【インタビュー】「華流日和」編集部 小俣悦子さん×コスミック出版・阿佐美澄子さん <後編>"現実とは切り離した時間や世界に行けるもの"
今年8月、コスミック出版より創刊された華流専門誌「華流日和」。この雑誌の編集を担当したのは、長く華流業界に携わってきた小俣悦子さんと阿佐美澄子さん。「華流日和」から香港ブーム、現在の華流まで、2人の華流への愛が詰まったインタビューです。
前編:ここ一年で大きく変化した"華流" 2019.10.15公開
後編:現実とは切り離した時間や世界に行けるもの 2019.10.17公開
小俣悦子さん(フリーランス編集・ライター)
編集プロダクションで数年、出版社で10年の勤務を経てフリーランスに。アジアのエンタメ関連を中心に編集・執筆。台湾が好きで、台湾のスター名鑑「アーティスト・ファイル台湾」のあと、2011年から2018年まで「台湾エンタメパラダイス」(共にキネマ旬報社)20号分を企画・編集。コスミック出版より発行された新しい華流雑誌「華流日和」の編集を担当。
阿佐美澄子さん(コスミック出版・編集者)
音楽雑誌のDTP(デザイン)担当を数年経て、フリーランスでアジアのエンタメ関連を中心に執筆・編集。KARAなどが上陸し日本における第2次韓流ブームの際に、K-POP関連のムックなどに携わったあと、2011年からコスミック出版に勤務。主に韓流専門誌「韓流旋風」の編集を担当。華流雑誌「華流日和」では編集補助の役割。
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― では今回「華流日和」を創刊することになった経緯をお伺いしたいのですが、まず発行元のコスミック出版は、私は「韓流旋風」「韓流ラブストーリー完全ガイド」など韓流誌のイメージが強いのですが、今回なぜ華流誌を出すことになったのでしょうか?
阿佐美澄子さん(以下、阿佐美) 「韓流旋風」では、数年前からDVDのリリースに合わせて、中華圏のドラマや俳優を紹介するコーナーを毎号掲載していますが、ここ1年、読者ハガキでそういったコーナーの反応が良くて。「もともと韓流は好きですが、最近華流にも興味があります!」といった意見も多くなってきたんです。好きな俳優にヤン・ヤンの名前が挙がったり。
韓流・華流と分けずに楽しんでいる方が増えているのかな...という手応えもあって。今だったら新しいファン層が増えつつあるので、よいタイミングじゃないかと出版することになりました。
小俣悦子さん(以下、小俣) 以前から一緒に華流誌をやろう!と話していたのですが、本当に出せることになるなんて。嬉しいです。あと阿佐美さんに「一緒にやろう」と言ってもらえていたのは、心の支えでもありましたね。やっぱり華流に愛がある人と一緒に雑誌を作れるのはとても幸せなことだし。
― ここ1年で反応が良くなったきっかけは一体何だったと思いますか?
阿佐美 テレビの影響じゃないでしょうか。BSで放送される中国時代劇をご覧になっている方が多いです。
あと韓流ファンはCS局に契約している方も多いので、衛星劇場さんやホームドラマチャンネルさんなどで、韓国ドラマを見た流れで中華圏の作品も見たり。それで、作品の質の高さに驚いてハマるという。
c2017 Shanghai GCOO Entertainment Co., Ltd
― コスミック出版が華流誌を出すのは、初めてですか?
阿佐美 初めてですね。F4ブームの時にも出していなかったはず...。
― 今まで華流誌を出したことのない会社が出版するくらい、じわじわと華流熱は高まってきているんですね。
発売から少し経ちましたが、「華流日和」の反応はいかがですか?
