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「検屍」って昔からあったの?:前編|中国時代劇トリビア#60

今、時代劇でも“ミステリー”がアツい!謎解きと胸キュンロマンスが絶妙に絡みあう話題のドラマ「大唐女法医」。ヒロインの冉顏は優れた検視の能力を発揮し、隠された真実を探っていきます。今回は、物語でも重要な役割を果たす検視という職業について探っていきたいと思います。

まずはじめに。ドラマの中では遺体や周囲の状況を調べて、犯罪の疑いがあるか判断することを「検視」と表現していますが、ここでは参考文献の表記に倣い、「検屍」と表記していきます。

「大唐女法医」場面写真
「大唐女法医~Love&Truth~」より

中国の法医学の歴史は古く、紀元前3000年ごろの薬物学にすでにヒ素やアヘンなどの法医中毒学に関する事例があり、五代の時代には裁判記録に火災現場での死体が焼死か偽装殺人かの判定を行った記録が残っているそうです。

そして南宋の1247年に、広東管区の司法長官の宋慈によって、世界最初の法医学書で検屍報告書の手引きである「洗冤集録(せんえんしゅうろく)」が記されました。当時は経験不足による検屍の誤りや、事件につけこみ悪事を働く検屍助手や下級役人たちの企み(まさにドラマでよくあるパターン!)によって、無実の罪で死刑になる者が後を絶たなかったことから、宋慈はこれを憂い、この書を執筆しました。題名の「洗冤」は“冤罪をすすぐ”という意味で、「死人に口なし」とせず、事実を問い正し、死者をむなしく埋もれさせることがないように、という宋慈の思いが込められているのです。

「大唐女法医」場面写真2
「大唐女法医~Love&Truth~」より

なぜこの時代は検屍の誤りが多発したのでしょうか?現在の日本では、検視官になるためには、10年以上の刑事としての経験があり、警察大学校で法医学を修了し、さらに警部か警視以上の階級を持つ必要があります。

しかし、中国のこの時代の検屍は医師や医学の心得があるものが担当することはなく、武官や検屍を初めて担当する官吏に一任されることも多く、検屍助手に至っては、葬儀社を営むものが担当しており、専門医による解剖なども行われぬまま、審判が下されていました。

このため、検屍を行なう上で頼りになるのは、検屍官の経験値と客観的に真実をとらえようとする精神であり、「洗冤集録」には初動捜査の重要性と、捜査を翻弄する関係者(役人・死者及び犯人の血縁者・土地の有力者など)には騙されないよう注意が必要だと繰り返し記されています。

「大唐女法医」場面写真3
「大唐女法医~Love&Truth~」より

後編に続きます

【参考文献】
著者:宋慈 訳者:徳田隆 監修:西丸與一
書名:『中国人の死体観察学 「洗冤集録」の世界』
出版社:雄山閣

Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。『台湾エンタメパラダイス』『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)にて執筆記事掲載中。

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