韓流20周年特集|進化・深化の韓ドラ20年! ディープに分析#4「ロマンスがなくてもヒットする!~ジャンルの多様化」
目次|進化・深化の韓ドラ20年! ディープに分析
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#1 元祖からネトフリスターまで~韓流人気を牽引してきた俳優変遷
#2 シンデレラが夢に向かって闘うまで~年代別ヒロイン像
#3 お決まりでも、突飛でも、平凡でも、愛はいつも全力!~ラブストーリーの潮流
#4 ロマンスがなくてもヒットする!~ジャンルの多様化
#5 エンタメライター高橋尚子が選ぶ「何度でも観返したい!心揺さぶる愛の名作5選」
2003年に日本で「冬のソナタ」が放送されて以降、韓国ドラマといえば、出生の秘密や記憶喪失、貧富の差などを取り入れた純愛ドラマや、劇的な悲恋もののイメージが強かった。その後、典型的なシンデレラストーリーが影を潜めていき、様々な形の恋愛ドラマが生み出された一方で、恋愛をメインテーマとしないドラマが増加。
今回はヒューマンドラマやサスペンスといった多彩なジャンルの作品と、その制作背景について振り返ってみる。
自由度の高いケーブルドラマ
多チャンネル化で表現が広がる
韓国ドラマは、長らく3大地上波局(KBS、MBC、SBS)で放送されてきた。それが2011年、一般にケーブル局と呼ばれる総合編成チャンネルが次々に開局。これらの局でドラマ放送が始まったことが、年間制作数の増加とジャンルの多様化へと繋がり、韓国ドラマが大きな転換期を迎えることになる。
この時期のひとつの事象として挙げられるのは、従来のラブストーリー偏重の傾向に飽き足らなくなった有能な作り手たちが、非地上波という自由な制作環境のもと、ロマンスよりも人間を描くことに主眼を置き、ヒューマンドラマをヒットさせたこと。
また、地上波局では規制される刺激的な描写が、ケーブル局作品ではある程度まで許容されるなど表現の幅が広がったことも、質の高いサスペンスやスリラー、ダークな犯罪捜査劇を生み出す背景になった。
「神のクイズ:リブート」©STUDIO DRAGON CORPORATION
tvN飛躍作「ミセン」「応答せよ」
ヒューマン作品の名手が歴史を動かす
最初にジャンルの多様化をはっきり感じさせたのは、ケーブル局tvNの2014年作「ミセン-未生-」だ。社内恋愛もない新人サラリーマンの日常をリアルに綴ったこの作品が感動を呼び、社会現象を巻き起こした。
これにより、恋愛を描かなくともドラマをヒットさせられる、ということを多くの人に知らせたエポックメイキング的ドラマとなった。
「ミセンー未生ー」© STUDIO DRAGON CORPORATION
同作を手掛けたキム・ウォンソク監督は、2016年には「シグナル」を送り出す。ファンタジーとミステリーの要素を併せ持つ秀逸なヒューマンドラマは、韓国ドラマの歴史を変えたと賞賛された。
監督の世界は、2018年の傑作「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」でさらに極まる。
そしてもう一人、ヒューマンドラマを人気ジャンルとして定着させたのが、シン・ウォンホ監督だ。
2012年に「応答せよ1997」をヒットさせ、tvN飛躍のきっかけを作った。
「応答せよ1997」© CJ ENM Co., Ltd, All Rights Reserved.
一昔前の高校生の青春をノスタルジックに綴ってレトロブームを巻き起こしたドラマはシリーズ化され、ソ・イングクやパク・ボゴムなど新たなスターも誕生。
シン監督はその後、「刑務所のルールブック」(2017年)、「賢い医師生活」(2020年)を手掛け、さらに幅広い人気を獲得。名実ともに群像劇の名手となった。
財閥企業傘下のtvNは、2006年の開局後、徐々にドラマ制作に力を入れ、潤沢な資金力を背景に多くの才能を地上波局から次々に引き抜いて地固めをした。
その際、2011年にKBSから移籍してきたのが、まさにキム・ウォンソクとシン・ウォンホの両監督。そして着実に結果を出すことに成功した。
社会性・時代性を押さえたJTBC
意識高い系ドラマが続々登場
2016年、tvNで放送された「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」が空前の大ブームを巻き起こす。業界の勢力地図が大きく塗り変わってきたこの前後、新聞社系のケーブル局であるJTBCもドラマ制作を活発化。
「ミセン」と同じ2014年、不倫をテーマにした「密会」が、最初のヒットを記録。その後、2018年には「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」が人気を集め、チョン・ヘインが“国民の年下男子”として一躍スターダムに躍り出た。
「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」©Jcontentree corp. all rights reserved
恋愛ドラマではあったが、ソン・イェジン扮するヒロインの職場でのセクハラの様子が描かれるなど、当時韓国で大きな盛り上がりを見せ始めていた“Me Too運動”を思わせる社会性・時代性への意識の高さは、新聞社系ならでは。
さらに、同年2018年は、過酷な受験戦争に翻弄される数組の親子を、ブラックユーモアを交えつつサスペンスタッチで描いた「SKYキャッスル〜上流階級の妻たち〜」が社会現象化する大ヒットとなった。
2020年は、夫に裏切られた妻の壮絶な復讐を描いた愛憎劇「夫婦の世界」がマクチャンテイスト満載の内容で、「SKY〜」を上回るヒットを記録した。
「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」
© Jcontentree corp & JTBC Content Hub Co., Ltd. all rights reserved.
