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字(あざな)ってなに? 前編:人によって呼ばれる名前が違うのはなぜ?|中国時代劇トリビア #106

三国時代を舞台に名もなき英雄たちの諜報戦を描いた歴史サスペンスドラマ「風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-(以下、風起隴西)」。緊張感のある頭脳戦、逆転の連続と緻密な駆け引きに加え、蜀漢・曹魏両国の個性豊かな登場人物たちが、様々な人間ドラマを展開する群像劇としても楽しめる作品でもあります。

今回はこのドラマからちょっと気になる“アレ”について、探っていきたいとおもいます!



字(あざな)ってなに?

 「風起隴西」チェン・クン
「風起隴西(ふうきろうせい)-SPY of Three Kingdoms-」 ©2022 New Classics Television Entertainment Investment Co.Ltd

「風起隴西」は諜報戦を描いた作品で、裏と表、逆転の連続……と、ストーリーは超!面白いけれど、すこし複雑さを感じることも。その要因の1つが、「人によって呼ばれる名前が違う」という“字(あざな)ルール”の存在。役職・姓名に加え、なんと字もある⁉ というこのきまりに慣れるまで「これ誰のこと?」と、ちょっと混乱してしまう…といったご意見も。そこで、今回はこの“字ルール”についてまとめていきたいと思います。

「風起隴西」では、登場人物を紹介する字幕の中で、例えば陳恭の場合、「曹魏・天水 主簿」という出身地と身分、そして「陳恭(字 思之)」という形で名前が表記されていました。この名前の部分を詳しく分けると、

 → 姓 
 → 名・諱(いみな)
思之 → 字

となり、このように人名が、《姓+名+字》で1セットとなっているということが分かります。

《字(あざな)》は中国において、姓・名以外につけた別名・通称のことで、古代中国では男子は20歳、女子は15歳で字を持つことができました(女子は非常に少ない)。字は自分でつけることも、人につけてもらうこともあったとか。一般的には高級官僚や知識人がつけ、地位の低い者が字を持つことはありませんでした。

古代中国では、他人が人の《名(諱)》を口にすることは失礼にあたるため、特に親しい間柄や似たような身分の者同士は《字》で呼び合うのがきまりでした。このため、「陳恭」と呼べるのは、自分以外には親や主君、もしくは師など、自分にとっての特別な敬う存在の人となります。逆に、名で呼べる立場であるのに、あえて字で呼ぶことで、相手に敬意を示すことも。また、謙虚な態度として、本人は自分の名(諱)で自称し、字を自称しないという作法もありました。

「風起隴西」バイ・ユー
義兄弟の仲である荀詡は、陳恭を字「思之」と呼ぶ

「風起隴西」場面写真
陳恭の妻・翟悦も、夫・陳恭を字「思之」と呼ぶ
©2022 New Classics Television Entertainment Investment Co.Ltd

官職や役職に就いている人を呼ぶときは、姓に職名や階級をつけて呼ぶのが一般的で、このため職場やそれにまつわる場所、人においては、《姓+官職》で呼ばれることになります。このルールで振り返ってみると、「陳恭」が仕事上の場、もしくはあまり深くお付き合いがないであろう相手からは「陳主簿」と呼ばれていたことが、ちらりと浮かんでくるかと思います。役職名での呼び方で言えば、この他に、《任地(姓+任地)》で呼ばれることも多かったそうです。

ちなみに。普通は《姓+名+字》を通して呼ぶことは無いのですが、古代の定まった記述法では、文書中において人物の情報を表示する場合に《籍貫・姓・諱・字》を並列する慣例があった、ということです。

「風起隴西」ローレンス・ワン
仕事上の付き合いである糜冲は、陳恭を姓+役職名の「陳主簿」と呼ぶ

「風起隴西」ドン・ズージェン
陳恭を親友だと感じている郭剛は、普段は陳恭を字「思之」で呼んでいるが、人前なので「陳主簿」と言い直す
©2022 New Classics Television Entertainment Investment Co.Ltd

 

名前のいろいろなルール

上記のルールを改めて整理すると……

1)古代中国の人物(主に官僚や知識人)は《姓(せい)+名・諱(な)+字(あざな)》を持っている。
例:陳恭 思之

2)主君や仕える相手には《姓+名》を名乗る/呼ばれる。
例:陳恭

3)親や師からは《姓+名》で呼ばれる。
例:陳恭

4)官職や役職に就いている場合は《姓+官職(階級)》をつけて呼び合う。
例:陳主簿

5)特に親しい間柄、似たような身分の仲間とは《字》で呼び合う。
例:思之

6)職場での上下関係があるのに《字》で呼び合っている=当事者同士は親しい仲である
例:郡守の郭剛(上司)が自分を「毅定」と字を呼ぶように陳恭(部下)に求めるが、陳恭はめったに呼ばない。

7)謙虚な態度として、本人は自分の名(諱)を名乗り、字を名乗らない。

8)通常、姓から字の全てをつなげて呼ぶことはないが、文書中において、人物の情報を表示する場合に「籍貫・姓・名(諱)・字」を並列する慣例があった。
例:蜀漢・陳恭・(字)思之

9)字は後の改名もOK。

10)赤ちゃんの時につけられた《幼名》というものもある。
例:曹操「阿瞞」、劉禅「阿斗」など。

このように、どの名前の形で呼ばれるかによって、その人の立場や、関係性などが分かる仕組みになっているのですね!


次回「字(あざな)のつけかた/意味」につづきます

Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。Cinem@rtにて「中国時代劇トリビア」「中国エンタメニュース」を連載中。『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『見るべき中国時代劇ドラマ』(ぴあ株式会社)『中国ドラマ・時代劇・スターがよくわかる』(コスミック出版)などにも執筆しています。

このコラムに登場した作品
「ふうきろうせい」キービジュアル

Blu-ray-BOX1/DVD-BOX1発売中
4月26日 Blu-ray-BOX2/DVD-BOX2発売
BD:各16,500円 DVD:各13,200円(税込)
※DVDレンタル&各社動画配信サービスにて順次リリース。

提供 エスピーオー/テレビ東京メディアネット
発売・販売元 エスピーオー
公式サイト http://www.cinemart.co.jp/dc/c/rousei/
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