近年、イップ・マン(葉問)の映像化ブームが加速している。日本のカンフーファンを熱くしたドニー・イェン主演『イップ・マン 序章』『イップ・マン 葉問』や巨匠ウォン・カーウァイ監督&トニー・レオンの新しいカンフー映画として話題となった『グランド・マスター』。またこれらの作品の大ヒットを受けて製作されたアンソニー・ウォン主演作『イップ・マン 最終章』と、ひとりの人物に焦点を当てた作品がこうも立て続けに投下されるのは異例といえる。
このイップ・マンとは、創始者が女性として知られる詠春拳を学び、葉問派詠春拳を確立した人物だ。近年、ここまで彼の映画化作が相次ぐ理由のひとつは、彼が不世出の偉大な武術家であったからであろう。しかし最大の理由は、彼が伝説のアクションスター、ブルース・リーの生涯ただひとりの師匠だったからに違いない。
イップ・マンは1893年に数多の道場が軒を連ねる中国武術の盛んな広東省仏山市で生まれ、詠春拳の宗師として妻子とともに暮らしていた。そして太平洋戦争終結後の1949年に香港に移住し、生活のために詠春拳の道場を開設して細々と暮らし始める。そして数年の後、その道場に入門してきたのが少年時代のブルース・リー(李 小龍)だ。『イップ・マン 葉問』『グランド・マスター』で描かれている通り、少年ブルース・リーと壮年期のイップ・マンは、香港を舞台に奇跡の出会いを果たしたのである。
ゆえに香港の映画人は嬉々として国民的スター、イップ・マンをスクリーンに蘇らせている。2013年はブルース・リー没後40年でもある。そして、このムーブメントを集成するかのように、中国本土でもTVドラマ版『イップ・マン』が製作された。本作は、映
画では描ききれなかった彼の生い立ちと人間性を色濃く描きつつ、アクションも豪華に展開。主人公を演じる新進俳優ケビン・チェンがスタントマンを使わずにアクションを演じきっているほか、ユン・ワー、ブルース・リャンらカンフーファンには馴染み深いベテラン俳優陣も往年と変わらぬアクションを見せつけている。映画版に関わったアクションスタッフが参加しているからこその充実ぶりだ。
本作を機に、イップ・マンの実像はさらに明らかになっていく。これまで多くが知られていなかったイップ・マンだからこそ、新作の登場でファンの熱はさらに加速しそうだ。