阿佐美 読者ハガキが少しずつ到着し始めているのですが、こちらでも「もともと韓流好きで、最近華流にハマった」というご意見を見かけます。たとえば「BSやCSで放送されている中国時代劇を偶然見たらクオリティが高くて。それ以来、中華圏の作品をよく見ています」とか。
― 中国時代劇、ご覧になる方だいぶ増えましたよね。
小俣 ただ時代劇と一言でいっても凄い細分化されていて。武侠モノに正統派な歴史モノ、ファンタジー、宮廷ドラマ、ラブ史劇。
この前、Cinemartのコラムにあった「アイドル時代劇」という言葉は新しいなと思った。ジローさんの「萌妃の寵愛絵巻」とかはアイドル時代劇ですよね。
― 特定の俳優を目的に視聴する時代劇ですよね。確かに、いままで日本で中国時代劇を「この俳優が見たいから見る」という方は、そんなに多くなかったんじゃないかと思います。
c LEYOUNG MEDIA (BEIJING) CO. LTD
― では、「華流日和」を作るにあたり意識したポイントを教えてください。
小俣 まずは、華流がわからないような人にもわかってほしい。新しい華流のイメージを知ってもらいたいし、伝えたいと思って作り始めました。
実は今回新しい華流誌を作るにあたって、嬉しいけどプレッシャーもありました。「華流」という一括りにするにしても中華圏それぞれに違うと思うし、いろんなものを取り込んで、それをどうまとめてどう紹介していこうかすごく悩みました。
そんな時に上海と香港と台湾に行く機会があって、それぞれの場所でそれぞれの良さや空気感を実際に感じて、やっぱりいいなぁ面白いなと思って。行く前は細かいことまで考えすぎてしまっていたけど、自然とへんに考えすぎるのをやめていましたね。これでいいんだなと思えました。
あとデザインに関してもいろいろ挑戦しています。表紙もエンタメ系の雑誌にはないような雰囲気にしたい、「華流」そのもののイメージにしたいと考えていました。阿佐美さんと「台湾の雑誌っておしゃれだよね」という話をして。台湾の雑誌や単行本は、装丁がすごく凝っているんです。それに近いイメージにしたい、って話しました。
― SNSでも「華流日和」の表紙がオシャレというご意見を見かけました。あと、使用されている紙も普通の雑誌とは少し違っていて、手触りに温かみがありますよね。
阿佐美 中華圏で出ている雑誌やZINE(個人で制作する冊子)など、デザインの良い本でこういう紙を使っているものをよく見かけたので、そのイメージや空気感を取り入れたいと思って、小俣さんと相談しました。
小俣 「華流日和」に書いてくださったライターさんからも「カルチャー誌みたい!」という感想もいただきました。でも、エンタメ誌なのでオシャレをしすぎてはいけない、という考えもずっと持っています。
― カルチャー誌みたい、という感想すごくわかります。写真もこだわっていて、個人的にレイ・チャンさんのこの見開きのページはすごくカッコイイと思いました。情報を知るだけじゃなくて、手元に置いておきたい雑誌だと思います。
― お二人は今まで取材やインタビュー等で沢山の方にお会いされてきたと思いますが、印象に残っている方や、印象に残っているエピソードはありますか?
小俣 たくさんありすぎて...(笑)。
誰というわけではないですが、アイドルとして活躍されていた当時も取材していて、大人になった台湾スターに今会うと、一時代を築いた彼らがアイドルとしていかに大きなものを背負って大人になってきたのか、感じることが多々あります。
阿佐美 たしかに。以前、プリンス・チウにインタビューした時もそれを感じました。プリンスはバンバンタンの時にも取材したのですが、話し方が以前と全然違いましたね。相手の聞きたいことをさっと理解して、答えてくれる。
小俣 でも、大人になった彼らが今、ふとした拍子にアイドル的なキラッとした輝きを見せる瞬間があるんです。グラビア撮影のときに一瞬それが見えたり、お客さんを前にした時にアイドルっぽいオーラが出はじめたりして、逆にハッとしたり感慨深さを感じることもありますね。
「華流日和」の取材裏話だと、「年下のオトコ」でデレック・チャンさん、グレッグ・ハンさん、チャン・グァンチェンさんの3人を取材した時に、最後にグァンチェンさんに「『History3』見ましたよ」って伝えたら、ものすご~く照れてました(笑)。
「HIStory」とは台湾発の大ヒットBLウェブドラマシリーズのこと。
ビデオマーケット、Rakuten TVにて独占配信中
cCHOCO Media Co.,Limited.
