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「蓮花楼」ライター対談《前編》この物語に今の世相がようやく追い付いた

「蓮花楼」キービジュアル

各ドラマアワード16冠達成の大ヒット時代劇「蓮花楼」のBlu-ray/DVD-BOX全巻発売を記念して、ライターの小酒真由子さん、林穂紅さんの対談を実施。「蓮花楼」にハマったお二人に、本作への愛を語っていただきましました。

「蓮花楼」あらすじ
武林の若き盟主で四顧門の門主・李相夷(チョン・イー演)は師兄・単孤刀を殺した金鴛盟の盟主・笛飛声(シャオ・シュンヤオ演)と対決するが、毒に侵され海に落ち消息を絶った。 10年後、方尚書の嫡男で天機山荘の後継ぎ、方多病(ツォン・シュンシー演)が江湖の治安を担う百川院で捜査員の刑探に志願、ある使命を帯びて旅立つ。その道中で蓮花楼医館を牽いてさすらう医者・李蓮花(チョン・イー演)と出会い……。



何度も見返してしまう無限ループな作品

——お二人は「蓮花楼」を視聴されていかがでしたか?

林穂紅さん(以下、林) バディものかと思いきや、そこに1人加わって、トリオになるのが面白くて。李蓮花、方多病、笛飛声のケミストリーがとても良かったです。

小酒真由子さん(以下、小酒) 宿敵同士のはずなのに…みたいな意外性も良かったですよね。アクションも本格的で、酒をあおりながら剣舞したり悪役に必殺技を持つ強敵が登場したり、武侠らしいワクワクするアクションでした。

 武侠ドラマとしての良さもしっかりありますよね。加えて、最近の“ネオ武侠”というか、武侠作品にいろいろな要素が入った、まるでアトラクションのような面白さがありました。ミステリーでもあるので2周目で気が付くことも多く、何度も見返してしまう無限ループな作品です。

小酒 謎解きミステリーの要素が今っぽいですよね。現代ドラマのように、現場検証や検視をして謎を解いていくのも面白くて。そして、たくさんの伏線が繋がり最後には壮大なストーリーになっていく。

 それぞれの事件が単発で起きているように見えて、実は繋がっているんですよね。

小酒 そこが「蓮花楼」のすごく上手なところ。しかも、幽霊や妖怪の仕業の怪奇事件のように見えて、ちゃんと人間の怖さが描かれる。中国ドラマ初心者の方でも視聴しやすいと思います。


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この物語に今の世相がようやく追い付いた

 私、勝手に“武侠小説の三大陰険アイテム”だと思っている武器がありまして。その一つが軟剣なんです。軟剣はベルトのように隠せてしまう卑怯なアイテムで、そういう武器を持っている人物も胡散臭く感じる。

小酒 「蓮花楼」では、主人公の李蓮花が軟剣を腰に巻いていましたよね。

 そう、だから面白いなって。「蓮花楼」も武侠らしく成長物語ではありますが、その成長の方向が普通とは違うんですよね。

小酒 たしかに。いわゆる“青春武侠”らしい成長をするのは方多病の方。自信だけはある青年が、良い師匠に恵まれて成長していく。でも、李蓮花は得たものを捨てることで成長していく。

 今まで中国は上り調子で、どちらかというと方多病的な人が多かった。だけど、そうやって上り詰めた後、そこからどう引いていくのか? 他にどんな道があるのか? 李蓮花の生き方が、それを指し示しているような気がするんです。原作の『吉祥紋蓮花樓』は20年近く前から続くシリーズ物ですが、この物語に今の世相がようやく追い付いたように感じました。

小酒 李蓮花のような傷ついたヒーロー像は、今の時代にグッとくるポイントなのかもしれませんね。男性が好みそうなマッチョなヒーローとは違って、少女マンガのヒーローのようでもある。そこは女性作家ならでは、なのかも。 そういえば、原作者の藤萍は、80年代生まれの四大女性小説家の一人なんですよね。他の3人も、桐華、匪我思存、寐語者と、小説がドラマ化されている方ばかり(※1)。藤萍は警察官でもあるんですが、武侠小説に刑事ドラマ的な要素やロマンティックな人間ドラマを盛り込んでいるのがいいですね。

蓮花楼と李蓮花
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彼らが追い求めているのは李相夷であって李蓮花ではない

—— 「蓮花楼」は個性的なキャラクターや、キャラクター同士の関係性も面白いですよね。

小酒 面白いですよね。武力や権力を求める男性と愛を求める女性のすれ違いが描かれていたり。

 武侠作品であのロマンスは一周回って新しくないですか?

