時代劇の名脇役!? 「毒」の歴史|中国時代劇トリビア#59
運命に翻弄されながらも、一途な愛を貫く姿が感動を呼ぶロマンティックラブ史劇「両世歓~ふたつの魂、一途な想い~」。今回はこのドラマの中に登場する気になるキーワードを探っていきます!
毒の歴史
帝から死を賜り手渡される毒酒、長年気付かぬうちに毒を盛られて突如病を発症させる毒……などなど、歴史ドラマの定番であり名脇役ともいえる“毒薬”。「両世歓~ふたつの魂、一途な想い~」の中でも、お茶に密かに毒が!といった場面などで登場していますね。
この気になる毒の存在ですが、中国では昔から人を病気にする悪霊を追い払うには、強い効力を持った毒のようなものでなければ効かないという考え方があったそうで、言い換えれば、毒はちょっと効き目が強すぎる薬そのものということだったようです。
ここでいう薬は、上品・中品・下品に分類されて、病気を治す薬のほとんどは毒として下品に入れられ、中品は性を養うもの、上品は無毒で命を養うことを司る不老不死のために役立つとされました。しかし、上品の不老不死の薬として秦の始皇帝や漢の武帝などに愛用された丹薬には水銀が含まれているので、間違いなく人の身体に入れば害があり、唐の皇帝のうち、6人は丹薬によって命を落としています。中国の皇帝たちがもたらしたこの丹薬ブームは、遣隋使や遣唐使によって日本にも伝来し、平安貴族たちの間にも大流行し、貴族社会が武家社会へと転換するとともに終息を迎えました。
参考文献の著書の山崎先生のご意見をお借りすると、平安貴族がこうした海外の薬を競って取り入れたのは延命への願いはもちろんのこと、「現代の日本における海外ブランド品ブームのようなもの」であり、「日本未上陸!あの海外有名セレブ愛用の〇〇!驚きの効果!」というキャッチーな商品をいち早くネットで取り寄せる…といった流行におくれまいとするのと似たような感覚だったようです。
身体によいとされた薬の中には魏の何晏(かあん)が考案したと言われている「五石散」というものがありました。この薬は病気を治すだけでなく気分を爽快にするという効能がありました(一説によると、現代の「ドラッグ」のようなものとも)。しかしとても強い薬なので、薬効が現れる散発(さんぱつ)という状態になったら歩かなければならず、これを行散(こうさん)または散歩と言ったそうです。
続いて劇薬として使用される有名なものには鳥から採れる鴆毒(ちんどく)があります。これは中国の伝説上の毒鳥である鴆(ちん)の羽毛に含まれていて、酒に溶かして人に与えればたちまち命を奪ってしまうという高い毒性があったようです(もちろん、無味無臭)。
中国の薬学の書によると、この鳥は南方に生息し、形は孔雀に似て五色に輝き、背は高くて大型、首は黒く、くちばしは紅い。そして毒ヘビを食べてその毒を体内に蓄積したと言われており、その肉を食べれば死ぬことになるが、毒ヘビに噛まれたときの治療には有益になるとも書かれていたとか。鴆毒で暗殺することを鴆殺と言い、中国の古い物語には頻繁に登場するそうです。
日本にもこの鴆毒は伝わっており、原因不明の死には鴆毒を持ち出すことも多かったとか。このような毒を持った鳥は伝説上の生き物として長く考えられていましたが、1990年代にはニューギニア島固有のピトフーイとよばれる6種の鳥類の中に毒を持つ種が発見され、鴆は実在したのではないか?とも言われています。
じわじわと害を与える使い方で登場する毒の中では、ヒ素を含んだ鉱石からの毒物が挙げられます。こうした毒物もやはり無味無臭で、温水に溶け、5ミリ以上の服用で胃痛、下痢、喉の渇き、けいれん、失神などを経て数時間から数十時間のうちに死に至ります。この毒をごく少量づつ、長い時間かかって飲んだ時に起こる症状としては、胃腸炎、下痢、食欲不振、血尿、肝障害による黄疸などの発症があります。その他にも神経障害、しびれ、運動失調や、顔色の黒ずみ、皮膚がんを起こしやすくなるといった症状もあるそうです。
植物の毒で知られるのはトリカブト。中国ではトリカブトの根は秦、前漢のころから毒として利用されたほか、新陳代謝を高める薬用としても利用されていたそうです。トリカブトの毒はとくに注射による毒性が強かったため、矢毒として多く用いられました。
トリカブト
【参考文献】
山崎幹夫 著 『歴史を変えた毒』角川書店
船山信次 著 『毒と薬の世界史』中公新書
Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。『台湾エンタメパラダイス』『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)にて執筆記事掲載中。
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