インタビュー|「奇蹟」カイ・シュー(徐愷)&タロ・リン(林毓桐)
医学を志す苦学生、非情に徹しきれないヤクザ、ヤクザ組織で共に育った一蓮托生の同志ーー運命的に出会った4人の“奇蹟”の物語「奇蹟」のBlu-ray・DVD発売にあたり、メインキャストにインタビュー!
複雑な家庭環境に育ち、ヤクザ組織に身を投じる范哲睿(ファン・ジョールイ)を演じたカイ・シュー(徐愷)さんと、トラウマを抱える苦学生の白宗易(バイ・ゾンイー)を演じたタロ・リン(林毓桐)さん。本来接点のないはずの二人が出会い、かけがえのない存在となるまでを、瑞々しく繊細な演技力で表現された白范CPのお二人に、出演の経緯や撮影エピソードなどをお聞きしました。
註)白范CP:「奇蹟」のメインカップル、白宗易と范哲睿を指す略称
カイ・シューさん(左)、タロ・リンさん(右)
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―― まず「奇蹟」出演の経緯を教えてください。
カイ・シュー オーディションの通知を受け取り、まずは原作小説を読み込みました。范哲睿というキャラクターは裏社会の人間ですが、白宗易に出会い繊細で温かな部分が増えていくあたりが興味深く、魅力を感じましたね。オーディションでは、自分なりに范哲睿のイメージを作り込んで臨みました。
タロ・リン 僕は出演が決まった当時、演技の勉強を始めたばかりで、演技指導の先生に「役者になるなら、どんな役であれ理解しなければならない。なぜなら、それが君の職業であり専門だからです」と教わりました。あ、ちょっと答えがずれましたか?(カイ・シュー:タロの思いは……)僕の思いは、今回この役に出演が決まり、芸能界で最初の一歩を踏み出すことができたということです。
―― オーディションの際、実際に演技してみたお互いの感触はいかがでしたか?
カイ・シュー 全員いろいろな人とペアを組んで演技したんですよね。
タロ・リン そうです。互いに化学反応を起こせるかどうか試すためですね。初めてカイを見たとき、「わ、初めてこんなかっこいい人に会った」と胸がドキドキしました(笑)。シャワーの後、范哲睿に引っ張られてベッドに横たわるシーンだったので余計に。
カイ・シュー 2話の「俺と寝たい人は並んで待つんだぞ」と言うあのシーンですね。私は特に何の印象もないような……。もう若くないので(笑)。
タロ・リン カイの経歴自体がもうかっこいいから。
カイ・シュー ははは、あえて言うなら最初タロが白宗易とは思えなかったことかな。小説のイメージでは、白宗易の身長が自分よりこれほど高いとは思ってもみなかったので。でも演じるうち、意外にもだんだん受け入れられるようになって、なぜタロが白宗易かという理由にも合点したんです。一つのことに集中して、時には愚かなほど真っ直ぐ向かっていくところ。それは白宗易に必須の要素です。范哲睿も私も考えすぎて、頭の中でいろんなことがぐるぐる回ってしまうタイプなので、白宗易のように突き進めたらいいのにと思うことがありました。だから、好きだと思わせてくれたのは(タロ・リン:僕の魅力?)そう、タロと白宗易の魅力のおかげです。
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―― タロ・リンさんは初出演にして主演も務められました。瑞々しい演技が印象的でしたが、泣いたり怒ったり感情を爆発させるシーンも多かったですね。
タロ・リン プロデューサーにサポートしてもらって、撮影前にたくさん演技レッスンやワークショップを重ねて撮影に臨みました。泣くシーンは確かに自分には少し難しかったですね。2話の雷が鳴るシーンが初めての泣きの撮影でしたが、いじめられていた子どものころやコーチの怒鳴り声を思い出し、感情を爆発させたんです。その後は、自分の感情の記憶を掘り起こして演じました。
―― 范哲睿は逆に感情表現を抑えがちな役どころで、これもまた難しいと思うのですが、カイ・シューさんは繊細な演技で感情の機微を表現されましたね。
カイ・シュー 確かに難しかったですね。哲睿がなぜこうするのか、リアルな感情や反応の仕方をずっと探っていました。演技指導の先生から一番初めに言われたのは、例えば幼少期に何が起こって彼をどう変えたのかといったキーポイントを書き出すこと。だから撮影前に范哲睿の母親のこと、自暴自棄になりヤクザ組織に入ったこと、そんな隠れた背景をたくさんインプットして役作りをしました。天才型の俳優ではないので、私には多大な努力が必要です。思考に思考を重ねて、全体の脈絡や感情、背景や彼を形作るものをすべてリストにして、自分と似ている部分も探しました。まるで范哲睿の人生を一度生きた感じです。
―― 似ている部分はどんなところですか?
