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中国の人魚伝説と、ドラマ「斛珠<コクジュ>夫人」|中国時代劇トリビア #100

「斛珠夫人」に登場する鮫人
「斛珠<コクジュ>夫人~真珠の涙~」©Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

中国人気のファンタジー超大作 “九州シリーズ”で唯一女性主人公を描く「斛珠<コクジュ>夫人~真珠の涙~」。壮大なスケールの世界観とダイナミックなアクション、そして女性主人公ならではの繊細なロマンス描写など、新たな“九州シリーズ”作品のヒット作として知られるこのドラマ。

今回は、この物語に登場する鮫族に関する中国の人魚伝説というテーマから、専門家の先生の分析を参考にご紹介し、ドラマにも関わるトリビアを探っていきたいと思います!

西洋の物語のイメージが強い人魚ですが、中国にも古くから人魚伝説が存在しました。中国の人魚伝説に登場するのは、大きく分けると、水の中に生息する大魚や、龍を連想させるトカゲ型の生物を神格化したもの、ジュゴンなどの海洋生物などから連想された「海人魚」、そして真珠の採取などに従事していた異民族の海人族をモデルとした「鮫人」、そして『山海経』などにも登場する半人半魚の人魚の子孫である「氐人」などがあります。

海洋生物などから連想された「海人魚」

まず一つは水生の爬行動物をいう「人魚」の存在。

秦・漢の頃、「人魚」とは黄河中流域、伊河と洛河を中心とした地域において、鯢魚(サンショウウオ)を指すものであり、中国古代の地理書『山海経』にもこの人魚がたびたび登場しているとされています。

鯢魚(サンショウウオ)はトカゲ型の両生類で、細長い胴体と4本の足、長い尾を持ち、子供の泣き声そっくりの音を発する生物とされており、最大では180㎝にも達するものもあったとか。そうした生物が、子供のような鳴き声を発し、両手足を使って移動しているのを人が目にして、人魚がイメージされたという説があるそうです。

また、全身を覆う鎧のようなウロコを持った哺乳類のセンザンコウ(※)が神話化され、人面魚身の形状で描かれ、出現の際に雷や風雨が起こるという龍の属性として想定されたとも。
※センザンコウ:「鯪鯉」などと表記し、古くは魚の一種だと考えられていた。

つまりここで示される「人魚」は、水生の生物で、大魚や龍を連想させるトカゲ型の生き物を神聖化し、神の憑依したものとして人格化していく過程から生まれたものではないかとも考えられているそうです。

また、近海に出没したジュゴンから連想された「海人魚」があり、メスが子供に授乳する姿が人間の様子と似ていたことから、人を惑わすの生物というような西洋の伝説に近いかたちで派生した「人魚」と考えられるようです。


人魚の子孫「氐人」

二つ目は、『山海経』に登場する中国の西方にあったという氐人(テイジン)国の半人半魚の「人魚」。

氐人は人面魚身で足が無く、天界と往来できるとされていました。かつて蜀には氐という異民族が実在しており、『山海経』に登場する氐人国は、この氐を巡る伝承とみられています。

かの地には先にもあげた神話上の人魚のモデルとみられる「鯪鯉」が生息しており、こうした特定の水中の生物を、神の復活した姿や祖霊の憑依として崇めた結果、死後蘇る半人半魚の神を意味する「人魚」と、その子孫の氐人が誕生したとされるそう。


異民族の海人族をモデルとした「鮫人」

そして最後は「斛珠<コクジュ>夫人」に登場する「鮫人」。

鮫人は南の海底に住んで布帛を織り、真珠の涙を流すと言われています。ドラマの中でも真珠と鮫綃(糸)が大変貴重なものとして登場したように、この二つは嶺南の富を象徴するものであり、特に真珠は漢の頃から合浦や北海などを中心とした一帯での採取が盛んで、官吏らによる乱獲などが実際に起こっていたとされています。

「斛珠夫人」場面写真
「斛珠<コクジュ>夫人~真珠の涙~」©Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

そこで真珠採りに従事していたのが、海人族の蛋人(アマビト)たちで、彼らは船を家として海上に暮らし、漁を生業とする異民族でした。しかし、合浦の海には人食い鮫が多く、その害を避けるために全身に「文身(入れ墨)」をし、人面蛟身の鮫人に扮していました。それがつまり「人魚」のことでもあったのです。

劇中では、琅嬛を捕らえる際に、海市が「琅嬛は神ではなく人間」と、鮫人が民を鮫から守ってくれている存在であることを説明する場面がありますが、これにはこうした事実を踏まえていたのかも…と、そのイメージが繋がります。

鮫人と海市
「斛珠<コクジュ>夫人~真珠の涙~」©Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

鮫人たちが命がけで採取した真珠は、全て官の管理を受け、密かに採った真珠も、商人によってわずかな品物と交換させられてしまいました。加えて明の洪武元年間から清の雍正年間に至るまで陸居を許されず、常に貧しい生活を送ることしかできなかったとされています。

劇中で、旭帝が海市の書状によって官吏らの暴虐を知り激怒する場面は、まさにこうした歴史的背景を下地としたところだと言えるかもしれません。

怒る旭帝
「斛珠<コクジュ>夫人~真珠の涙~」©Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited

「斛珠<コクジュ>夫人」の原作である“九州シリーズ”は、作家たちが大量の史書等を参考にして創作された世界でもあるので、『山海経』にインスパイアされた存在が描かれたり、歴史的ヒントが物語の中に登場したりしてきます。劇中で海市が訴えた海の民たちの窮状や、鮫人たちの存在が、決して架空の世界のできごとでは無かったということに想いを馳せつつドラマを視聴してみると、また違った「斛珠<コクジュ>夫人」の世界が楽しめるかもしれませんね!


参考文献
松岡 正子 「人魚傳説 -『山海經』を軸として-」 『中國文學研究』vol.8  1982-12-01  pp.49-66

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Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。Cinem@rtにて「中国時代劇トリビア」「中国エンタメニュース」を連載中。『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『見るべき中国時代劇ドラマ』(ぴあ株式会社)『中国ドラマ・時代劇・スターがよくわかる』(コスミック出版)などにも執筆しています。

このコラムに登場した作品
「斛珠夫人」キービジュアル

「斛珠<コクジュ>夫人~真珠の涙~」
DVD-BOX1&2 発売中
DVD-BOX3:2023年1月13日(金)発売  各16,500円(税込)
※DVDレンタル中(以降、順次スタート:全24巻)

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©Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited
HP:http://www.cinemart.co.jp/dc/c/kokuzyu/

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