっていく。


そもそも、中東で目覚めたヨンガリは、なぜわざわざ遠い極東の韓国を目指したのか?

劇中には一言の説明もないが、ヨンガリが姿を現すその「場所」によって答えは明らかになる。
中東から猛烈な勢いで地下を走り、地震を起こしながら韓国にたどり着いたヨンガリが最初に現れるのは、なんと南北軍事境界線上にある共同警備区「板門店(パンムンジョム)」なのだ。板門店からソウルに進撃したヨンガリは、手当たり次第に破壊を繰り返し、市内を火の海へと変えていく。

そんなヨンガリの姿に与えられたメタファーは明白だ。朝鮮戦争の辛い記憶がまだ生々しい1967年、休戦状態にあった朝鮮半島で、いつ起こってもおかしくない戦争への恐怖を形にしたもの、それが怪獣・ヨンガリだったのだ。

さらに、核実験を行った「ある国」とは、当時中東近くで実際に核実験を行った中国を想定していると考えると、ヨンガリは世界の冷戦の構図の下に生まれ、韓国を威嚇する「共産国家(=北朝鮮・中国)」を象徴しているとも言えよう。一部のメディアが本作を「反共映画」と紹介しているのも頷けるわけだ。

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