インタビュー|『ニューノーマル』チョン・ボムシク監督 “ホラー映画がつまらなくなるほど現実の恐怖が大きくなった世界”
チェ・ジウ7年ぶりのスクリーン復帰作となり、共演にミンホ(SHINee)、P.O(Block B)ら豪華キャストを迎えた、『コンジアム』のチョン・ボムシク監督最新作、映画『ニューノーマル』が8月16日(金)新宿ピカデリーほかにて全国公開。
公開に先駆け、チョン・ボムシク監督に最新作『ニューノーマル』、そして監督と映画について話を聞いた。
チョン・ボムシク監督
ホラー映画がつまらなく感じるほど、現実の恐怖が大きくなった世界を描きたかった
—— 心霊現象による恐怖を描いた前作『コンジアム』とは違い、本作『ニューノーマル』では人間の恐ろしさが描かれますね。
チョン監督 私たちが住んでいる世界では、道を歩いていると見知らぬ人がナイフを振り回したり、車が歩道に突っ込んで来て通行人を突き飛ばしたり、不必要な戦争で多くの人が死んでいる恐ろしいことが平気で起こります。安全で快適な日常が、一瞬にして死の恐怖に変わるかもしれない時代になってしまったのです。
『コンジアム』で正体不明の超自然的な現象がもたらす恐怖を扱ったのに対し、『ニューノーマル』では、悪霊や超自然的な現象を扱ったホラー映画がつまらなく感じるほど、現実の恐怖が大きくなった世界を描きたかったのです。
—— 今までもホラー映画を何作も手掛けられていますが、チョン監督が“恐怖を描くこと”に惹かれる理由は?
チョン監督 映画には、シナリオや俳優の力で引っ張っていくような作品がありますが、一方で、ホラー映画のように視覚的・聴覚的なことを細部まで設計し観客の呼吸をコントロールすることで、人が持つ原始的な感性を引っ張りだしてしまうような作品もあります。
ホラー映画をつくるとき、監督は演出だけでなく全てを設計しなくてはいけないし、より多くの仕事が必要になります。私はそこに凄く魅力を感じているので、ホラー映画をつくることが楽しいです。
—— 本作でも細部まで監督のこだわりが感じられます。音楽やロケーションについてはよく触れられていますが、照明や美術などの色彩もとても印象的ですよね。
チョン監督 そうですね。私は、これまでの映画と差別化させたいという気持ちがあり、その第一の原則として色を考えていました。
韓国映画はヨーロッパの作品と違って色を多用しないんです。韓国に来たことのある方はわかると思いますが、韓国は街を見渡しても色がない印象があります。もちろん無色なわけではありませんが、明るい灰色や濃い灰色が多いので、屋外で撮影すると色彩の鮮やかさをあまり感じません。かたやヨーロッパに行くと、建物に様々な色が使われていますよね。あらゆる色を建物に塗っているんじゃないかと思うぐらい。
映画においても、韓国は映画の中にそういった多様な色を使うことを避ける傾向があると思います。色彩豊かにしたいとスタッフに相談しても、彼らはそれが上手く活かされなければ良くない結果につながりやすいと考えるようで、止められることも多いんです。
でも、それでは他の作品とは差別化できないと感じていたので、美術や照明においても多様な色をふんだんに使うようにしました。例えば人物の感情を表現するときや置かれている状況を強調するときなどは、できるだけ様々な色を使うようにしましたね。
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私の映画作りは、「こういう映画はこうでなければならない」という偏見との戦い
—— 本作は、恐怖を感じつつも、笑ってしまったり、切なくなってしまったり。「ホラー」と一言では表現できない不思議な新しさを感じましたが、ジャンルの垣根を超えていくことは意識されていたのでしょうか?
チョン監督 私の映画作りは、「こういう映画はこうでなければならない」という偏見との戦いだと思っていて。私は作品を作る上で、常に自由に境界を越えていくことを大切にしています。
—— 監督がそう考えるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
チョン監督 もともと私は映画が大好きなシネフィルです。1895年に映画が誕生してから今年で129年になりますが、その間、変わらないものもあれば変わっていかないと観客に飽きられてしまうものもあると思います。大切な部分は守りながら、他の部分では変化させていくことが現代の映画の作り手の役割だとも思っているんです。それは、ジャンル映画における守らなければならない規則やクリシェでもそうです。ですから、常に守るべきものは何なのか、変化させた方がいいものは何なのかを意識しながら作品を作っています。
—— 常に変化を意識されてきたチョン監督ですが、逆にチョン監督にとって変わらないもの、変えたくないものは?