カイ・シュー まず見た目でしょうか。あまり親しみやすいタイプには見られないんです。あと、恋愛経験が豊富そうともよく言われます。実際に付き合った人は二人だけなんですけどね(笑)。
―― それは記事にしないほうがいいですよね?
カイ・シュー いえ、誤解される方もいらっしゃるので、付き合ったのは本当に二人だけと言っておきます。私と范哲睿が似ている点の一つは、恋愛に対して意味のあるつながりを重視しているところです。また、最初のころの范哲睿は偽りの姿を装っていますが、本当は建前や社交辞令も好きではないんです。
―― 内面とは違うということですね。
カイ・シュー ええ、そうです。この共通点を掴んで、この役を演じ終えた後は癒やしを得られました。演じ終えてある程度時間が経ちましたが、最近はプロモーションでもタロと一緒にいて、前よりもっと親しくなってわかったことがあります。後半の范哲睿と同じで、人は信じられる人に出会うと、自分の心を開いて柔らかな一面を見せられるんですね。
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―― 今では固い信頼関係を築かれたお二人ですが、初めての共演シーンはいかがでしたか?
カイ・シュー 確か1話の10元玉を拾ったシーンですね。二人が出会うあのシーンでは、私が地面に倒れた状態でしたよね。しかも人間工学的に厳しい体勢で(笑)。あれは本当に大変でした。タロにとっても最初の撮影でしたから、どれだけリアルに見せられるか、カメラワークや立ち位置を調整して何度もリハーサルしました。でも、まだコミュニケーションも不十分で息が合っていなかったので、タロが掴んだと思ってナイフから手を離したら、側溝の蓋の小さな穴にカランと落ちてしまって……。
―― なくなってしまったんですか?
タロ・リン ええ、そうです。スタッフさんがもう1本用意してくれていたので助かりました。
カイ・シュー だから皆さんが見ているナイフは、元のより少し小さいんですよ。初日はそんな感じでした(笑)。
タロ・リン あのシーンが本当に初めての撮影だったので、当時は何もわかっていなかったんです。怪我するはずないのに、カイに僕の手を握られてナイフを持つのがこわかった。
―― 緊張されましたか?
タロ・リン 10元玉を見つけたシーンでは、実は緊張して全身震えていました。
―― とてもそうは見えませんでした。どのように気持ちを落ち着かせたのですか?
タロ・リン たぶん元々アスリートだからかもしれませんが、一つのことに対して何をすべきか、すべきでないのかは明確に理解しています。だから緊張し始めたとき、努めて理性的に今緊張は必要ない、必要なのはこのシーンの気持ちとセリフ、方向性、この後何をしてどちらへ歩いていくかだけ、と考えているうちに落ち着きました。
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―― カップル感を育むために、何か特別なことはしましたか?
タロ・リン 合宿で同じ部屋に泊まったり、一緒にスポーツジムに行きました。
カイ・シュー 私たちは近くに住んでるんですよ。
タロ・リン それから(カイ・シューに対して)お互いの筋肉への理解を深めましたかね(笑)?(カイ・シュー:ええ)カイはトレーナーの資格があるので(小声で)無料で教えてもらったり、プライベートで一緒にいろいろして親しくなりました。でも、最初からこんな感じだったわけじゃないですよ。実際に付き合い方がわかったのはクランクインしてからかな。撮影現場でどう接すればいいか、超えてはいけない一線はどこなのか、少しずつ段階的に知っていく中で関係を深めました。
カイ・シュー 嘘っぽいのは好きじゃないので、故意にカップル感を作り出したわけではなく、自然にそうなった感じです。私たちはドラマと同じで年齢差があるので、いわゆるジェネレーションギャップが面白く感じました。それにタロが先ほど言ったように、彼にはいじめられた経験があるので、傷つくことを恐れて壁がありましたが、親密なシーンの撮影では信じ合うことが本当に大切です。心を開いてもらえるよう、長い時間をかけて互いに理解を深めていく中、脆さという共通点があることもわかって、だんだんと信頼関係が築けたのだと思います。
―― プライベートでいろいろ一緒にされたということでしたが……。
カイ・シュー タロはF1が好きで、先ほどここに来るときも車中で「わー、GT-Rだ!ランボルギーニだ!」と興奮していました。タロがすごいのは車の型式まで詳しいところ。私もいろいろ教えてもらいました。一緒においしいものを食べに行くのも好きですね。
タロ・リン 道端の小吃とか、ぱっと見地味だけどおいしいお店にね。
―― タロ・リンさんは車好きなんですね。カイ・シューさんはどんなことがお好きですか?
カイ・シュー 山や海に行っていろいろチャレンジするのが好きです。パルクールのコーチもしていますし、「秘境獵人(秘境ハンター)」というYouTubeチャンネルも運営しています。BLドラマも究極のスポーツで、心理的に違う世界への挑戦ですね。
―― パルクールから秘境獵人に発展したのですか?
