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『ガッデム 阿修羅』特別対談!ロウ・イーアン監督×山口健人監督

平素より大変お世話になっております。6月9日(金)全国順次公開の台湾サスペンス映画『ガッデム 阿修羅』。この度、本作のロウ・イーアン監督×『静かなるドン』『生きててごめんなさい』の山口健人監督による対談記事が公開となった。


『ガッデム阿修羅』場面写真4
©Content Digital Film Co., Ltd

――お二人が映画の道、映画監督としての道を進もうとご決断されたのはどのようなタイミングだったのでしょうか?

ロウ 初めから映画監督になろうと思っていたわけではないです。大学卒業後、クラスメイトで映画制作をしたいという人がいたので、スタッフとして手伝っていました。そして数年たって、他に出来ることがないかと思い、色々なスタッフをやってみたりと長い時間をかけて試行錯誤し、ある時脚本を書いてみたんです。それがきっかけで映画を作り始めました。

山口 僕は、小さいころから映画が好きだったので、いつか映画を作りたいなとずっと思って生きてきました。なので、決断というか、好きだったのでそのままという感じですね。

――では、ご家族も映画がお好きだったりしたのでしょうか?

山口 全然です。むしろ、チャンネル争いで映画を見せてくれなかった。その執念で映画好きがどんどん強くなっていったのかも(笑)。ロウさんは、作品のアイデアが生まれる時というか、映画を作りたい衝動に駆られるのは、どんな時ですか?

ロウ アイデアがパッと生まれるということはあまりないですね。普段生活している中で人々を観察して、段々とストーリーを溜めていく。そしてその人たちのストーリーを組み合わせて膨らませて、映画を作り出しています。

山口 そうなんですね。でも、僕も同じようなことかもしれないです。アイデアが生まれる時っていうのは、普通に生きていて、「面白い人がいるな」とか、ニュースなどを見て、「こういう事があるんだ」と思った時。なんでこんなことが起こってしまったのか、あの人はどういうことを考えているのだろうみたいな疑問から生まれることが多いかなと思います。

――最近のニュースで「これ映画になりそうだな」と思ったものはありましたか?

山口 本当になるかもしれないので、言いません(笑)。でもやっぱり、理不尽な事件って結構あるじゃないですか。それこそ”無差別殺人”を、ロウさんは今回の作品(『ガッデム 阿修羅』)のテーマになさっていますけど、やっぱりそういう理不尽な事とか、理解できないものに触れた時、1番そう思いますかね。裏を知りたいというか。

ロウ 私は、今は…特にないですね(笑)。

『ガッデム阿修羅』場面写真2©Content Digital Film Co., Ltd

――お互いの作品をご覧になってどういったことを感じられましたか?

ロウ 『生きててごめんなさい』の莉奈さんのキャラクターがとても印象的でした。自分も時々何もしたくないと思うときがあります。何もしたくないけど何かしないといけないという葛藤というか、人間のそういうところがすごくリアルで、親近感が湧きました。今私が書いているストーリーの一つに出てくる子どもも、そういうキャラクターにしています。

山口 台湾にも、莉奈みたいな女の人はいるんですか?

ロウ 絶対にいると思います。女性に限らず、男性も絶対いると思いますね。

山口 『ガッデム 阿修羅』は、現実に即しつつ、今を生きる人の姿や感情が本当にきめ細やかに描かれていて、とても素敵だと思いました。また、構成がユニークで、社会問題を描きつつも、エンターテイメントとして、観ていてとてもおもしろかったです。特に後半で、現実ではない世界、あり得たかもしれない人生が描かれている作りがなかなか勇気のいる構成で、とてもかっこいいなと思いました。

ロウ ありがとうございます(笑)。

山口 ロウさんは、作品の中で常に大切にされていることはありますか?

ロウ 今までの作品は、『ガッデム 阿修羅』もそうですが、他の作品も、いつも現実ではありえないことを取り入れています。現実ではありえないようなキャラクターとか、ストーリーとか。

山口 理解できないことを入れるということですね。

ロウ そうですね。ストーリーもそうですし、キャラクターの性格も。例えば殺人犯とか。今までの作品すべてで考えていて、取り入れていましたね。

山口 なるほど、僕も近いかもしれないですが、人の多面性というのは大切にしています。その人の答えを出さないといいますか。安易に「この人ってこうだよね」って結論づけないでいい。よく見える人も悪い一面を持っているし、そういう人間の複雑さみたいなものを常に大切にしたいなとは思っています。

『ガッデム阿修羅』場面写真1
©Content Digital Film Co., Ltd

――『ガッデム 阿修羅』では、6人がタイミングや行動の選択によって、異なる道をたどっていきますが、お二人はご自身の運命が一変したと感じるような瞬間はありましたか?