地上波にも影響を与えたサスペンス
ストレス社会にダークヒーローが活躍
一方、サスペンスを得意とするOCNは、2010年からスタートした「神のクイズ」が「〜:リブート」まで5作を数える人気シリーズに。日本でリメイクもされた「ボイス〜112の奇跡〜」(2017年)はシーズン4まで作られた。
「ボイス〜112の奇跡〜」©STUDIO DRAGON CORPORATION
そんななか、2017年にtvNで放送された「秘密の森~深い闇の向こうに~」が、第54回百想芸術大賞のテレビ部門で大賞を受賞するという快挙を達成。今もなお、社会派ミステリーの最高傑作として語り継がれるとともに、サスペンスや捜査劇が人気ジャンルとして定着するきっかけとなった。
こうしたダークなタッチのドラマ人気を受け、クライムサスペンスや、ファンタジックなミステリーが地上波でも作られるようになり、時代の変化を実感させた。
ジャンルの多様化と同時に、ダークヒーローが活躍するドラマも増えた。ナムグン・ミン演じる刑務所が舞台の復讐劇「ドクター・プリズナー」(2019年)、法では裁けない悪を倒す主人公の活躍を描いた「ヴィンチェンツォ」(2021年)や「復讐代行人~模範タクシー~」(2021年)などは、ストレスの多い毎日を送る視聴者にとって、スッキリできる“サイダー”ドラマとして人気を集めた。
「ドクター・プリズナー」Licensed by KBS Media Ltd. © 2019 KBS. All rights reserved
一体どういう発想から!?
ゾンビ、SF、パニック…進化が止まらない!
現在、ジャンルの多様化はますます進み、これまで見たこともなかったようなドラマが次々に作られている。2019年にゾンビ時代劇という新鮮な題材で驚かせた「キングダム」のヒットは、その後「Sweet Home—俺と世界の絶望—」(2020年)や「今、私たちの学校は…」(2022年)など、多様なゾンビやモンスター作品を生み出すことになった。
2021年には「イカゲーム」が世界的にヒットし、韓国ドラマへの注目度がぐんとアップし投資が拡大。制作費とCGの技術が上がったことで、SFやパニックものなども新たな表現ができそうだ。
「イカゲーム」
巨費を投じた“韓国版アベンジャーズ”「ムービング」(2023年)のように、映画顔負けのスケールの大きなドラマを見ると、韓国ドラマもここまで来たか、と唸らされる。
映画界からも監督やスターが続々ドラマに参加して、人材面もさらに充実。また、最近では「マスクガール」(2023年)や「セレブリティ」(2023年)など、サスペンス要素はあっても、一つのジャンルに当てはめるのが難しいドラマも珍しくなくなった。
一体どういう発想からこんなドラマが!? と常に新鮮な驚きを与えてくれる韓国ドラマ。今後も期待しかない!
「ムービング」© 2023 Disney and its related entities
<エンタメライター高橋尚子が選ぶ「何度でも観返したい!心揺さぶる愛の名作5選」につづく>
『冬のソナタ』が日本で放送されてから20年。 今年は、日本における韓流20周年を迎えました。 当サイトでは、 関連イベントの情報やこの20年の韓流ブームを紹介したコラムなどを掲載し、 記念の年を盛り上げていきます。
TEXT:小田香(ライター)
出版社勤務を経てフリーとなり、映画誌で日本映画と舞台の取材・編集を担当。99年より韓国ドラマを視聴。01年頃より多数の韓国俳優や映画・ミュージカル関係者に取材。現在は『韓流ぴあ』中心とした韓流誌に執筆している。ほかに「おうちでCinem@rt」映画コラム、中国・台湾の映画・ドラマについての寄稿も行っている。著書にノベライズを手がけた『イニョプの道』がある。
Edited:野田智代(編集者、「韓流自分史」代表)
「ミセンー未生ー」
DVD-BOX1・2 各13,750円 発売中
「神のクイズ:リブート」
「応答せよ1997」
「ボイス〜112の奇跡〜」
「ドクタープリズナー」
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「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」
DVD-BOX1~3 各15,400円 発売中
発売元:アクロス/クロックワークス/TCエンタテインメント/ひかりTV/GYAO 販売元:TCエンタテインメント
「よくおごってくれる綺麗なお姉さん<韓国放送版>」
DVD-BOX1・2 PCBE-63760 PCBE-63761 各16,500円(税込)
©Jcontentree corp. all rights reserved
「イカゲーム」
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「ムービング」
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