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『豚が井戸に落ちた日』から見えてくる、ホン・サンス監督の原点|韓流映画祭2023コラム

『豚が井戸に落ちた日』場面写真1
©Lee Woo Seok, Lee Sang Seok, Hwang Yong Gap.

 映画の内容がまったく予想できない奇妙なタイトルを持つ『豚が井戸に落ちた日』は、27年間で30本という驚異的なペースで作品を生み出してきたホン・サンス監督の記念すべきデビュー作だ。人間という生き物をできるだけそのまま映画にするにはどうしたらよいのかを模索し続けてきた彼の原点となるこの作品では、都会に生きる男女の生態をドライに見つめる視線に彼らしさは感じられるものの、その後の作品に見られるような特有のユーモアがほとんど見られず、不穏なメロディーに導かれながら進んでいく虚無的な物語が独自の輝きを放っている。

 この映画が発表された90年代後半は97年に『グリーンフィッシュ』のイ・チャンドン、98年に『八月のクリスマス』のホ・ジノ、『ディナーの後に』のイム・サンス、『情事 an affair』のイ・ジェヨン、『クワイエット・ファミリー』のキム・ジウンと、その後の韓国映画の隆盛を支える監督たちが続々とデビューしていった時期だった。その中にあって『豚が井戸に落ちた日』は、平凡な男女の日常中心のスケッチをオムニバス的に組み合わせるストーリーテリングの新しさで見る者に衝撃を与えた。また、韓国映像資料院が13年に発表した「韓国映画100選」にも選ばれるなど、名作として映画史に名を残している。

『豚が井戸に落ちた日』場面写真2
©Lee Woo Seok, Lee Sang Seok, Hwang Yong Gap.

 映画は売れない小説家ヒョソプと彼をめぐる2人の女性ポギョンとミンジェ、ポギョンの夫ドンウの過ごす数日を一章ごとに描いていく。才能を認められず、鬱屈の中で生きるヒョソプは若い女性ミンジェの好意を利用するような付き合いを続ける一方で人妻であるポギョンと逢瀬を繰り返す。ポギョンの夫ドンウは出張先の地方都市で虚しい一夜を過ごし、映画館のチケット売り場で働くミンジェはヒョソプの誕生日を祝うために訪れた彼の家でポギョンと鉢合わせる。その後、旅に出るためにヒョソプと待ち合わせたポギョンだが彼は姿を現さない。ただ自分の欲望のみに従って行動する彼ら彼女らが交わす言葉は常に噛み合わずにすれ違い続ける。まるで「人間が生きるということは、結局こういうことだろう」と言うかのように……。

 ヒョソプを演じているのは『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』(22)などでもおなじみのキム・ウィソン。ホン・サンス監督とはその後、『自由が丘で』(14)や『あなた自身とあなたのこと』(16)でも組んでいる。また、この作品では、名実ともに韓国最高の俳優となっていくソン・ガンホが、ヒョソプの友人役で映画デビューを果たしている。

『豚が井戸に落ちた日』場面写真3
©Lee Woo Seok, Lee Sang Seok, Hwang Yong Gap.

 今作はホン・サンス作品としては唯一、小説(ク・ヒョソ作『見慣れない夏』)を原作としており、「脚色」として彼以外に4人の名前がクレジットされている。そのことも他作品とのテイストの違いに影響を与えているかもしれない。ただし、タイトルはアメリカの小説家ジョン・チーヴァーの同名短篇からの借用とのこと。そこにどんな意味が込められているのかと、考え続けずにはいられない。

Text:佐藤結(映画ライター)
映画を中心に韓国のエンターテインメントについて幅広く執筆。『キネマ旬報』『韓流ぴあ』『韓国TVドラマガイド』『韓国語学習ジャーナルhana』などの雑誌のほか、『観相師』『海にかかる霧』『インサイダーズ』『SEOBOK/ソボク』ほか、劇場用パンフレットにも寄稿。『TVnavi』ではコラム「エンタメ最前線 韓流Express」を担当。

韓流映画祭2023《第2弾》『豚が井戸に落ちた日』 上映期間:7月21日(金)~7月27日(木)
シネマート新宿:https://www.cinemart.co.jp/theater/shinjuku/
シネマート心斎橋:https://www.cinemart.co.jp/theater/shinsaibashi/

『豚が井戸に落ちた日』トークイベント開催決定!!
7月23日(日)16時の回上映後(20分程度)
トークゲスト:佐藤結さん
映画ライターの佐藤結さんをお迎えし、『豚が井戸に落ちた日』やホン・サンス監督についてお話しいただきます。
チケットは当日劇場窓口、または2日前より劇場窓口/オンラインチケットにて購入可能。
HP:https://www.cinemart.co.jp/theater/shinjuku/ 

『小説家の家族』半券割引キャンペーン
6月30日より公開のホン・サンス監督作品『小説家の映画』の鑑賞チケットの半券を提示いただくと、『豚が井戸に落ちた日』を<1,200円>にてご鑑賞いただける割引キャンペーンを実施!
※他サービス、割引併用不可  ※半券は有料で鑑賞したものに限ります

韓流映画祭2023《第2弾》
「韓流映画祭2023」キービジュアル

2023年7月21日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて開催

[鑑賞料金]一般:2,000円/大学生:1,500円/TCG会員1,400円
高校生以下:1,000円/シニア(60歳以上)1,300円
※各種サービス、利用可

おうちでCinem@rt同時開催
[視聴料金]550円
[視聴期間]48時間
https://www.cinemart.co.jp/vod/

公式HP:https://www.cinemart.co.jp/dc/o/hanryu-2023.html
Twitter:@hanryu_2023
『小説家の映画』
2023年6月30日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
出演:イ・へヨン、キム・ミニ、ソ・ヨンファ、パク・ミソ、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク、キ・ジュボン、イ・ユンミ、キム・シハ
2022年/韓国/韓国語/92分/モノクロ・カラー/1.78:1/モノラル
原題:소설가의 영화 英題:The Novelist’s Film 字幕:根本理恵 配給:ミモザフィルムズ
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公式サイト:http://mimosafilms.com/hongsangsoo/

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