ロウ 大学受験の時、2ヶ月位前まで数学の点数が全く足りなくて。でも試験当日、たまたま高得点を取り、大学に入れたんですよ。そこから結構人生が変わったなと思います。大学に行ってよかったです(笑)。

山口 大学は、映画系の大学だったのですか?

ロウ 大学は広告専門でした。

山口 へえ~。初めて映画を撮った、自分で監督したのはいつなんですか?

ロウ 2004年に初めて単独で、短編映画を撮りました。大学卒業後に友達の手伝いで映画に関わって、そこから流れで監督になって、撮りました。

山口 手伝いは監督ではなくスタッフとしてですか?

ロウ そうです。録音とか。 その映画を作っていたグループも、すごく狭いというか、10人くらいの少人数でやっていたので、それぞれの作品をお互い手伝って、もう何でもやっていました。

山口 そうなのですね。僕もやっていましたね、カメラマン。

――山口監督は?

山口 運命が一変した瞬間…。あんまりないかも。自分の好きなことをやっていて、いつの間にかここにいたので。あ、でも藤井(道人)さんと出会ったことかも。大学卒業して、「映画監督になるんだ!」と思ってフリーターとして色々な撮影現場に行ったりしていて、たまたま藤井さんに出会って。その時はまだ藤井さんも、『オー!ファーザー』を撮った後ぐらいで、インディーズをまだやっていて。藤井さんと出会ってその繋がりでBABEL LABELに入ったので、それですかね。

――尊敬している作品や、監督についてお聞かせいただけますか?

ロウ メキシコの監督が撮ったアメリカの映画…アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督や、ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品とか。

山口 僕も好きです。

ロウ この監督の作品はすごく好きですね。

山口 僕も今ロウさんが言っていたポール・トーマス・アンダーソン監督はすごく好きで、全作品好きなのですが、『ファントム・スレッド』という作品が特に。1900年代初頭を舞台にした仕立屋と田舎の娘のラブストーリーで。ダニエル・デイ=ルイスが主演で、一見すごく格式高い恋愛映画に見えるんですけど、実は結構ぶっ飛んでいる恋愛映画で、すごく好きですね。

――お二人の作品は、例えば、山口監督の『生きててごめんなさい』『それでも僕は夢を見る』、ロウ監督は本作『ガッデム 阿修羅』などにおいて、若者にまつわる社会問題や若者の悩みを題材にされている点で共通していると感じましたが、それらの作品を通して、見ている人に伝えたいメッセージなどはございますか?

ロウ 自分の作品に関して、観客たちに伝えたいことは色々ありますが、一番伝えたいのは、人が起こす言動の理解できない部分。実はこの映画の登場人物6人のなかに、自分の一部分も描いているのです。前の作品でも描きましたが、普通に生きていたのに、この人はどうしてこんなことをしたのだろう、というところですね。理解できない部分を伝えたいです。

山口 自分の思想をおしつけたくないので、メッセージは描かないようにしています。自分が思った疑問などを描いているので。でも、それこそ今ロウさんが仰っていたことと一緒で、やっぱり登場人物の中に自分の一部みたいなものがあったりします。単純に僕が日頃思っていることとか、僕が疑問に感じていることを、作品を通して描いています。でも、上からこう何か伝えたい、「これはこうだ!」と決めきるということではなくて。『ガッデム 阿修羅』も本当にそうだなと思ったのですが、「こういう人ってどう思う?」ということを問いかけたい気持ちはあるかもしれないですね。

『ガッデム阿修羅』
『ガッデム阿修羅』キービジュアル

2023年6月9日(金)よりシネマート新宿他にて全国順次公開


出演:黃聖球(ホァン・シェンチョウ)/莫子儀(モー・ズーイー)/黃姵嘉(ホァン・ペイジァ)/潘綱大(パン・ガンダー)/王渝萱(ワン・ユーシュエン)/賴澔哲(ライ・ハオジャ)
監督:樓一安(ロウ・イーアン)
エグゼクティブ・プロデューサー:高君亭(ガオ・ジュンティン)/徐國倫(シュー・グォルン)/王興洪(ワン・シンホン)
プロデューサー:陳彥翰(チェン・イエンハン)
脚本:樓一安(ロウ・イーアン)/陳芯宜(チェン・シンイー)
原題:該死的阿修羅/英題:GODDAMNED ASURA
字幕:夏國明/配給:ライツキューブ
2022/台湾/5.1ch/114分/DCP/台湾語 中国語

HP:https://goddamnedasura.com/
Twitter:https://twitter.com/asura_movie0609

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