小酒 そうそう、女性の方から男性に見切りをつけてお別れするなんて。武侠ものでは、江湖を旅する男性を女性がずっと待っているのに戻ってこない…というのはよくありますが、女性から別れを決意するのは新鮮に感じられました。

 それも、やはり女性作家だからですかね。待っているだけの女だとつまらない、というか。

—— 出てくる女性キャラクターは皆、強くて魅力的ですよね。

 特に角麗譙! 彼女はまさにドロンジョ様で、吹替えがあるなら「このスカポンタン!」と言って欲しい(笑)。演じているワン・ホールンさんは、「長安二十四時」の聞染役で印象に残っています。複雑な役でしたが、今回の角麗譙役もすごかった。

小酒 ワン・ホールンさん、「幻夢追凶〜ドリーム・インセプション〜」ではソン・ヤンの相手役となるクールな刑事役を、「メモリーズ・オブ・ラブ〜花束をあなたに〜」ではヒロインの少女時代を鮮烈に演じていましたね。

 注目の女優さんですね。私が男だったらコロッと角麗譙に騙されてしまいそう(笑)。

小酒 コロっと騙されたでいうと、雲彼丘(ルー・ホン演)も良かったですね。彼には共感を覚えました(笑)。

 角麗譙の魅力には勝てませんから(笑)。

小酒 そう考えると、角麗譙にとって笛飛声は“こんなにモテモテの私に唯一なびかない男”なんですよね。それで執着心が更に燃え上がる。

上着をなでる角麗譙
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—— 笛飛声の関心の矢印は、ずーっと李蓮花ですもんね、しかも極太の矢印(笑)。

 第8話とか最高でしたよね。李蓮花が笛飛声に軽功で連れていかれそうになるけど、李蓮花が「吐きそうだ」と言うと、敵のはずなのに彼を気遣ってすぐに降ろしてくれる(笑)。

小酒 笛飛声は、李蓮花が李相夷だとすぐに見抜きますよね。まるで当然のように。

—— 視聴者からすると、李蓮花も李相夷もチョン・イーが演じているので同一人物だとわかりますが、劇中では本当に分からないんだろうと思います。仲間だった四顧門の人達さえも気づかない。

 この“気づかない”というのが「蓮花楼」のポイントの1つだと思うんです。昔の仲間やガールフレンドでさえ気づかないのは、彼らが追い求めているのは李相夷であって李蓮花ではない、というのを表現してるのかなと。

小酒 たしかに、昔の李相夷の面影を追っているから今の李蓮花に気づけない。そうなると、笛飛声は最初から彼の本質を見ていたから気づけた。方多病も途中で一瞬、李蓮花に李相夷の面影を感じ取るシーンがありますよね。わかる人にはわかる、そういうところもエモい! でも…そう考えると、四顧門の人たちがなかなか気づかないことが切なく思えてきました……。

李蓮花の横顔を見る方多病
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男っぽい作品かと思いきや、乙女心をくすぐるポイントがあります

—— どんな方が「蓮花楼」にハマりそうだと思いますか?

 ミステリーファンや『シャーロック・ホームズ』が好きな人は絶対ハマります。シャーロック=李蓮花、ワトソン=方多病、この組み合わせに、モリアーティ=笛飛声が仲間になるなんて! ちょっと面白すぎます! それから、キャンパーの皆さんですね(笑)。Blu-ray/DVD-BOXのブックレットに解説が載っていますが、蓮花楼自体の室内の作りや設備がとても魅力的。たまに外にテーブルを出してお茶を飲んだり、ああいう自由な感じもすごく素敵でした。最後にもう1つ、大きな病気をした方、人生後半戦の方にもお勧めしたいです。

—— チョン・イーさんもインタビューで、“大人の皆さんに見てほしい。恐れ知らずの李相夷がいろいろなことを経験したその先に、別の道で希望を見出す。そっちのほうが幸せかもしれない、そんな気づきもあるはず” (※2)とお話しされていましたね。

 中国は昔からそういう隠遁生活が良いという思想はありますが、今改めてそれが見直されていると感じます。

—— 小酒さんはいがかでしょうか?