チョン監督 これは難しい質問ですね。私は映画をつくる人間でもありますが、いまだに映画を勉強している映画人でもあると思っています。何か真似しようとするときに、これでいいのだろうかと疑ってみること、そして必ず一度は出発点に立ってみる、ということを心がけています。
——お話をお伺いしていると、チョン監督は本当に映画がお好きなのだなと感じます。本作でも、各エピソードに映画のタイトルがついていますね。
チョン監督 あれは古典的なサスペンス映画と私の好きな映画への一種のオマージュです。
——チョン監督が映画を好きになったきっかけは何だったのでしょうか?
チョン監督 中学2年生の時、よく映画館に映画を観に行っていました。当時のソウルの映画館は、今と違って一度入ればずっと映画を観ていることができました。なので、同じ映画をそのまま2、3回観たり、2本立てなら2回ずつ観たり。映画館を出てからも、観た映画をもう一度思い出しては最初のカットはどんなカットだったか、次のシーンとどう繋がっていたかを思い出して反芻していたんです。当時は配信もありませんし、簡単に映画を観られる環境ではありませんから、観た映画を頭の中で繰り返し思い出して考えることが凄く楽しかったんです。個人的な話にはなりますが、当時は家庭が苦しい状況でもあったので、現実から目を逸らすことができる映画がなおさら好きになって、どんどん映画にのめり込んでいきました。
——当時、お好きだった監督はいらっしゃいますか?
チョン監督 私が映画に夢中になり始めたのは1980年代の半ばで、そのころはジャッキー・チェンとスティーブン・スピルバーグ監督の時代でした。おそらく無意識に、あるいは意識的に、私が映画をつくるときの映画のリズムや呼吸、世の中をみる観点というものは、そういった作品から見習っているところがあると思います。
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3回説得した末に出演OKをもらった
——本作のキャストは、チェ・ジウさんやミンホさんをはじめ、今までホラーのイメージが無かったような方が多いですね。
チョン監督 今回の作品『ニューノーマル』では、前作よりもキャスティングと俳優の組み合わせにかなり気を使いました。予想外だけど気になるキャスティング、当たり前の組み合わせではなく、新鮮な組み合わせを作り出すために本当に苦労しました。その結果が今のキャストです。
——特にチェ・ジウさんは、日本人が抱く彼女のイメージとは全く違うキャラクターに驚きました。 チェ・ジウさんにオファーした際、最初は「自信がない」というお返事だったと聞きましたが、その後、彼女が出演を決意したのは何が理由だったと思いますか?
チョン監督 3回も説得した末に「じゃあ、監督を信じてやります」という答えをもらいました。とてもありがたかったです。後日聞いた話ですが、私のデビュー作である『1942奇談』を印象深くご覧になったそうです。
——ほかにも印象的なキャストはたくさんいらっしゃいますが、イ・ドンギュさんのインパクトも強かったです。
チョン監督 イ・ドンギュさんは、私のデビュー作『1942奇談』の時から、多くの作品を共にした本当に親しい仲です。 当時、俳優を辞めようと考えていたイ・ドンギュさんにこの役を依頼して、彼が20代の頃に悪役で印象的な演技をした『ワイルドカード』のパクチギ(犯罪者)役を復活させました。これはイ・ドンギュさんへのプレゼントでした。嬉しいことに、『ニューノーマル』以降、イ・ドンギュさんは俳優活動を再開されたんです。
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ジャンルを超えて絡み合う面白いストーリーを存分に楽しんで
——チョン監督がいま関心を寄せているテーマがあれば教えてください。
チョン監督 ホラーをベースにした映画やドラマのお話は頂いているのですが、いま私が関心をもって取り組んでいることは、日本の古典怪談を原作とした、日本の俳優が出演するホラー時代劇の脚本執筆です。
——とても楽しみです!いつ頃、観られそうでしょうか?
チョン監督 ハハハ、私も早く観たいです(笑)。
—— 最後に、これから『ニューノーマル』をご覧になる日本の観客にみどころを教えてください。
チョン監督 スリラーやホラーだからこうだろうと決めつけないでください。映画館までお越しいただいて6人の俳優の熱演と、ジャンルを超えて絡み合う面白いストーリーを存分に楽しんでいただければと思います。
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聞き手:Cinemart編集部
2024年8月16日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
2023年/韓国/韓国語5.1ch/113分
原題:뉴 노멀(英題:NEW NORMAL)/字幕翻訳:根本理恵
提供:AMGエンタテインメント/ストリームメディアコーポレーション
配給:AMGエンタテインメント
©2023 UNPA STUDIOS.ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト: https://newnormal-movie.jp/
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