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金馬奨 取材こぼれ話。フェアウェルパーティと豪華スターたち|台湾エンタメ通信・番外編

国父記念館のレッドカーペット会場
台湾・国父記念館のレッドカーペット会場

中華圏最大の映画賞「金馬奨」は、今年で60回という記念の年を迎えた。金馬奨については「金馬奨ってどんな賞?」前後編で詳しく説明されているのでそちらをご覧いただくとして、ここでは実際に取材に行った現場の模様などをお伝えする。

金馬奨 取材こぼれ話

11月25日に国父記念館で行われる授賞式の前日、恒例のノミネート者に証書が授与されるパーティが開催される。ここではアウト・オブ・コンペの観客賞と国際評論家賞の発表も行われ、今年は観客賞が香港の『年少日記』、国際評論家賞も香港の『離れていても(原題:但願人長久)』にトロフィーが贈られた。

ニック・チェク監督
観客賞『年少日記』(香港)ニック・チェク(卓亦謙)監督
撮影:アジアンパラダイス

サーシャ・チョク監督
国際評論家賞『離れていても』(香港)サーシャ・チョク(祝紫嫣)監督
撮影:アジアンパラダイス

こちらは台北のマンダリンホテルの宴会場を使って行われ、ノミネート者の皆さんは円卓で豪華な料理を召し上がりながら進行するのだが、どんなものかは我々メディアは見ることができない。メディアは事前に申請して審査を通った者だけが、同じフロアの宴会場をプレスセンターに設えたところで待機する。そして、普段足を踏み入れる機会がほとんどないラグジュアリーホテルの美味しいお弁当が振る舞われるのだ。

マンダリンホテルのメディア用弁当
マンダリンホテルのメディア用弁当
撮影:アジアンパラダイス

プレスセンターにはまず上記2つの賞の受賞者がトロフィーを持って登壇し、写真撮影が行われ、スピーチや短いQ&Aを実施。そして、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、新人賞、新人監督賞、監督賞にノミネートされた俳優と監督が順に登壇する。皆さん授賞式よりもややラフな服装が多いが、女優さんたちはプレ授賞式ということで素敵なドレス姿を披露。

主演女優賞ノミネート者
主演女優賞ノミネート者
左からジェニファー・ユー(余香凝)、オードリー・リン(林品彤)、ルー・シャオフェン(陸小芬)、フー・リン(胡伶)、チュン・セッイン(鍾雪瑩)
撮影:アジアンパラダイス

今年は主演男優賞が全員台湾の俳優なので、一番の盛り上がりを見せた。『僕と幽霊が家族になった件(原題:關於我和鬼變成家人的那件事)』のグレッグ・ハン(許光漢)とリン・ボーホン(林柏宏)、『疫起/エピデミック(原題:疫起)』のワン・ボージエ(王柏傑)、『周處除三害』のイーサン・ルアン(阮經天)、そして唯一マレーシア映画『アバンとアディ(原題:富都青年)』でウー・カンレン(呉慷仁)という顔ぶれ。 5人がステージに上がると、その並び順でみんながわちゃわちゃと譲り合うのがおもしろい。これが日本だと事前に登壇順も並び順も決まっているのだが、その辺が台湾らしいゆるさ。まぁ、だいたいの場合一番キャリアが長いとか年長者がセンターポジションとなるので、他の3人がウー・カンレンとイーサン・ルアンにセンターを譲るが、どちらも同い年。しかも誕生日が近く、たまたまこの日11月24日に41才を迎えたウー・カンレンが、11月8日生まれのイーサン・ルアンを中央に誘い決着となった。

主演男優賞ノミネート者
主演男優賞ノミネート者
左からリン・ボーホン、ウー・カンレン、イーサン・ルアン、ワン・ボージエ、グレッグ・ハン
撮影:アジアンパラダイス

エアトロフィーを回す5人
エアトロフィーを回す5人。並び順は同上
撮影:アジアンパラダイス

ちなみに、キャリアでいうとワン・ボージエもこの2人と同時期デビューなのだが、まだ34才だ。最初から両側の端に立ったリン・ボーホンとグレッグ・ハンにしても35才と33才で、つくづく“フレッシュな若手”と紹介してきた彼らがすっかり台湾映画界の中核を担う存在となったことが感慨深い。

リン・ボーホン、グレッグ・ハン
『僕と幽霊が家族になった件』でダブルノミネートのツーショット。左からリン・ボーホン、グレッグ・ハン
撮影:アジアンパラダイス


授賞式のあと、フェアウェルパーティで……

さて、11月25日の金馬奨当日。レッドカーペットと授賞式の模様はアジアンパラダイスに記事を掲載したので、そちらをご覧いただき、ここでは、"授賞式のあと"の話をしたい。

