「風起隴西」に登場した、空を飛ぶ“竹鵲”は実在した?! |中国時代劇トリビア#124
三国時代を舞台に名もなき英雄たちの諜報戦を描いた歴史サスペンスドラマ「風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-」。緊張感のある頭脳戦、逆転の連続と緻密な駆け引きに加え、蜀漢・曹魏両国の個性豊かな登場人物たちが、様々な人間ドラマを展開する群像劇でもあります。今回はこのドラマから、ちょっと気になる不思議な“アレ”について、探っていきたいとおもいます!
「中国時代劇トリビア」バックナンバー
目次
・ 公輸子(こうしゅし)ってどんな人?
・ 2人が作ったものは……
公輸子にまつわるエピソード
・ 墨子(墨翟)と公輸子の頭脳戦から生まれた四字熟語
・ なんと日本に弟子がいた⁉ 公輸子を巡る不思議なお話し
竹鵲を開発した、公輸子ってどんな人?
©2022 New Classics Television Entertainment Investment Co.Ltd
劇中、空を飛ぶ道具として登場する竹鵲(ちくじゃく)。こんな最先端な道具を開発したとしてその名前が紹介される公輸子(こうしゅし)って、いったいどんな人だったのでしょうか?
公輸子を語る前に、まず彼よりも先に飛翔機械を作ったとされる墨子(墨翟)をご紹介していきます。墨子は戦国時代の賢人として知られており、彼が木でこしらえた鳶「木鳶(もくえん)」は、三年かけて完成させられ、1日飛んで壊れたと紀元前三世紀の『韓非子』などで伝えられています。
そんな墨子と近い時代に、竹や木を削って鵲(かささぎ)を作った魯班(ろはん)が登場します。魯班は春秋時代、魯の国の工匠であるとされていますが、定かなことは分からないそう。魯はその国の国名を意味し、姓は公輸(こうしゅ)、名は班もしくは般とされ、劇中で紹介されるように公輸子とも呼ばれています(※1)。公輸子が作った鵲は、墨子が作った木鳶が1日で壊れたのに対し、3日飛び続けたとされ、両者は共にその優れた才で知られていきます。
※1:魯班と公輸子を別人とする記載もあるとされますが、今回は同一人物を前提にした説明を扱っていくことにします。
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2人が作ったものは……
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では、2人が作った「木鳶」はいったいどんなものでしょうか?
木で作った鳥型の模型の中に、からくり仕掛けの機械が入っていたとか、イギリスの生化学者・科学史家ジョゼフ・ニーダムや中国人研究者が、彼らの作った飛行物を「凧」に類するものと考察したことから、それが凧の起源だとする説もあるそうですが、その使われ方にも諸説あり、正体ははっきりしていないそう。しかし、公輸子は凧作りの祖として後世に名を残すこととなり、山東省の濰坊市にある濰坊世界風箏博物館の門前には公輸子(魯班)の像が立てられ、その功績が称えられています。
ちなみに、参考文献『中国飛翔文学誌: 空を飛びたかった綺態な人たちにまつわる十五の夜噺』の著者である武田雅哉先生の解説文によると、門前の公輸子の像は博物館改装時に一時撤去され、1988年の博物館創建時の、立って左腕に鳥形のものを抱えている姿から、公輸子(魯班)そのものを羽のような道具をつけてはばたく鳥人としてデザインした作品へと変えられたそう(※2)。それは、ドラマに登場する竹鵲そのものにも見えますが、あくまで公輸子のイメージとしての姿……と、とらえておいた方がよさそうです。
ちなみに、凧は中国が起源で、その後世界中に伝播し、朝鮮半島、日本、マレー諸島、オセアニア全域、ミャンマー(旧ビルマ)、インドを経由し、アラビア半島、北アフリカ、そしてヨーロッパへと伝わっていったと考えられているそうです。
※2:濰坊世界風箏博物館の門前にある、新しい魯班像の写真はこちら
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E8%BC%B8%E7%9B%A4#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Luban_sculpture_weifang_2010_06_06.jpg
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公輸子にまつわるエピソード①
墨子(墨翟)と公輸子の頭脳戦から生まれた四字熟語 “墨翟之守(ぼくてきのまもり)”
公輸子は楚王から宋国を攻撃する新兵器の「雲梯」(雲まで届くほどの高い攻城用の梯)を開発。楚はこれで宋を攻めようとしたが、これを知った墨子(墨翟)が、公輸子と図面上の戦争を展開して墨子が公輸子の攻撃をことごとく防ぎ、王に宋国進行を断念させたという故事から、「意思を固く守り、決して曲げないこと」または、「敵の攻撃から城を固く守ること」を “墨翟之守(ぼくてきのまもり)”という四字熟語が生まれました。
公輸子にまつわるエピソード②
なんと日本に弟子がいた⁉ 公輸子を巡る不思議なお話し
石川雅望作『飛騨匠物語』という読み本に登場する主人公、猪名部(いなべ)の墨縄(すみなわ)は、飛騨の名匠で、貧しい者にはなんでも作ってあげたが、権力で仕事をさせようというものには従わないという志のまっすぐな人物だった。そんな彼に大工道具や工技を授けたのが、蓬莱の仙人となった魯班(公輸子)。ちょっぴりファンタジー風の物語に公輸子が神仙となって登場するのも面白いですね!
飛翔にまつわる古代中国のエピソードは、まだまだたくさんあって、神話と合わさった不思議なお話しなども多く残されています。ウソか本当かはさておき、人間が空を飛ぶことに憧れるのは、今も昔も変わらないのかもしれません。そんな背景を想像しつつ、ドラマもぜひ楽しんで観て下さいね。
【参考文献】
武田雅哉『中国飛翔文学誌: 空を飛びたかった綺態な人たちにまつわる十五の夜噺 』人文書院
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提供:エスピーオー/テレビ東京メディアネット 発売・販売元:エスピーオー
https://www.cinemart.co.jp/dc/c/rousei.html
Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。Cinem@rtにて「中国時代劇トリビア」「中国エンタメニュース」を連載中。『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『見るべき中国時代劇ドラマ』(ぴあ株式会社)『中国ドラマ・時代劇・スターがよくわかる』(コスミック出版)などにも執筆しています。
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