【韓流お仕事図鑑】あなたのもとに韓国ドラマが届くまで<買付編 #1>
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普段私たちが見ている韓国ドラマ。韓国で制作されたドラマがどういう道のりを経て、日本でテレビ放送されたりDVDになったりするかご存知ですか?
この連載は、韓国ドラマを日本のお茶の間に届ける過程に携わる人たちにインタビューしていく【韓流お仕事図鑑】です。
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<買付編>エスピーオー 森丘直子さん
第1回 「買付の仕事ってなんですか?」
韓国ドラマが日本にやってくる、最初の一歩がこの「買付」という仕事。実際に買付を担当しているエスピーオー・森丘さんに、「買付」のお仕事についてお話をお伺いしました。
第1回は、買付の具体的な仕事の内容について。ただドラマの権利を買う、というだけでなく、そこに至るまでに複雑なコミュニケーションの数々に、聞き手が思わず「大変そう...」を連発してしまうお話しでした。
<買付編>
第1回 「買付の仕事ってなんですか?」
第2回 「冬ソナ廃人」
第3回 「韓流スターたちの素顔」
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―「買付」とは、簡単にどういう事をするお仕事なんでしょうか?
私、仕事を聞かれて「ドラマの買付です」と言うと、「DVD-BOXを韓国で買い付けて、それを日本に輸入しているんですね」って言われることが多くて。そうではなくて...韓国のTV局や制作会社が、ドラマを海外で販売できる権利を持っているので、彼らと条件交渉をして、日本の権利を購入するという仕事です。
―そもそも作品の権利って、どこでどうやって買ってくるんですか?
まず情報収集を常日頃からやっています。どういう新作ドラマが、韓国で何時ぐらいに放送されて、だれが出演して、だれが脚本・演出なのか。
私がこの会社に入社したのは11年前、2006年ですが、昔はこちらから情報をとりに行ってたんですよ。韓国ドラマの公式HPとかもあまりなかったし。「このドラマいつ放送されますか?」とか「御社で放送されるんですか?」とかこちらから連絡して調べてました。あとは、ネットで韓国ドラマ情報を発信している人、韓国在住日本人のサイトとかを見て、やっと追いつけたり。一生懸命でしたね。
今はとてもシステマティックになってきました。韓国のTV局にも海外営業部っていう自分たちのコンテンツを海外に売る部署というのがあって。その人たちが、新作の情報をきちんと資料にしてメールでバイヤー(=買付担当者のこと)に一斉送信で送ってくれます。資料もちゃんと日本語で来ます。本当に楽になりました。
我々が「いくらで買います」という条件提示をすることを"オファーする"というのですが、そのオファーの〆切も最初から提示されています。入札みたいな感じ。どの会社も同じ条件で「せーの」で入札する。その後、TV局の方が条件を吟味して「御社にきめます」というパターンが一番定番です。
ただ、たまに制作会社が権利を持っている場合があるんですよ。その場合は、彼らが独自に動きますから、彼らの知っている会社にしか案内しない。そうすると一斉メールとかできないわけですよね。だから、日頃からその制作会社と懇意にしているか、人脈があるか、ってことが重要になってきますね。
―その「いくらで買います」という条件って、どうやって決めてるんですか?
日本が買える権利はTV権、ビデオグラム権(セル、レンタル用のDVDを制作し、販売できる権利)、一部の作品には配信権もあります。それらの権利を日本で行使した時に、いくらくらい売れるか?っていうのを過去データを参照しながら試算します。
で、これぐらいの利益が上がるんだったらこれぐらいの金額までしか出せないなと、上限を決めたりしつつ交渉して買うんですよ。
―複数社が手を挙げた場合ってどうなるんですか?
そんなのしょっちゅうですよ。人気作品になると5、6社が集まります。
―その場合は、単純にオークションのように金額の大きさで決まるんですか?それとも、金額以外のさまざまな要因も全て加味したうえで決まるのでしょうか?
むしろ単純に金額で決めるってことはあんまりないと思うんです。よっぽど突き抜けた金額を出していれば別ですけど。金額は結構拮抗するわけです。だって試算って、みんな同じデータを元にやっているから。
―しかも同じ日本という市場に向けて、ですからね。
そう。だから、どうしても欲しい会社はバッと金額を上乗せして、決まっちゃうこともあります。
条件が拮抗すると、韓国側が2、3社に交渉相手を絞り、話を始めます。「差がついていないので、ちょっと金額上げてもらえませんか?」とお願いされたり。こちらも「ビデオグラム権以外の権利もつけてくれたら金額を上げますよ」とか。そういう交渉はしますよ。
人間関係も凄く重要。たとえば、日本で働いていた韓国の方が独立して会社を作ったと。そうすると、ご祝儀的に作品を売ったりする。もちろん大作は例外ですが。
買った後は、英語で契約書のドラフトを作成します。
―韓国に対しても英語なんですか?
