ネタバレあり「蓮花楼」ライター対談《後編》自分に残された力を何に使うのか
各ドラマアワード16冠達成の大ヒット時代劇「蓮花楼」のBlu-ray/DVD-BOX全巻発売を記念して、ライターの小酒真由子さん、林穂紅さんの対談を実施。「蓮花楼」にハマったお二人に、本作への愛を語っていただきましました。
※ネタバレあり※
中編・後編では、物語の重要な展開や結末に触れています。全話視聴されてから読まれることをお薦めします。
「四顧」といえば思い浮かぶのは李白の「行路難」
——「蓮花楼」の“へぇ~”な豆知識をご存じでしたら教えてください。
小酒真由子さん(以下、小酒) 私はブックレット(※1)に書いて、力尽きてしまったので……(笑)。ぜひそちらをご覧ください。
林穂紅さん(以下、林) では私からは「四顧門」について。「四顧門」って「四方を見渡す」の意味なので偉そうな名前なんですが(笑)、「四顧」といえば思い浮かぶのは李白の「行路難」だなって。剣を抜いて四方を見渡すと心は呆然としている、というまさに李相夷みたいな詩なんです。一部紹介させていただくと、
「行路難」
拔劍四顧心茫然(剣を抜いて四顧すれば心 茫然たり)
欲渡黄河冰塞川(黄河を渡らんと欲すれば氷 川を塞ぐ)
つまり、自分がどこかに行こうとすると必ず邪魔が入ってしまう、行くのは非常に難しいと。ただ、いつか必ず自分は海を渡る時がくるだろう、という詩なんです。だからこの「蓮花楼」の背景にあっているような気がして。もしかしたら名前を考える時にこの詩が頭によぎったのかもしれないなと。
小酒 中国時代劇では詩もよく登場するし、詩が元ネタになっていることも多いですよね。ドラマに詩が出てくるたびに、この詩はオリジナル? 出典は何? と気になってしまいます。
——お二人も視聴者の方も、詩の引用に気づけることが凄いです!
林 中国では小学校1年生の国語の教科書から必ず詩が載っていて。とにかく暗唱しなくちゃいけないから、皆覚えているんですよ。だから、詩の引用に自然と気がつく。日本でいうと「ああ松島や」みたいな感じですね。
小酒 ある程度は皆が分かることが前提ですよね、誰も気づけなかったら面白くないし。難しいのは、李白のこの詩が最初だとしても、そこから後世の人がどんどん引用していくから、結局どの詩が一番有名?どちらの詩を意識して使っている?というところ。
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——「山河令」でも小酒さんに解説の連載(※2)をしていただいたりしましたが、ドラマでは詩が引用されていることが多いですよね。
林 武侠らしさのひとつに、詩の引用があるんです。中国において“文”と“武”では、“文”が圧倒的に偉い。だから武人だとしても、武だけではなく文の要素、つまり教養がないといけない。ほかにも、作中には言葉遊びがたくさんあるんですよ。例えば、冒頭で方多病が使う偽名「袁健康」。「多病」と「健康」だけでなく、実は苗字もそうで、四角いという意味の「方」に対して「袁」(「圓(丸い)と音が同じ)。だから「四角い多病」で「丸い健康」とか。あと「揚州慢」と「蘇州快」も、「慢=遅い」と「快=早い」。
小酒 字幕翻訳者泣かせですよね。
——観ていて疑問だったのですが、李蓮花が方多病を「小宝」と呼ぶのはなぜですか?
小酒 あれは愛称のようなものですよね。親が子供を「宝宝(バオバオ)」って呼んだりしますし。
林 そうそう。「宝宝」は、「赤ちゃん」という意味なんです、自分の可愛い宝。李蓮花は「小宝」を、周りに甘やかされているねんねちゃん、「坊ちゃん」というニュアンスで呼んでいるのかな。
小酒 あの年齢の青年に言うにはちょっと可愛すぎる呼び方ですよね(笑)。
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自分に残された力を何に使うのか
——せっかくなので最終話についてもお伺いしたいです。あの終わり方はどう感じられましたか?
