【韓流お仕事図鑑】声優・内田夕夜さんインタビュー|第2回「怨(えん)という感覚」
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普段私たちが見ている韓国ドラマ。韓国で制作されたドラマがどのような道のりを経て、日本でテレビ放送されたりDVDになったりするかご存知ですか? この連載は、韓国ドラマを日本のお茶の間に届ける過程に携わる人たちにインタビューをしていく【韓流お仕事図鑑】です。
今回は「師任堂(サイムダン)、色の日記」(以下、「師任堂~」)でソン・スンホン演じるイ・ギョムの声を演じた俳優、内田夕夜さんにお話をお伺いしました。ご自身も俳優でありながら、声優として洋画等や海外ドラマの吹き替えでも活躍され、レオナルド・ディカプリオやウィリアム・フォンなどの吹き替えで知られる内田さん。画面で演じる側でもあり、声を吹き込む側でもある。ハイブリットな活躍をされる内田さんだからこそのお話は必読です!
第1回 「美男<イケメン>ですね会」
第2回 「怨(えん)という感覚」
第3回 「ソン・スンホンの"咳"」
<プロフィール>
内田夕夜(Uchida Yuuya)さん
劇団俳優座所属。レオナルド・ディカプリオ、ライアン・ゴズリング、ジェームズ・マカヴォイなどの吹き替えを多く担当している舞台俳優・声優。海外ドラマや洋画の吹き替えでも数多くの役をこなす。主な出演作に『スーパーナチュラル シリーズ』サム役、『美男(イケメン)ですね』シヌ役など。
内田夕夜さん
― 内田さんは劇団俳優座に所属されており、俳優としても活躍されていらっしゃいます。体全てを使って演じる俳優と、声を使って演じる声優。演じ方が少し違うのではと思うのですが、いかがでしょうか?
内田夕夜さん(以下、内田) 演技というものをいくつかに区分した場合、僕はよくビリヤードに例えるんです。ビリヤードをやる時には、「この球をあの球に当てたらあそこに入る」ということを読む能力が必要じゃないですか。でも、読む能力があっても、球を思い通りに突く能力がなければその球は入らない。その両方が必要だと思うんです。
読む能力に関して言えば、舞台俳優だろうと声優だろうと一切変わりはないと思います。でも突く能力、技術に関してはすこし違う。根っこは一緒なんですが、方法論がすこし違うんです。
例えば、笑顔でセリフを言おうとすると、舞台上だったら表情も見てもらえるので、「きらいだ」というセリフを笑顔で言っても、笑顔だということがそのまま伝わります。声の場合、自分の笑顔は見てもらえません。自分は笑顔ではないけれど、画面に映る俳優さんは笑顔、見る側に伝わるのは笑顔なんです。
だから演じるときには、あくまでも自分の感覚ですが、舞台上でやるときよりもほんのすこし、プッシュを強くするとか、出口の穴をちょっと大きくするとか、それぐらいの差ですね。
― たしかに、声優さんは声でしか伝えられません。
内田 でも自分の顔が見えていないから笑顔じゃなくていいのか、と言ったら、それもおかしな話で。本来、声は出すものじゃなくて出るものです。そのニュアンスの差が、僕の感覚では本当にちょっとなんですが、あります。
あと、立ち回りのシーンでは、実際に動いてしまったらノイズだらけになるので、動いているように演じたり。
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― 今のお話を聞いて、同じ作品で、舞台で演じているバージョンと、声だけで演じているバージョンを見比べてみたくなりました。
内田 相当おもしろいと思いますよ。人によっても全然やり方が違うと思いますし。
昔、声優の三木眞一郎さんが「お腹を殴られるのと、胸を殴られるのと、顔を殴られるときで同じ声を出すのはおかしいでしょ」っておっしゃっていました。お腹を殴られたなら、お腹に力を入れて「うっ...」って出せば、お腹を殴られたときの音になる。胸の時は胸に力を入れる。動いていないけど、動いているような筋肉の使い方をする。その結果、違った声が出る。お腹だからこの音、胸だからこの音、という出し方ではないということですね。
― 声だけでなく、声を出すには体全部が繋がっているんですね。
内田さんは韓国ドラマだけでなく、洋画や海外ドラマ、アニメ、ゲームとかなり幅広く吹き替えを担当されていますが、「韓国ドラマならでは」と思う演技のポイントがあれば教えてください。
内田 自分でもよくわからないのですが、アジアドラマを見た場合と、アジア以外の国のドラマを見た場合、アジアドラマの方が違和感を感じることが多いんです。
― それはどうしてでしょうか?
