今秋、日本で見られる台湾映画 −東京フィルメックス−|台湾エンタメ通信
東京国際映画祭に続き、今月は東京フィルメックス(2024年11月23日~12月1日)が開催されますね。同映画祭は、アジア新進気鋭の監督作品を多数取り上げてくれるので、中華エンタメ好きの方にはより馴染みがあるかもしれません。ということで、今回は東京フィルメックスで上映される台湾関連の映画をご紹介します。(本文中、敬称略)
コンペティション部門は若手シンガポール人監督の2作
コンペティション部門の注目作はまず、星(シンガポール)・台・仏・米製作の『黙視録』(原題:默視錄)。ヴェネチア国際映画祭のコンペティションに選ばれた初のシンガポール映画であり、今年の台北金馬映画祭(台北金馬影展/TGHFF)のオープニング作品でもあることから、世界的にも注目度の高い作品といえるでしょう。リー・カンション(李康生)、ウー・チエンホー(巫建和)ら台湾人俳優二人が主演し、『幻土』で頭角を表したシンガポール人監督のヨー・シュウホァ(楊修華)が描く犯罪スリラーです。幼い娘が行方不明になった若い夫婦のもとに、娘の映像が入ったDVDが届き始めたところから、盗撮者の正体と映像の裏にある真実が明らかになっていくというストーリー。この大量監視の時代に、「見る」「見られる」ことの考察を通して、人間の孤独や脆さについて掘り下げられています。
もう一つは、華語作品として唯一カンヌ映画祭の監督週間で初上映され、カメラドールのスペシャル・メンションを受賞した台・星・仏製作の『白衣蒼狗』(原題:白衣蒼狗)。監督はシンガポール出身のチャン・ウェイリャン(曾威量)。『ミス・シャンプー』(原題:請問,還有哪裡需要加強)のチュンフォン(春風)ことホン・ユーホン(洪瑜鴻)の主演に加え、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)作品の編集者として知られるリャオ・チンソン(廖慶松)も製作者として参加しています。東南アジア各地からの不法移民を、老人や障がい者たちの介護をさせ悲惨な状況に追いやっている様を描き、その絶望的な搾取構造や台湾社会の闇に迫ります。
いずれも台湾やシンガポールに限らず、現代社会の側面を色濃く反映した物語に期待が高まります。
特別招待作品には常連のツァイ・ミンリャン作品
特別招待作品には、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)の「行者(Walker)」シリーズ、第9・10作目の2作品がエントリー。キャストはともにリー・カンションとラオス出身のアノン(Anong Houngheuangsy)。パリを舞台にした『何処』(原題:何處)、ワシントンD.C.を舞台にした『無所住(Abiding Nowhere)』はいずれも僧侶役のリー・カンションが各都市を極端に遅い速度で歩く様子を捉えたもので、両者は姉妹作といえるものだとか。ちなみにベルリン映画祭のベルリナーレ・スペシャル部門で世界初上映された『無所住』は、スミソニアン国立アジア美術館の委託を受け製作された台米合作。今年のフィルメックスもツァイ・ミンリャン世界が存分に味わえそうです。
カンボジア人監督リティ・パンによる『ポル・ポトとの会合』(Rendez-vous avec Pol Pot)は、フランス・カンボジア・台湾・カタール・トルコの共同製作で、初上映はカンヌ映画祭のカンヌ・プレミア部門。ジャーナリストのエリザベス・ベッカーが1978年にプノンペンを訪れた時の記録「When the War Was Over」を大まかに脚色した物語。ポル・ポトとの独占インタビューを前に、3人のジャーナリストたちが役人たちによる厳しい統制下で、政策の施行現場を巡る様子を追ったもので、事実に基づくフィクションを通して大量虐殺の時代を浮き彫りにしていきます。内容やキャストに台湾色は見受けられませんが、念のため挙げておきますね。
メイド・イン・ジャパン部門には合作ドキュメンタリー
日台合作のドキュメンタリー『雪解けのあと(仮)』(原題:雪水消融的季節)は、監督のルオ・イーシャン(羅苡珊)の親友チュンがトレッキング中に亡くなったことに端を発し制作されました。ネパール山中の洞窟に47日間閉じ込められ生還したユエの、救出の3日前に亡くなった恋人チュンと交わした約束—— 生き残った者は自分の体験を語らなければならない—を果たしたいという思いに、ルオ・イーシャンが応えたもの。チュンの足跡を辿る旅の中で、初めて経験する深い喪失と格闘し、死者と生存者の間の複雑な関係を親密に浮かび上がらせていきます。
今年は以上の6作品ですが、台湾の単独製作は『何処』のみでした。監督のツァイ・ミンリャンがマレーシア出身であることを考えれば、広義ではこれも合作といえるかもしれません。昨今はますます映画のボーダーレス化が顕著ですが、限られた製作費の中、いかにより良い作品を生み出せるか模索した結果、国境を超えた作品が増えているのであればその可能性の広がりに期待が高まる一方、各クリエイターあるいは各国独自の文化や魅力を失わないままであってほしいと願わずにはいられません。
チケットは過去の作品を再上映するプレイベント(11月7日16:00 pm〜発売開始)を除き、明日11月2日(土)12:00 pmから発売開始なので、ご興味ある方は今すぐチェック!
※ チケットは各劇場での取り扱いです。
丸の内TOEI https://toeitheaters.com/theaters/marunouchi/news/
ヒューマントラストシネマ有楽町 https://ttcg.jp/human_yurakucho/
<TOKYO FILMeX 2024>
会期:2024年11月23日(土) ~ 12月1日(日)
会場:丸の内TOEI、ヒューマントラストシネマ有楽町
公式サイト:https://filmex.jp/
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Text:二瓶里美
編集者、ライター。2014年より台湾在住。中華圏のエンターテインメント誌、旅行情報誌、中国語教材などの執筆・編集に携わる。2020年5月、張克柔(字幕翻訳家・通訳者)との共著『日本人が知りたい台湾人の当たり前 台湾華語リーディング』(三修社)を上梓。
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