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【インタビュー】『オマージュ』シン・スウォン監督 “男社会の中で映画を撮った女性たち”

私、日常の中にこんな面白いことがあったんだ


シン・スウォン監督 ©2021 TIFF


― 映画では、詩と影が印象的に使われていますね。特に影は映画にファンタジックな印象を与えています。

シン監督 私は映画にファンタジーの要素を入れるのが好きなんです。私自身ホン・ウノン監督にはお会いしたことはありませんが、彼女の姿を想像したとき、帽子を被りコートを着ているイメージが湧いてきました。実際にそういう写真は無いのですが、どうもそのイメージが浮かんできて。そして、ジワンの分身、影のような存在として映画に登場させるのはどうだろうと思ったんです。

一人で夜道を歩いていると影がついてきますよね、そんなとき影が友達だと思う時はありませんか? ジワンにとって、不安や寂しさを抱えている時に慰めてくれたり応援したりしてくれる、そんな影のような存在として彼女がそばにいてくれる、という設定にしたいと思いました。

詩に関しては、実際に私の息子が詩の図書館でアルバイトをしていたことがあり、よく詩を送ってくれたんです。映画でも、息子が詩と共に「お金をたくさん稼いで」と手紙を送ってくるシーンがありますが、私の息子もお金をたくさん稼いでねという意味で詩を送ってきて。これは映画に使えるなと思いました(笑)。

ただ、それはシナリオを書いているときに自然と思い浮かんだことです。詩が、過去やジワンの悩みを結び付けてくれる媒介の役割を果たしてくれるのではないかと思いました。詩も一つの小道具のような位置付けです。


『オマージュ』©2021 JUNE Film. All Rights Reserved


― 本作はテーマは軽くはありませんが、描き方は監督の過去作と比べてユーモラスで軽快な印象を受けました。劇場でも客席から何度も笑いが起きていましたが、今回そういったトーンを選ばれたのはどうしてでしょうか?

シン監督 実はこのシナリオを書いているとき、私自身いろんなことが上手くいかず、少し憂鬱な心境でした。なので、わざと深刻になって日常を真剣に書くより、水の流れに身を任せるように日常を書き綴るようにしました。私たちの日常は辛いこともありますが、ユーモアもあります。家族でケンカをしても時間がたてば冗談を言い合ったりするように。そうすると自然と物語にユーモラスな雰囲気が生まれたんです。

2010年に初めて撮った『レインボー』は私にとってユーモアの強い作品ではあったのですが、それ以降はかなり深刻な作品が続き、そして今回『オマージュ』に至りました。シナリオを書きながら、自分でも悲しい気持ちになったり、思わず笑ったりしていました。私、日常の中にこんな面白いことがあったんだ、と改めて気づかされたんです。

あとはジワンを演じたイ・ジョンウンさんの存在も大きいです。彼女が演じるとすごく可愛いですし、彼女自身もユーモアのある人なので、映画も一層ユーモラスになったと思います。ただ、私はイ・ジョンウンさんに「笑わせてください」とは言いませんでした。自然に演じてもらった結果、笑いがどんどん加わった形になりました。もしかしたらこの『オマージュ』は私の作品の中で最も笑える箇所が多い作品かもしれません。ただ、ある人は見終わった後にすごく悲しい気持ちになったという人もいます。

今回、せっかく東京で初めて上映されるのに現地に行けなかったことが本当に残念でした。この作品を観て笑ってくださる方達の姿を見たかった、見られたらどれだけ幸せだろうと思っていたので、上映時の様子をお伺いできて嬉しいです。


『オマージュ』©2021 JUNE Film. All Rights Reserved


― 上映中、場内はとても良い雰囲気だったと思います。また日本で上映される機会があればぜひお待ちしています! 
最後に、主人公のジワンのように夢や現実の間でもがきながら頑張っている女性に向けてメッセージをお願いします。


シン監督 私はこれまでずっと女性の映画を撮り続け、今回の『オマージュ』も女性が登場する映画です。女性はまだまだ男性中心の社会の中で疎外されているところがあると思います。大変なことはたくさんありますが、それでも今日こんな風にお会いして笑ってお話しできるだけでも、たくさんの力をいただいている気がします。

映画の中で、息子はジワンに「映画なんかやめろ」と言いますが、次第にジワンに「お金を稼いでこい」と言い、帽子を被ってダンスも見せてくれたりします。そんな日常の中から小さな癒しを感じることも凄く大切だと思うんです。COVID‑19の流行で辛い状況の中にあっても、日常の些細なことから何か楽しみを見つけて乗り越えてほしいと思います。

映画の最後にジワンが水泳をしているシーンがあります。最初は泳げなかったけど最後は泳げていますよね。うまく泳げてはいないけど、それでも彼女は泳げるようになりました。後ろ足でしっかりと水を弾いて、手をまっすぐ前に伸ばしてどんどん泳いで進んでいきます。そんな風に、この困難な状況を乗り越えて、皆さんに蝶のように羽ばたいてほしいと思っています。そして早くこの状況が収束してほしいと願っています。


Interviewer/ Text:
Cinem@rt編集部

『オマージュ(原題:오마주)』

第34回東京国際映画祭コンペティション部門にて上映
仕事に行き詰まった韓国の女性映画監督が映画の修復の仕事を依頼される。その作業は自国の女性映画監督が辿った苦難な道のりを明らかにする。『パラサイト』(19)のイ・ジョンウンが主演。(第34回東京国際映画祭HPより)
監督:シン・スウォン (신수원)
キャスト:イ・ジョンウン、クォン・ヘヒョ、タン・ジュンサン
108分/カラー&モノクロ/韓国語/日本語・英語字幕/2021年/韓国

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