小酒 林さんが全部言ってくれたので(笑)、あとは可愛いものが好きな方にもお勧めしたいですね。“武侠”と聞くと男っぽい作品かと思いきや、蓮花楼での暮らしだったり犬とのやりとりだったり、乙女心をくすぐるポイントがあります。

 ワンコっぽい方多病も可愛いですしね(笑)。

蓮花楼
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チョン・イーの演技のレベルが更にもう一段上がった

—— これも紹介しておきたい!というポイントはありますか?

小酒 スタッフについても少し紹介しておきたくて。演出家がグオ・フーとレン・ハイタオという、「運命の桃花~宸汐縁~」や「沈香の夢」を担当した2人なんです。グオ・フーは最近だと「始まりは君の嘘」の演出もしています。

 あんまり武侠って感じじゃないですよね。

小酒 そうなんです。でもヒット作を数多く演出してきた方で。脚本家はリウ・ファン、「琉璃~めぐり逢う2人、封じられた愛~」や「長安 賢后伝」でチョン・イーを散々不憫に描いてきた方です。チョン・イーは不憫なキャラクターがすごく似合うから「いいぞ脚本家!」と思っていたんですが(笑)。それが「蓮花楼」で、今までの不憫キャラとは違うチョン・イーの魅力を引き出していて、驚きましたね。

 そういえば、原作者の方がインタビューで“チョン・イーは李相夷と李蓮花の距離をとてもよく掴んでいる”と評価されていました。さすがチョン・イーです。

小酒 今までチョン・イーが演じてきたのは、不憫男子で“彼にはどんどん吐血していただきたい!”みたいなキャラクター(笑)。でも今回、李蓮花のような老練でちょっと皮肉屋、世間とは一線を引いているようなキャラクターもこんなに上手に演じられるんだってびっくりしたんです。今まで演じてきたキャラクターと、今回の外連味のあるキャラクター。それが“李相夷と李蓮花の距離”みたいなことにも繋がるのかもしれませんね。本当に上手だった。チョン・イーの演技のレベルが更にもう一段上がったような気がしました。

中編:愛されないなら憎まれた方がいい

李蓮花を演じるチョン・イー
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※1 全員ドラマ化されている方ばかり
桐華(トン・ホワ)はドラマ「宮廷女官 若曦(ジャクギ)」「長相思(ちょうそうし)」、匪我思存(フェイウォスツゥン)はドラマ「東宮~永遠の記憶に眠る愛~」「楽游原」、寐語者(メイユージョー)はドラマ「上陽賦〜運命の王妃」など、小説が数多くドラマ化されている。

※2  チョン・イーのインタビュー
Cinemart掲載のチョン・イーのインタビューより。引用箇所は、前編の「李蓮花というキャラクターを通じて、みんなに伝えたいことは?」への回答。https://www.cinemart.co.jp/article/news/20241101009641.html

対談者プロフィール
小酒真由子
映画界・出版界での会社勤めを経てフリーライターに。『月刊スカパー!』などの雑誌、『見るべき中国時代劇ドラマ』『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』『華流ドラマガイド』などのムックのほか、Cinem@rtにて「『山河令』の台詞を読み解く」「アジアドラマの処方箋」などを執筆。

林穂紅
中華圏ロックの対訳や音楽誌への寄稿を中心に活動後、OSTの仕事をきっかけに中華ドラマの字幕翻訳に従事。編著に『チャイニーズ・ポップスのすべて』(音楽之友社)、記事執筆に『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』『最新!注目スター&中国時代劇ドラマガイド』(キネマ旬報社)、『見るべき中国時代劇ドラマ』(ぴあ株式会社)など。

「蓮花楼」
配信・リリース
・各社動画配信サービスにて配信中!
・Blu-ray BOX1~3 /DVD-BOX1~3発売中(各BD19,800円・DVD16,500円 税込)
・DVDレンタル中(全20巻)
発売・販売元:エスピーオー
https://www.spoinc.jp/official/renkaro/

書籍
「蓮花楼1(れんかろう いち)」 
2025年3月25日発売/2,530円(税込)
※地域や書店によって販売開始時期が前後する可能性があります
著者:藤萍 訳者:浜見凪
ヴォワリエブックス (発行・発売:日販アイ・ピー・エス株式会社)
全4巻、順次発売予定
https://voilierbooks.com/

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