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日本における華流の軌跡《後編》

雑誌『和華』コラボ企画!
毎号1つのテーマを徹底的の掘り下げ、日中文化の魅力を再発見する雑誌『和華』。Cinem@rtでは『和華』の注目記事をご紹介! 今回は中国ドラマファン必読!「華流」がテーマの最新号(38号)より注目記事をお届けします。
『和華』HP:https://visitasia.co.jp/waka/


文/如月 隼人 写真/CNSphoto

日本では1980年代にカンフー映画やアクション映画など香港映画が大流行し、1988 年にチャン・イーモウ監督の『紅いコーリャン』が紹介された。やがて日本のエンタメ業界ではコンテンツ不足を解消するためBS やCSで中国の歴史・宮廷ドラマが増え始め、特に2013 年の「宮廷の諍い女」が反響を呼んだ。ここでは1960年代から現在までの日本での華流の軌跡をまとめた。



90 年代に「本格テイクオフ」した中国ドラマ

無錫影視基地
写真/CNSphoto

 1980年代には、香港で制作されたドラマが、大陸でも放送されて人気を呼ぶ現象も発生した。「上海灘」(1980)は1985年に大陸での放送が始まった。この作品の続編で2007年1月に放送が始まった「新上海灘」は異例の高視聴率を獲得し、日本でも地上波放送された。「射雕英雄伝」(1983)も香港で制作され、大陸でも人気を呼んだ。同作品は金庸の原作による「武侠もの」で、その後もリメイク版が何度か制作された。

 しかし、中国ドラマが本格的に「テイクオフ」したのは、1990年代だったと言ってよい。「三国志」(1994)、「水滸伝」(1998)はいずれも、古典的な歴史物語が原作であり、「三国志」は、戦闘シーンで人民解放軍の兵士10 万人がエキストラとして出演し、「水滸伝」では巨大なオープンセットが、後に「水滸伝パーク」というテーマパークになった。また、中国で絶大な人気を得たドラマ「還珠姫 〜プリンセスのつくりかた〜」が日本で放送された。

 「渴望」(1990)は、文化大革命期とその後の中国人の運命を描いた「現代ドラマ」だ。90年代にはその他、「雍正王朝」(1999)、「過把癮」(1994)、「北京人在紐約」(ニューヨークの北京人、1994)などの作品もヒットした。「北京人在紐約」は米国で暮らすことになった中国人の夢と現実を描いた。留学ブームが発生していた時期の作品で、海外での生活への関心を反映させた。


韓流のように爆発的ではなく、じわじわと浸透


「永遠の桃花~三生三世~」©2017 Shanghai GCOO Entertainment Co., Ltd

 アジア発のテレビドラマとして日本で先行したのは韓流ドラマだった。NHK が放送した「冬のソナタ」の大ヒットがきっかけだった。中国大陸のドラマは香港ドラマや台湾ドラマと共に華流ドラマなどと呼ばれるようになった。一定数のファンはいたが、韓流のように「爆発的」にヒットする現象は発生しなかった。

 しかし中国ドラマは着実に「進化」を続けていた。その背景にあったのは中国経済が高度成長を続けたことだ。ドラマの制作費は巨額になっていった。各番組の制作についての具体的な予算規模は不明だが、中国政府は2020年に、テレビ放送やネット配信用のドラマについて、1 話当たりの製作予算を400万元(約7800万円)以下に抑えることを推奨した。このことは逆に、それ以上の予算を投じる作品が多い状態だったことを意味する。

 ちなみに日本では2019年ごろの状況で、NHKの大河ドラマなどは例外として、民放キー局のドラマ制作は1 話当たり2000万〜3000 万円程度だったとされる。中国のドラマ業界は、日本のドラマでは見ることのできない「ゴージャスな世界」を出現させる能力を獲得した。

 日本のテレビ業界が中国ドラマに強い関心を持つようになったきっかけは、BS の開始だったという。チャ ンネルの増設にともない業界はコンテンツ不足に悩ん だからだ。業界側はよい作品を懸命に探し続けた。

 2000 年を過ぎると、中国で「歴史もの」あるいは「古装玄幻仙侠劇」として《尋秦記》(2001)、《大明宮詞》(2000)など様々な作品が作られるようになる。日本では2010 年ごろから放送される作品が増えてきた。「琅琊榜 ~麒麟の才子、風雲起こす~」(原題《瑯琊榜》、2015)、ファンタジー系の「永遠の桃花~三生三世~」(原題《三生三世十里桃花》、2017)、宮廷系の「宮廷の諍い女」(原題《甄嬛伝》、2011)、「宮廷女官 若曦(ジャクギ)」(原題《歩歩驚心》、2018)、「瓔珞<エイラク>〜紫禁城に燃ゆる襲の王妃〜」(原題《延禧攻略》、2018)、「如懿伝~紫禁城に散る宿命の王妃~」(原題《如懿傳》、2018)などがヒットした。

 一方、日本の漫画『花より男子』が「流星花園~花より男子~」として台湾でドラマ化されたのは 2001 年だった。さらに中国大陸でも「流星花園2018」の題名でリメイクされ話題になった。『花より男子』は韓国やタイでも実写ドラマが制作されており、日本漫画のアジアでの人気の高さがうかがえる。


ネットの発達が日本での人気の“強力ブースター” に


「山河令」©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.

 2005年頃からは、中国ドラマがインターネットで配信されることも増えた。ファンが作品に接するチャンスは格段に拡大した。知人から教わった作品を視聴することも容易になった。

 中国ドラマ人気には、SNS の普及も大いに貢献している。ファンがグループを作って盛んに情報交換をしている。中華カルチャーに詳しく、ドラマ関係の翻訳のほか中華エンタメ記事を多く執筆しているライターの沢井メグさんによると、「SNS やメディアで『中国ドラマあるある』『エンタメで覚える中国語』などの紹介をしていますが、読者からたくさんの反応をいただくようになりました」とのことだ。

 かつては、中国ドラマに興味を持っても、かなり腰を据えて情報を取りにいかねばならなかった。今では情報を得るための苦労は大幅に軽減した。一方では、質の高い中国ドラマが増えた。日本での中国ドラマの人気の高まりは、「作品の質の向上」と「情報収集の利便化」の二つの車輪の相乗効果であるようだ。

『和華』第38号
『和華』表紙

「和華」第38号
テーマ:「華流の世界へ」

2023年7月19日(水)発売 850円(税)
出版社 ‏ : ‎ アジア太平洋観光社
『和華』HP:https://visitasia.co.jp/waka/

《特集内容》
特集1
・日本における華流の軌跡
・YouTuber李姉妹がナビゲート 華流ドラマ予備知識10
・和華イチオシ中国ドラマ13選
・多種多彩な中国ドラマと多種多彩な「お楽しみの流儀」:如月隼人氏(中国・アジア情勢ウオッチャー)
・ドラマや映画の生まれる場

特集2
・華流を通じた日中交流物語
・自然体で飄々と真実を撮り続ける:竹内 亮 氏(ドキュメンタリー監督)
・INTERVIEW:水野衛子氏(中国語字幕翻訳家)、蒋雯氏(監督・俳優・演出家)、仲偉江氏(株式会社フォーカスピクチャーズ 代表取締役)
・豆瓣(ドウバン)から見る中国人の好きな日本のドラマは? 興行収入から見る中国人の好きな日本の映画は?

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