「聶隠娘」「十一娘」「女」…弱きを助け強きを挫く女性暗殺者たち|中国時代劇トリビア#34
「晩媚と影~紅きロマンス~」より
命を懸けて使命を果たす女侠たちが登場するドラマ「晩媚と影~紅きロマンス~」。このドラマで描かれるような女性の暗殺者たちについて、今回はご紹介していきます。
聶隠娘(じょういんじょう)
まずは映画やドラマなどの題材になる有名な暗殺者・聶隠娘(じょういんじょう)の物語です。
聶隠娘は「唐代伝奇」に記された物語。ある少女が不思議な尼僧に誘拐され、5年後、ふたたび姿を現した尼僧は両親に「すべて教えました」と告げ、少女を両親の元に戻す。心配していた両親が娘に尼僧となにがあったかを尋ねると、この5年の間に少女は尼僧によって「天に替わって不義を討つ」という侠の精神を教えこまれており、人を殺す術と武器の匕首(あいくち)を体に埋め込まれた刺客になっていたのだった...。
この物語に描かれる聶隠娘像は、侠の心と共に5年間の修行で身に着けた仙術をも会得しており、現代において描かれるドラマティックな侠女の物語の原型とも言われる存在で、近年はホウ・シャオシェン監督が『黒衣の刺客』(15年)で映画化しています。
十一娘(じゅういちじょう)
続いては、明末に凌濛初(りょう・もうしょ)が編纂した短編小説集「拍案驚奇(はくあんきょうき)」に登場する十一娘(じゅういちじょう)。
聶隠娘の明末版ともいわれている十一娘は、貧しい家に生まれて育ち、やがて夫を持ったものの、夫が姿をくらましたところを夫の兄に言い寄られ、やむなく趙道姑という不思議な力をもつ女性のもとに逃げ込むことに。そこで修行を積み、世の不義を討つ剣侠となった十一娘は、弟子らと悪人を成敗していく...。
十一娘が対峙する"悪人"は、民衆を害する強欲な役人や、部下を迫害する傲慢な高級官僚、そして私腹を肥やす軍隊の指揮官などで、どこか「晩媚と影~紅きロマンス~」でターゲットにされる悪人たちを思わせます。また、十一娘の暗殺手法は多種多様で、聶隠娘のように首をはねるやり方だけでなく、腸や喉にキズをつけて急死させたり、術をつかって魂を抜き取り狂死させたりと、周囲にはあたかも原因不明の死と思わせるという巧妙さがあり、これもどこか晩媚が教え込まれる暗殺テクニックを感じさせます。
俗世で辛い目にあった女性が、妖術を使う女主人の元に逃げ込んで女侠となるというのも、晩媚のキャラを彷彿とさせて興味ぶかいですね!
名もなき「女」
最後は清代初期の「聊斎志異」に登場する名もなき「女」と言われる侠女。
青年・顧生の隣に越してきた老女とその娘がいた。顧生の親は、貧しい暮らしをおくる母娘を不憫に思い、美しい娘と息子の縁談を何度か持ちかけるが、娘は応じずにいた。そんなある日、思いがけず娘からの誘いで顧生は遂に娘と一夜を過ごす。しばらくして再び娘が顧生の部屋を訪ねてくると、そこに顧生と深い関係にあった美少年が現れる。娘が取り出した匕首に驚いた美少年は外に飛び出し、それに向かって娘が匕首を投げつけると、跡には真っ二つに切られた白い狐の姿が。
顧生の危機を助けた娘は、その後顧生の子を産み、「母親を助けてもらった私の恩返しはこれで終わった。私は、敵討ちの機会を待ってここに滞在していたが、遂にその敵の首を取ったのでここを出ていく」と告げ顧生の元を去っていくのだった...。
この「女」は、聶隠娘や十一女と異なり、人々を苦しめる悪を征するのではなく、自分の父を陥れた恨みを晴らすための暗殺者となって登場します。弱きを助け強きを挫く、物語の中に登場する女性暗殺者たちの存在は、日々の生活の中で人々が心の中にため込んだ不安や不満をスッキリ解消させる解毒剤のようなものだったのかもしれませんね。
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<参考文献>
井波律子著「中国侠客列伝」講談社学術文庫
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Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。『台湾エンタメパラダイス』『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)にて執筆記事掲載中。
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