授賞式が終わるのは、例年日付けが変わった頃で、その後に金馬奨が主催するフェアウェルパーティが行われる。これは基本的にはメディアは呼ばれない。しかし、行ったら入れてくれる。このパーティでは授賞式に参加した映画人たちが顔を出し、交流する様子が見られたり、人によってはお願いすれば取材を受けてくれることもある。

かつては必ずここに行って煌びやかなスターや監督達の写真を撮ったり、お祝いに加えてちょっぴり話をしたりしていた。

チャン・チェン、スー・チー、ホウ・シャオシェン監督
2005年の金馬フェアウェルパーティでシャンパンタワー
左からチャン・チェン(張震)、スー・チー(舒淇)、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督
撮影:アジアンパラダイス

しかし、ここに長い時間滞留する人はいない。何故かと言うと、さらにその後、各作品ごとの祝勝会や残念会があるのだ。これも公表はされていないが、なんとなく情報は共有されるというのが、台湾あるある。

大勝した作品の主催側は、翌日のニュースに取り上げてもらいたいので、メディアに声がけをしていることが多い。私もかつて配給会社や制作会社の知り合いが誘ってくれたりするので、いくつかの会場を回っていた。しかし今年はもう深夜まで動き回る体力もないので最初から行く予定はなく、授賞式が終わったら即ホテルへ戻ったので、過去の例を少しお伝えしよう。

いつだったか忘れたが、チェン・ボーリン(陳柏霖)とグイ・ルンメイ(桂綸鎂)が仲良くお喋りして、靴を取り替えっこして履いてみたりするという、おとなになっても『藍色夏恋』のままの可愛らしさを目撃した。そして、アン・リー(李安)監督が現れると二人ともビシッと姿勢を正していたのが、まるで中学生のようだった。

2009年の『あなたなしでは生きていけない(原題:不能沒有你)』が金馬奨を総ナメした時、ダイ・リーレン(戴立忍)がパーティの合間にお店のバルコニーでインタビューを受けてくれたこともある。本当に、ジェントルマンで優しい人なのだ。

ダイ・リーレン
2009年『あなたなしでは生きていけない』で大勝利したダイ・リーレン
撮影:アジアンパラダイス

ひとつも受賞できなかったので作品名は控えるが、事前に監督からパーティに呼ばれていたので、どうしようか迷ったあげく顔を出したら、スタッフとキャストが黙々と鍋をつついていた。なんと言葉をかけて良いやらわからず、気まずい思いで早々に退散したことも忘れられない。

2014年の『KANO 1931海の向こうの甲子園(原題:KANO)』は、私自身が製作スタッフだったので、ほかのパーティには行かず、こちらの会場へ直行。みんなとワイワイやっていたら、顔見知りのカメラマンたちから普段はメディア側にいるからだろう、とても不思議な目で見られた。

『KANO』祝賀会場の様子
2014年『KANO 1931海の向こうの甲子園』屋外の駐車場に紅白の幕を張って設営された祝賀会場。台湾ならではの赤いプラ椅子
撮影:アジアンパラダイス

このようにだいたい明け方まであちこちでパーティが行われ、そこで拾ったコメントが翌日の新聞やテレビのニュースを賑わす。今年は以前金馬奨の主席も務めたアン・リー監督が、審査委員長でありながら、今年の主席リー・ビンビン(李屏賓)と共に各作品のパーティー会場10箇所に赴き、朝5時まで受賞者を祝い、ノミネート者にねぎらいの言葉をかけて回ったそうだ。そして主演男優賞のウー・カンレンに「素晴らしい、台湾にもあなたのような俳優がいる!」と声をかけたといううれしいニュースがあった。

今回の受賞作のいくつかがこの授賞式の前後に台湾で公開になり、どれも好調のようだ。特に主演男優賞を獲得したウー・カンレンの『アバンとアディ』はマレーシア映画だが、12月1日の初日から3日間で1500万元(約7000万円)という興行収入をあげ、この週のトップとなっている。

良い映画、優れた演技が、賞だけでなく興行成績にも反映する台湾。観客が確かな目を持つのは、金馬奨の功績であることは言うまでもない。


Text:江口洋子(台湾映画コーディネーター)

民放ラジオ局で映画情報番組やアジアのエンタメ番組を制作し、2010年より2013年まで語学留学を兼ねて台北に在住。現在は拠点を東京に戻し、東京と台北を行ったり来たりしながら映画・映像、イベント、取材のコーディネート、記者、ライターなどで活動。2012年から台湾映画『KANO〜1931海の向こうの甲子園〜』の製作スタッフをつとめた。2016年から台湾文化センターとの共催で年8回の台湾映画上映&トークイベントを実施。毎回瞬時に満席となる人気。
アジアンパラダイス http://www.asianparadise.net/
Twitter @jyangzi



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