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インタビュー|『ボストン1947』カン・ジェギュ監督 “作品の勝敗を決める一番の人物は……”

ベルリンで止まった時間を動かすために、祖国への想いを胸に命がけのレースに挑む真実に基づく衝撃と感動のヒューマンエンターテインメント『ボストン1947』が8月30日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート心斎橋ほか全国公開。

公開に先駆け、先日来日したカン・ジェギュ監督に最新作『ボストン1947』について話を聞いた。



カン・ジェギュ監督 © 2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CONTENT ZIO Inc. & B.A. ENTERTAINMENT & BIG PICTURE All Rights Reserved

——韓国でのインタビューで「本格的なマラソン映画を撮ってみたかった」とお話しされていたのを拝読しました。2011年の『マイウェイ 12,000キロの真実』でマラソン選手を夢見る青年を描き、最新作『ボストン1947』でついにマラソン選手の物語を描かれましたが、カン・ジェギュ監督の考える“マラソン映画の魅力”はなんでしょうか?

カン・ジェギュ監督 マラソンや走る競技に対し、私が映画的な魅力を感じる様になったのは、映画『炎のランナー』がきっかけでした。『炎のランナー』を観て、何の道具も使わずに、ただ人間が走るという行為だけで成立するスポーツが、なんて魅力的でかっこいいんだろうと感じました。走ることは、人間の原初的な姿であり、とても人間的でもある。またマラソンは選手個人の内面との戦いでもある競技だと思います。また42.195キロという長さも、まるで人生のようにも思える。そういったことからマラソンの魅力にはまっていきました。


—— 本作のマラソンシーン、特に最後のボストンマラソンは、観ていて本当に胸が熱くなりました。“走る”というとてもシンプルな動きをここまでドラマチックに描く、その演出の秘訣を教えてください。

カン・ジェギュ監督 私はいままで2本の戦争映画を撮りました。戦争映画にはもちろん戦闘シーンがありますよね。戦闘シーンでは自軍と敵軍が互いに殺しあうことが表現されるわけですが、そこには戦うアクションだけがあるわけではなく、必ずドラマも存在しています。そのドラマが面白いと、戦闘シーンがいくら長くても飽きることなく作品を楽しめるし、逆にドラマが面白くないとシーンがいくら短くてもすぐに飽きてしまうと思うんです。マラソンシーンでもそれは同じです。ただライバルと競争する、1位を目指して走る、だけで終わっていたら面白くはありません。すべてに起承転結があり、戦争映画でさえドラマがあれば楽しめる。本作においても最後の20分近い時間、ボストンマラソンのシーンをちゃんとドラマ的に面白く表現すれば、観客は飽きることなく楽しめるだろうと考えて映画の構成を作っていきました。


—— ソ・ユンボク役のイム・シワンさんの演技や走る姿が素晴らしかったです。彼を演出する際に意識していたことはありますか?

カン・ジェギュ監督 まず本作に入る前に、この作品の勝敗を決める一番の人物は“ソ・ユンボク”だと最初から考えていました。ですから、イム・シワンさんには完全にソ・ユンボク化、つまりマラソンランナーになってもらわなくてはいけない、と。「イム・シワンがマラソンランナーに見えないとこの映画は失敗する」ということを彼にも伝えていましたし、強調していたところでもありました。彼もそのことを十分に理解していて、撮影に入る3か月前から厳しい訓練を受けていましたし、体格もマラソンランナーに見えるように作り上げてくれました。また、事前準備だけでなく撮影が終わるまで、その体格を維持するために食事制限などを続け、体重を維持してくれました。それは数か月で終わる事ではなく準備期間をいれると1年近くになります。その努力は本当に凄いです。彼のおかげで良い作品、良い結果が得られたと思っています。


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—— ソン・ギジョン役のハ・ジョンウさんがインタビューで「実在の人物に悪影響をもたらすことなく、映画的にどう表現したらよいかについて監督と意見を交わしました」とお話しされていたのですが、具体的にどのようなことをお話しされたのでしょうか?

カン・ジェギュ監督 韓国において“ソン・ギジョン”という人物は本当に大きな存在です。演じるハ・ジョンウさんにとっても、プレッシャーは大きかったと思います。彼は彼なりにソン・ギジョンさんのことを調べて分析したと思いますし、私も私で事前にいろいろな事を調べて分析をしました。なので、私とハ・ジョンウさんで「私が知っているソン・ギジョンさんはこういう人だと思う。君が知っているソン・ギジョンさんはどんな人か?」と、お互いに自分の考えや知っていることを話し、食い違いが無いようにしました。そういう対話を経て、彼の中でソン・ギジョンさんの人物像がある程度定まっていったのかなと思いますし、演技の助けにもなったのかもしれません。恐らく一人で考えて判断していたら偏った表現になっていたかもしれませんね。そういうことを心配して、彼は私といろいろな事を話してくれたんだと思います。


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—— 最後に、日本の観客に向けて、メッセージをお願い致します。

カン・ジェギュ監督 どんな時代でも、自分が生きる今は全てが順調で幸せだ、と思える時代はほぼ無いんじゃないでしょうか。現代を生きる人たちも、自分が生きている今はどうしてこんなに辛く大変なのか、と思いながら生きていると思います。そんな皆さんも一度、1947年という時代にタイムトラベルしてみてほしいです。当時、今とは比べ物にならないほど大変な時代に、当時の若者たちはいったい何を夢見て、何に向かって走っていたのかということを考えてほしいと思います。そうすれば、皆さんの未来への少し助けになるかもしれません。そういった意味でも、ぜひこの『ボストン1947』という映画をご覧いただきたいと思います。


『ボストン1947』
『ボストン1947』ポスタービジュアル

2024年8月30日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート心斎橋ほか全国公開

2023年/韓国/108分/スコープ/5.1ch/日本語字幕:根本理恵/G/原題:1947 보스톤/配給:ショウゲート
https://1947boston.jp/
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