カイ・シュー ええ。どちらが先ということはないのですが、パルクールは子どものころからしています。怪我もたくさんしましたが、何でもやってみたいですね。何の道具も装備も不要で、自分の体一つで楽しめるジョギングや秘境探検も好きです。鉄やコンクリートのない世界からエネルギーをもらえるので、大自然や混じりけのないものが大好きなんですよね。
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―― 全体を通して、印象深かったシーンは何ですか?
タロ・リン 倒れた范哲睿を僕が腕に抱く8話のシーンです。クランクアップの日の撮影で、僕たち二人、1日中ずっと撮影のために費やしたので、一番難しいシーンを演じ終えたという思いでした。ピザ1枚食べただけで、夜中遅くまで撮影が続きましたね。
カイ・シュー あのシーンは本当に印象深いですね。あとは台風の夜、白宗易を手当てした6-7話のシーンです。過去のトラウマのせいで自分に壁を作り、白宗易に優しくしてはいけないと自制しながらも放っておけない、本当は気があると知ってほしい、そんな葛藤と感情の変化が非常に印象深かったです。
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―― 「奇蹟」をより楽しめる、知られざるエピソードを教えてください。
タロ・リン また8話なんですけど、カイがウェイン(宋偉恩)に殴られて、僕はジュンジー(黃雋智)に蹴られるシーンがありますよね。最初はどう泣こう、つらい気持ちをどう表現しようとずっと考えていて、どこを蹴られているか意識していませんでした。一方でジュンジーは僕に怪我させたくなくて、蹴る力が弱すぎたんです。痛がる演技をするべきときに、いつどこを蹴られているのかさっぱり感触がないからタイミングが合わない(笑)。サポーターも付けているので、ジュンジーに「もっと力一杯蹴ってもらって大丈夫です」と伝えて、やっとそのシーンがOKになりました。
カイ・シュー 私は白宗易が范哲睿に告白した6話のシーンかな。初めて盛大に口から人の顔に噴きましたよ、しかも何回も(笑)。霧状に噴き出すのは本当に大変でした。口の中にビールを含み、吹き出す寸前まで圧をためて一気にビールを気化させたように噴き出さなければいけないんです。(タロに対して)何度もビールを浴びさせたよね?
タロ・リン ええ。僕が一番近づいたタイミングでなければいけないのですが、カイは機械力学に精通しているので、うまくいきました(笑)。僕は車のエンジンといった役割ですね。
―― 毎回ドライヤーで乾かしたんですか?
タロ・リン ええ、そうです。ヘアメイクのスタッフさんが常に横でティッシュを持って待機してくれていました。
―― 「奇蹟」にちなみ、これまでご自身に起きた奇蹟、あるいは未来に起きてほしい奇蹟について教えてください。
カイ・シュー 白宗易がタロのようなタイプとは思いもよらなかったように、人生とは意外性に満ちているもの。自分の考えや先入観を手放し、自然に任せることは大切ですね。撮影時、実は経済的な問題など家族にいろいろあってプレッシャーを感じていた時期だったので、とにかく人生を楽しめばいい、いろいろ気にせず目の前の物事に向き合えばいいと自分に言い聞かせていました。そう思わなければ、きっと混乱して何もかも面倒になっていた。そのとき暗闇の中で目に見えないものに「心を開き、このキャラクターになりきれば癒やされる」と告げられたように感じました。奇跡の瞬間は、カイ・シューと范哲睿がパラレルワールドでゆっくりと重なり合ったと感じたときです。私を選び、この旅を経験させてくれた范哲睿にとても感謝しています。未来に期待する奇跡は、将来自分を無条件に受け入れてくれる人がいると知ること、そのような人を見つけて強さを手に入れたら、この世界を思い切り楽しんで温かいエネルギーを拡散することです。
タロ・リン 自分の身に起きた一番の奇跡は、「奇蹟」というこのドラマに出演できたことですね。演技を学び始めて間もないときに、白宗易という役を演じられるチャンスに恵まれました。(カイ・シュー:しかも主役でね)ええ、それから愛溢れる制作チーム、プロデューサー、先輩方にかわいがっていただけるなんて、本当に人生は奇跡のようなものです。未来に起きてほしい奇跡は、次の作品のオファーがあること。俳優というこの仕事と演技がとても好きなので、僕にとってある種の救いです。
ー―お忙しい中、インタビューにお応えいただき ありがとうございました!
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コメント映像《カイ・シュー&タロ・リン》
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https://www.cinemart.co.jp/dc/t/kiseki.html
聞き手・文:二瓶里美
編集者、ライター。2014年より台湾在住。中華圏のエンターテインメント誌、旅行情報誌、中国語教材などの執筆・編集に携わる。2020年5月、張克柔(字幕翻訳家・通訳者)との共著『日本人が知りたい台湾人の当たり前 台湾華語リーディング』(三修社)を上梓。
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