【インタビュー】『オマージュ』シン・スウォン監督 “男社会の中で映画を撮った女性たち”
先日開催された第34回東京国際映画祭にて韓国映画『オマージュ(原題:오마주)』が上映されました。物語の主人公は、49歳の女性監督ジワン(イ・ジョンウン扮)。仕事も家庭も行き詰まった彼女は、『女判事』という映画の修復の仕事を引き受ける。その修復作業を通じ、一人の年老いた女性編集者と出会い……。
本作の監督を務めたのは、『レインボー』『ガラスの庭園』をはじめ、数多くの映画祭で高く評価されているシン・スウォン監督。上映後、シン・スウォン監督に最新作『オマージュ』についてお話を聞きました。
男社会の中で映画を撮った女性たち
― まずはこの物語を発想されたきっかけについて教えてください。主人公のジワンは49歳の女性監督、監督ご自身も同年代の女性監督ということで、ご自身の感情や経験がきっかけにあるのでしょうか?
シン・スウォン監督(以下、シン監督) 10年前にテレビのドキュメンタリーを手掛けた際、韓国の女性監督や編集技師の方にインタビューする機会がありました。その時にこの人たちをモチーフに映画を撮ってみたいと思ったんです。ただ、すぐにアイデアに取り掛かることはありませんでした。その後10年間映画を撮ってきて、なんだか虚しい気持ちを感じるようになりました。10年間、うまくいった作品もあれば、あまりうまくいかなかった作品もある。果たして自分はこれからも映画を撮り続けられるのだろうか、と。その矢先にこのアイデアを思い出したんです。
私は10年前に『レインボー』という作品を撮ったんですが、プロデューサーが「今度は『オーバー・ザ・レインボー』というタイトルで1本撮ったらどう?」と提案してくれて。今回の作品はそんな位置づけになるかもしれません。『オマージュ』というタイトルで私が10年前に取材した内容と今の私の姿を重ね合わせながらシナリオを書き始めました。
― 10年前にドキュメンタリーを撮られたとき、女性監督や編集技師の方々のどういったところに心を掴まれたのでしょうか?
シン監督 そのドキュメンタリーは過去の女性監督をモチーフにした20分ほどのもので、主に『オマージュ』にも登場するパク・ナモク監督、ホン・ウノン監督、そしてお二人の友達である編集技師の女性についてでした。この三人は実際にとても仲が良かったそうです。私は50~60年代にこんな立派な女性たちがいたことを初めて知り、彼女たちの存在だけでもう感動してしまいました。
監督のお一人はすでに故人に、もうお一人もアメリカ在住だったので直接お会いできず。唯一お会いできた編集技師の方が、当時のことをたくさん話してくださいました。女性が外に働きに行くことがほとんど無い時代に自由にカメラを持って撮影をしていた女性がいたこと。もちろん映画の現場も男社会です。メイクや衣裳担当には女性も若干いたそうですが、それ以外の女性スタッフはかなり少なかったと聞き、なおさら彼女たちの勇敢さを感じました。そして彼女たちが悩んできたこと、仕事や映画、子育てなど私も共感できる部分が多かったんです。
― 映画だけでなく現実の物語もとても興味深いです。劇中に登場する監督が実在の方ということですが、劇中に登場する映画『女判事』も実際にある作品なのでしょうか?
シン監督 そうなんです。映画では若干お名前を変えていますがホン・ウノン監督も実在の方ですし、『女判事』も実際にあった作品です。ホン・ウノン監督は『女判事』を含む3作を監督しましたが、ドキュメンタリーを撮った当時は3本ともプリントが失われており、とても残念に思いました。その後、『女判事』のプリントが発見され本作で使用できました。
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