小酒 人によって好みはあると思いますが、私はあの終わり方でよかったと思いました。生きているか死んでいるか分からないけど彼は姿を消した、という余韻が好きで。私は、笛飛声はあれから毎年あの日にあの岩場で李蓮花を待っている…と妄想しています。
林 私は39話と40話の間で、更にステージが上がったような気がしました。40話の、自分に残された力を何に使うのかというのが、李蓮花らしい人生のしまい方というか。だから、雲彼丘は非常に大事な役だったなと。自分が持っている力を全て分け与えていく、そこで李蓮花の人生としては最大に円満に終わっている。だから最後に肖紫衿に会ったことも、こちらとしては「余計なことを!」と思うんですが、あそこで剣を折ったのは李蓮花にとっては大切なことだった。だから、すごく納得感がありました。でも…こんな納得感はいらないから、方多病・笛飛声と3人で仲良く釣りとかしてて!という気もします(笑)。
小酒 確かにそういう意味では、この物語はロジックとしては美しく完結していますよね。
林 この作品が非常に高評価だったというのは、よくわかる気がします。全体的に見たときに、今までにないものを感じました。
——最終回の切なさで胸が苦しかったのですが、お二人の話を聞いて落ちついてきました。
林 でも、最後ははっきりしていませんもんね。また何かあるかもしれませんよ。
小酒 そうですよ。ある意味オープンエンドなので。
林 番外編もよかったですよね。
小酒 昨今の番外編の中でもかなり秀逸だったと思います。
——番外編は「蓮花楼」Blu-ray/DVD-BOX 3に収録されているので、気になる方はぜひそちらをご覧ください!
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林 宣伝抜きに、封入特典のブックレットは本当にすごいです。知りたいことが全部載っていて。あと、「蓮花楼」は前半も面白いですが、後半が更に面白いので、前半でハマれなかった方も見続けて欲しいです。
小酒 どんどん見続けた方がいいですよね。しかも見続けたときに、前半のちょっとしたことが繋がっていく。私も、あれ?!って前に戻って見返したところがたくさんあります。
林 繰り返し、繰り返し見たくなる作品ですよね。
小酒 そうですね。Blu-ray/DVD-BOXなら、いつでもどこからでも見返せます! と私からもPRしておきます(笑)。初回限定特典のアクスタも可愛い! 私自身、どう飾ろうかなと楽しみにしてます。
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※1 ブックレット
小酒真由子さんが執筆した、「蓮花楼」Blu-ray/DVD-BOX1~3の永久封入特典のブックレット。作品情報だけでなく、キャラクター紹介に作品をより深く知るためのコラム、それぞれの事件の主要人物などが掲載されている。
※2 解説の連載
「連載「山河令」の台詞を読み解く」のこと。「山河令」の台詞に引用されている漢詩や故事と、そこに隠された意味を紹介した連載。
https://www.cinemart.co.jp/tag/%E3%80%8C%E5%B1%B1%E6%B2%B3%E4%BB%A4%E3%80%8D%E3%81%AE%E5%8F%B0%E8%A9%9E%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%81%BF%E8%A7%A3%E3%81%8F
映画界・出版界での会社勤めを経てフリーライターに。『月刊スカパー!』などの雑誌、『見るべき中国時代劇ドラマ』『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』『華流ドラマガイド』などのムックのほか、Cinem@rtにて「『山河令』の台詞を読み解く」「アジアドラマの処方箋」などを執筆。
林穂紅
中華圏ロックの対訳や音楽誌への寄稿を中心に活動後、OSTの仕事をきっかけに中華ドラマの字幕翻訳に従事。編著に『チャイニーズ・ポップスのすべて』(音楽之友社)、記事執筆に『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)、『見るべき中国時代劇ドラマ』(ぴあ株式会社)など。
セルBlu-ray/DVD:全3BOX 好評発売中(各BD19,800円・DVD16,500円 税込)
レンタルDVD:全20巻レンタル中
発売・販売元:エスピーオー
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https://www.spoinc.jp/official/renkaro/
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