内田 自分の中の答えとしては、自分がアジア人であり、日本という国に住んでいるので、アジア人の顔っていうのは常に見ている。
だから、ほんのちょっとした変化、たとえば「"あ"という音のときはこういう口の動き」というのを無意識に見ているんだと思うんです。欧米人の「A」っていう音が「B」という口の動きから出てきても、あまり違和感は無いのですが。あまりにも見慣れているアジア人の「あ」っていう口から「い」という音が出てくると、「ん?」ってなるみたいな感覚なのかな。だからアジア作品の場合は、表情や口の形、息をするときも「フゥ」って息なのか、「ハァ」って息なのかなど、なるべく違和感のないように演じようという意識は強いです。
あともうひとつ。これは韓国作品に関してなんですが。僕は日本で育った人間なので、"喜怒哀楽"という感覚で生きていますが、韓国には"喜怒哀楽"に加えて"怨(えん)"がある。怨む、というもうひとつの感覚があるんです。日本の感覚は4つで振り分けようとするところを、韓国だと5つで振り分けているんだ、という差があることを思いながら演じますね。
― たしかに、韓国は「怨む」という感情がカギになる作品も多いですよね。
内田 日本だったら「怒る」っていう感覚に分類されるのかもしれませんが、韓国は「怨」という感覚で演じているんだろうなと。韓国作品は特にその感覚を忘れないようにしています。
― 現在、内田さんが声を担当されている最新の韓国ドラマ「師任堂~」では、「Dr.JIN」に引き続きソン・スンホンの声を担当されていますが、「ソン・スンホンを演じるときはここがポイント」ということはあったりしますか?
内田 彼の目に注目して演じています。彼は目の表情がすごく強い人ですよね。どこを見ているのか、その方向を見ていても単純にそこにあるものを見ているわけじゃないな、とか。そういう表情がすごく目に出る人です。たぶんソン・スンホンさんの目を隠された状態で、彼の吹き替えをやれって言われたら、出来ないと思います。情報があまりにも激減してしまって。
©Group Eight
― 確かにソン・スンホンさんの目ってすごく引き付けられるというか、見てしまう目ですよね。ちなみに「師任堂~」でイ・ギョム役を演じられるときに、意識されていることはございますか?
内田 イ・ギョムが着物を着ているということですね。洋服ではなくて着物を着ている人。
― じつは前回の演出家の市来さんと声優の石狩さんの対談でも、市来さんからそのお言葉がありました。具体的にはどういう感覚なのでしょうか?
内田 感覚を言葉には出来るんですけど、具体的にどうしているのかは自分でもわからないんです。僕は舞台の時は自分でメイクをします。メイクが「よくできた」と思い、衣装を着けに行く。普通の洋服の場合は「いいな」と思ったメイクそのままで合うんですが、着物を着る作品は「いいな」と思っても、カツラを載せて着物を着ると「あれ?メイク薄い」って思うんです。衣装やカツラに負けちゃうんですよね。
僕にとってはその感覚です。洋服ではなく時代劇のメイクをしている感覚。単純にオーバーにするとか、角を立てるとかそういうものでも、僕の中ではないんですよね。
― 日本語吹替版を見るときは、ぜひそのあたりを意識して聞いてみたいと思います。
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