縁結びの神様・月下老人ってどんな神様?|中国時代劇トリビア #105
「陳情令」の金子軒役で注目されたツァオ・ユーチェンが初めて主演を務め、「驪妃-The Song of Glory-」のティエン・シーウェイと共演した話題のラブコメ時代劇「神様の赤い糸」は、人間界にやってきたイケメン神仙と、結婚仲介人のヒロインが活躍する物語。今回はこのドラマのキーワードとなる“縁結び”にちなんだトリビアを探っていきたいと思います!
縁結びの神様 月下老人
「神様の赤い糸」の物語は、炎広神・柏衍(はくえん)が悪霊を追った際、縁結びの神・姻縁神の持つ赤い糸を切ってしまったことから姻縁の混乱が発生してしまい、この事態を治めるため、柏衍が姿を変えて人間界に遣わされるところから始まります。
「神様の赤い糸」© YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD.
中国で縁結びの神として親しまれているのは、月下老人。唐代の文学者、李復言の書いた伝奇小説集『続玄怪録』(宋代『続幽怪録』となる)に収められた「定婚店」というお話しに登場するのが、月下老人の最も古い例だと言われています。
杜陵(現在の陝西省西安市)の韋固は、若いときに父親を亡くしたため、早く結婚して跡継ぎを多く残したいと考えていました。しかし、縁談が思うようにまとまらず、清河(現在の河北省邢台市)へ旅行する途中、宋城(現在の河南省)の南の宿に泊まります。そこで、ある娘との縁談を世話する者がいて、翌日、夜明け前に店の西の竜興寺の門で会う約束をします。
早々に待ち合わせの場所にむかった韋固は、布の袋にもたれて階段に座り、月に向かって(月光の下で)書物を調べる一人の老人と出会います。老人は、素性を訪ねてきた韋固に、自分は冥界の者で、今読んでいるのは世の中の男女の縁組帳であること、そして自分が人々の結婚を管理していることを告げます。それを聞いた韋固は喜んで、今回の自分の縁談について尋ねると、韋固の結婚相手はすでに決まっていて、その相手はまだ3歳の幼子だと告げられます。さらに、老人の持っている袋の中には、赤い縄(つな)が はいっており、これで生まれたときに、夫と妻の足をこっそりつなぐのだと言います。そして「家が敵同士でも、身分がかけ離れていても。遠い地の果てで役人をしていようとも、呉と楚のように土地が違っても、この縄でつないだら避けられないのだ。君の足はもう相手の女性につないでいる。他を探しても無駄だよ」と言われてしまいます。この後、老人の案内で将来の妻となる相手を目にした韋固はたいそう驚き、ある行動に出ますが……紆余曲折を経て、天命によってめでたく結ばれることとなります。
やがて宋城の県令がこの話を聞き、その宿を「定婚店」と名付けたのでした。ここで登場する冥界の老人が、縁結びの神・月下老人の原型と考えられるそうです。
縁結びの赤い糸
このように中国古典に登場する縁結びの “赤縄”は、日本にも故事として江戸時代に伝来しているそう。ちなみに。日本で江戸時代から近代以降まで使われていた「赤縄」が「赤い糸」とされた初出は、太宰治の小説「思い出」の一節から…という説もあるとか!
また、縁結びのお話しに由来する成語もありますが、仲人を意味する「月下氷人」は、この「月下老人」のお話しと『晋書 索紞伝』に登場する占い師「氷上人」のお話しに基づいて日本で作られた言葉、とされているそうです。これに対して、中国の故事成語「赤絲待選(娘のための婿えらび)」は、史書『開元天宝遺事』に載るお話しの中で、ある宰相が娘婿となる青年に、5人の娘の誰を娶るかを決めさせる時に、幕のむこうに控える娘たちにそれぞれ赤い糸(赤絲)を握らせて、そのうちの1本を青年に引かせて相手を決めたことが由来となっていて、これは、婚礼の日に新郎と新婦が赤い布の両端を持って自分たちの部屋に入るという唐代の結婚儀礼「栓紅線」の由来にもなったそうです。
「神様の赤い糸」© YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD.
台湾と日本の“月下老人”
ところ変わって、台湾でも縁結びの神様としてとても人気の高い月下老人。台湾においては民族神に分類されることが多く、そのいっぽうで道教の神様とされることもあるとか。
台湾の民間伝承では、月下老人は、毎年七夕に七娘媽(婦女と子供の守護神)が天上に進呈する未婚の男女の名簿をもらい、その人の性格や趣味によって縁組帳をまとめ、その後、男女を表す泥人形を作って、組み合わせた人形の足を赤い糸で結び、それを「配偶堂」に収める…という役目を務めるそう。男女の悪縁に関しては、ある年に雨降りが続いて泥人形が乾かず、焦った月下老人が、太陽が出るのを見計らって、泥人形を入れたり出したりしているうちに、壊れたりバラバラになってつないだ縁が修復できなくなり、仕方なく適当に決めた結果、悪縁や離婚が起こるようになった、というお話しもあるそうです。
そして日本にも、月下老人を祀った廟があります。横浜中華街の横浜媽祖廟に月下老人も祀られており、台南の大天后宮の協力を受けて、分霊もされているとのこと。こちらの月下老人は、恋愛や結婚だけでなく、仕事や人間関係、商売にも良縁をもたらすそう。ご興味がある方はお試しを。
「神様の赤い糸」© YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD.
【参考文献】
今村与志雄訳『唐宋伝奇集(下)』岩波書店
伊藤龍平 陳卉如著 『恋する赤い糸 日本と台湾の縁結び信仰』三弥井書店
Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。Cinem@rtにて「中国時代劇トリビア」「中国エンタメニュース」を連載中。『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『見るべき中国時代劇ドラマ』(ぴあ株式会社)『中国ドラマ・時代劇・スターがよくわかる』(コスミック出版)などにも執筆しています。
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発売・販売元 エスピーオー
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