韓国映画に求められる多様性―中国朝鮮族の描写から考える
中国朝鮮族とはどういう人たちか
中国朝鮮族とは現在中国に55ある少数民族のうちの1つであり、人々は中国国籍を保持している。2010年の中国政府の調査によると、約190万人が中国東北部(吉林省、遼寧省、黒龍江省など)に居住しており、その数は、韓国系アメリカ人に次ぎ朝鮮半島以外では二番目に多い、朝鮮民族のコミュニティーとされている。
彼らの歴史的背景にはよく、近代における日本の満洲国成立が深く関わっているとされているが、その他にも、19世紀半ば以降に飢きんや貧困を逃れて朝鮮半島から中国に移住してきた人々や、中には満州族の社会組織・軍事組織に取り組まれて清国の拡張に寄与した朝鮮人もいたと言われているため、我々の知る一般的なイメージよりも長い歴史があるようだ。
第二次世界大戦後の朝鮮独立、そして朝鮮戦争により多くの朝鮮人が祖国へと戻ることになったが、中国内に残留した人たちも多くいた。中国国籍と一定の自治権が付与された彼らは、朝鮮族と呼ばれるようになり、朝鮮民族としての文化や言語を保持することも可能になった。
ところが現代に入ると韓国では反共を国是としていたため中国との国交がなく、韓国と中国朝鮮族の人々との交流は、1985年の中国による中国朝鮮族の韓国への里帰り・親族訪問の許可を待たなくてはならなかった。
その後、1988年のソウル五輪開催を経て、1992年に中韓国交正常化があり、中国・黒龍江新聞によるとその過程で韓国に移り住んだ中国朝鮮族は2019年までに72万人を超えたという。これは韓国国内在住の外国人に占める割合で言うと、31%までに上る。
中国朝鮮族のイメージが歪曲された背景
しかし、いつしか中国朝鮮族の韓国訪問の目的は、中国では(当時)難しかった高収入が得られる経済的な成功になっていき、また、迎え入れる側の韓国にとっても、韓国人が避けつつあった3K(きつい・汚い・危険)仕事の担い手として歓迎されるようになった。
結果として出稼ぎのための場所として韓国が人気となり、高収入目的の不法滞在も増加。IMF危機下になった90年代後半には中国朝鮮族を狙った、韓国人による詐欺事件も頻発し社会問題化するなど、交流が深まったことで韓国人と韓国在住の中国朝鮮族との間には、様々な葛藤が生まれるようになった。
2007年に訪問就業制制度が導入され、労働者としてより多くの中国朝鮮族の人々が韓国に入ってくるようになると、その葛藤は決定的となる。それは主従関係として、韓国人が上で、中国朝鮮族が下であるという見方が、潜在的に定着することになってしまったからである。残念ながら、今も多くの韓国人の心の中にその意識があり、それが自然と差別感情に結びついてしまっているように感じることがある。
韓国では在外同胞に対して、時には都合よく韓国人であることを強調するが、それがネガティブな情報ともなれば、韓国人であることを徹底的に否定する傾向にある。
韓国ドラマや映画において、アメリカのパスポートも持つ在米韓国人を一種のエリートとして描く傾向が強いのもその影響の1つであり、実際社会でそれを自慢する人も少なくないのだ。その背景には、欧米優越主義がはびこる世界観、そして単一民族国家に住んでいるという意識の中で芽生える排他主義的思考があるからに違いない(その点では日本人の中にも同様の志向が存在するのではないだろうか)。
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