― そういう姿をたくさんご覧になってこられているのが羨ましいです(笑)。
今まで様々な雑誌でアジアのエンタメ情報を日本に届けてきたお二人ですが、アジアのエンタメ情報を届ける際に、意識していたりこだわっていたりすることはありますか?
小俣 自分がどうというよりも、作品だったり役者さんだったりを好きな人達が一番だと思っていて。そういう人達は誰よりも詳しくて熱もある。そういう人たちの楽しい時間になってほしいといつも思っています。
「台湾エンタメパラダイス」を作り始めたとき、東日本大震災が起こって、東京なのに家の中がめっちゃめちゃになって、怖い思いをして自分自身も落ち込んでしまったことがあって。そんな状態で作業をしていくときに「これがある意味って何だろう」「自分の仕事って何かの役に立っているだろうか」とかものすごく考えました。
自分が若い時にアジアの旅行記を読んで、その世界の中にいる時間が幸せだったり、色んなことから逃げられたりしたように、そういう現実とは切り離した時間や世界に行ける物の1つでありたいという気持ちがあります。別に華流じゃなくても当てはまるものだと思いますけど。だから、自分がやるのであれば、それを1冊の雑誌としてどう作っていくかというところはつねに根底にあって、大切に考えて作っています。
― そういうものがないと、人って生きていけないですよね。
小俣 そう!だけど、それが無いからって死ぬわけじゃなくて。でも、やっぱりそこなのかなって。
― 華流に強い愛を持っている小俣さんですが、それ以上に、楽しんでくれている人たちの為にっていう気持ちが強くベースにあるんですね。
小俣 やっぱりそれがないと成り立たないから。
阿佐美 その場を温かくしていきたいですよね。
小俣 言葉にすると難しいけど...そういう世界があると、人って豊かになれるじゃないですか。
阿佐美 私もアジアを伝えることを仕事にしていきたいと思ったのは、女性が楽しめるエンタメのジャンルだと思ったからなんです。
女性が普段の生活、家事を離れて、誰かと同じ話題で盛り上がれるものってあんまりないですよね。スポーツや、なにかコミュニティに属してなければ。
華流も韓流も、家でドラマを見ているだけで誰かとその話題で世代を越えて盛り上がれる。例えば普通のお母さんが子育てをしながらでも、子育て以外の話が気軽にできる。それって実は重要なこと。日本から離れて外に目を向けて、似てるけど違うところも多い、ご近所の国のことを考えたりするのは大切だし、良い意味で現実逃避ができてストレス発散にもなりますよね。
だからアジアのエンタメを伝えるのって素敵だなと思ったんです。そう考えられるようになったのは、今まで日本で、アジアのエンタメを支えてくださった先輩方のおかげです。
あと華流・韓流業界って、ライターさんをはじめ女性ばかりじゃないですか。
小俣 男性もいるけど女性が多いですね。
阿佐美 最初は、ライターさんからメーカーの方々まで女性ばかりで違和感があって......。でも、この業界は女性が声を挙げて頑張ってる業界なんだって次第に思うようになりました。韓流・華流って女性が元気に頑張れる場だから、私たちも一人一人頑張らなくちゃ!ですよね。
― そうですね!私も華流や韓流に関わっていて居心地がいいなと感じるのは、「胸キュン?」とか「カッコイイ?」と感じる気持ちを大切にしてもらえるところ。そういうことが生活の中で元気をくれることなんだって認めてくれるというか。
小俣 それはとても大事なことです!
阿佐美 イケメン称賛を軽んじてはいけないです!(笑)
<おわり>
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