英語です。あと金額も日本円ではなく、ドルです。
だから円貨はすごく重要です。今115円前後ですが、2012年ぐらいって78円台とかあったんですよ。全然違いますよね。試算するときは必ず、今1ドル幾らっていうのを入れてやっていますよ。
―では、買い付けてくる作品を選ぶ"基準"はなんなのでしょうか?
当たり前なんだけど、ジャンル、内容、キャスティング。どこの会社もそうなんじゃないかな。
昔よく重視されていたのは「誰が出るか」。いわゆる韓流スターがしっかりいた時代だから。四天王もいたし、新四天王もいたし。「彼らが出ますよ」というとプリセールス(=先行販売)がすごかったわけですよ。まだドラマは作られていないんだけど、「この人が出るよ」っていう約束でもう事前に売れる。
―今もプリセールスってあるんですか?
いまはだいぶ減りました。昔の方がありましたね。
―「この俳優さんだから買う」っていう状況が落ち着いたと。
うん、落ち着いた。落ち着いた状況の中で、突き抜けたスターって今いなくないですか?名前は知られているし、いい俳優も多い。でも「この人が出てる」ってだけで無条件に買うっていう、ヨン様みたいなスターはいない。もちろんキャストは気にしますよ。でも、私自身は結構作品重視です。だから、ノーキャストだった「ミセン」とかも買う。
あとジャンルは重要ですよね。
―やっぱり日本だとラブストーリーですか?
そもそも韓国ドラマって、強弱はあるけどラブが必ず入ってるんですよね。「ツンデレ」要素も重視されますけど、ツンデレも定番として入っているので。あとは長編であれば、マクチャン要素(※)。
※マクチャンドラマとは―
日常には起こるとは思えない非現実的な出来事が、何度も起こるドラマ。先日までテレビ東京で放送されていた「仮面」も、瓜二つの女性が入れ替わったりとマクチャン要素があるといえる。
オファーする前に日本のCSTV局の方々にも意見を聞きますよ。「この作品、御社ご興味ありますか?」とか。大きな作品であればあるほど、日本初放送のTV局を決めてから買ったりしますね。
―買う前に約束を取り付けちゃうってことですか?
そうそう。買ったはいいけど放送できなかった、という事態を避けるために。
大きな作品になると、TV局の方々からアプローチされることもあります。「御社のあの作品オファーしますか?うちで放送させてください」と。複数社からリクエストがあると悩みます、どの局も大事なお客様ですから。
そういう時は、社外の人に相談したりします。この業界は結構狭いので、社外にメンターがいると強いですよ。みんなライバルであると同時に仲間だから。情報交換もしますし。
色々と質問すると、ごまかす場合もあるけど、買うときは「買う」と教えてくれますね。そうすると、この作品は大体何社がオファーするな、そうすると金額が競って、これくらいにはなるかな?と予想できたりする。あと、事前に話し合って一緒に買い付けたりもしますね。
―なんだか複雑なコミュニケーションですね...ザ・大人のビジネスという感じ...
たしかにルーティーンワークの作業はあんまりないかも。あとは絶え間なく新作を見ておくことかな。
ただ試算しているだけでは作品は買えないから。いくら試算したってそれはあくまで過去のデータをもとにした予想値にすぎません。買うためにいろんなことやらなくちゃいけないんですよ。複雑な要素が絡み合っている仕事です。
―買付、大変ですね...
あっさり買えちゃう作品もありますよ。たまにですけど (笑)。
でも売れ残っている作品にお宝があったりして、そういうのを見つけるのも仕事です。だから「あれ、あの作品どうなったのかな?」ということを常にキープ・イン・マインドしておかなくちゃいけない。それで聞いてみると「実は、まだ売れてないんですよ」となって、最初の提示額より安く買えることもある。
―それが運よくヒットしたら、安い金額で買えたし、すごく儲かったし、ということですよね。
そうですね。だから新作じゃなくても覚えておかなくちゃいけない。
―なのに、新作の情報も入れていかなくちゃいけない...
そう。あと、人間力はすごく大事だと思いますよ。だって、韓国側も嫌な人とは交渉したくないじゃないですか。「あの人だったら、ちゃんと日本で売ってくれるな」とか、「この人だったら多少値引きしていいか、前に助けてもらったし」とか。そういう日頃の関係性作りは大切ですね。
―確かに今までお伺いしていると、人間関係がかなり重要になってくるお仕事ですね。
そう、ほんとこの仕事は人付き合いです。だから人付き合いが苦手な人、コミュニケーション力がない人はこの仕事は難しいかもしれない。
<第2回に続きます>
次回は、韓国ドラマの買付担当になるまでのお話をお伺いします!
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「仮面」cSBS
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