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中国ドラマあるある「吐血」を探る ~4つの吐血と、吐血の名優たち~|#たのしいアジアドラマ 番外編


皆さんは中国ドラマあるあると聞いて何を思い浮かべるでしょうか? 「役者本人の声じゃない」「なぜか皆、空を飛ぶ」に続き、よく挙がるのが「吐血しがち」です。

中国ドラマでは、時代劇を中心に血を吐くシーンがよく登場します。なんと1作で80回以上も吐血シーンがあったドラマも! 一体ドラマではどんな場面で吐血の描写があるのでしょう? また吐血シーンにはかなりの演技力が求められるって本当? 実際のドラマから紐解いていきましょう。

※口から血を吐くという症状は、一般的に胃や食道など消化官から出血する「吐血」と、肺や気管支などから出血する「喀血」に分けられますが、この記事では便宜上、口から血を吐き出すシーンを全て「吐血」と表現しています。

中国のエンタメにおける吐血表現

中国テレビドラマにおける吐血表現は、ドラマが産業として地位が高まった90年代に確立されたと言われています。

しかし、文学作品ではかなり以前から吐血表現が見られます。例えば明代に書かれた小説『三国演義』では、武将が事あるごとに吐血。その理由も病気や怪我にとどまらず、怒りのあまり吐血、そして憤死というパターンも。例えば赤壁の戦いで活躍した呉の武将・周瑜には罵倒されて吐血 というシーンが。きっと言葉にならないくらい頭にきたのですね……。

「三国志」周瑜の吐血シーン
「三国志 Three Kingdoms」©中国伝媒大学電視制作中心、北京東方恒和影視文化有限公司

中国のエンターテイメントにおける吐血表現は一種の心理描写の手法として、長い歴史があると言えます。では、ドラマにおいて吐血はどんな風に描かれるのでしょうか? 主な吐血シーンを実際の作品から見ていきましょう。

中国ドラマ「吐血あるある」シーン ① 負傷して吐血

戦場や敵とのバトルで負傷し、その結果、吐血。物理攻撃でも気功のような目に見えない攻撃でも血を吐くときは吐きます。それも口の中を切った程度ではなく、かなりの量を「ゴボッ」と吐くことも。内臓を負傷したのではないかと心配になりますね。とにかく負傷しての吐血は「比較的大きなダメージを受けた」という描写だと見て間違いないでしょう。

実例を見ると、正義に燃える少年を描いたアクション時代劇大宋少年志~secret mission~では主人公の元仲辛(げんちゅうしん)が敵と近接戦になった際に、お腹を蹴り飛ばされて血を吐いていました。

「大宗少年志」吐血シーン
「大宋少年志~secret mission~」より。バトル中に負傷して吐血する元仲辛。辛そうにしていますが、駆けつけた仲間に「臓腑のほうは無事だ」と話します。どこを怪我したのでしょうか……?
©MANGO STUDIOS CO., LTD.


中国ドラマ「吐血あるある」シーン  ② 体調不良で吐血

中国ドラマにおける体調不良由来の吐血は、「病弱な人物」「病を得て病状が悪化」の描写であることが多いです。また死期の暗示であることも。

隋の初代皇帝の妃の一代記「独孤伽羅〜皇后の願い〜」では、ヒロインの父・独孤信(どっこしん)が肺病から吐血を繰り返し、自身が余命わずかであることを悟りました。

   「独孤伽羅」独孤信の吐血シーン
「独孤伽羅〜皇后の願い〜」より。何度も咳き込み、吐血してしまった独孤信。後に大医から余命宣告を受けてしまう
©北京希世紀影視文化發展有限公司 ©Beijing Hope Century Motion Pictures Co., Ltd

中国ドラマ「吐血あるある」シーン ③ 毒で吐血

毒による吐血は、視聴者に「口にしたものが毒であること」、もしくは「毒が効いていること」を示しています。吐血のタイミングは、毒を口にした瞬間と、ジワジワ効いて後ほど吐血するパターンがあります。

ファンタジー時代劇「霜花の姫~香蜜が咲かせし愛~」では、ヒロインの錦覓(きんべき)が毒を盛られ、その毒が体に回りきった結果、吐血し、一度命を落としました。

「霜花の姫」錦覓の吐血シーン
「霜花の姫~香蜜が咲かせし愛~」より。毒を盛られ、死の直前に大量に吐血する錦覓。
©Jiangsu Broadcasting Corporation International Co., Ltd

余談ですが、毒を盛られた人の唇が真っ青になりがち。これも「あるある」かもしれません。


中国ドラマ「吐血あるある」シーン ④ 心理的ダメージで吐血

中国ドラマでは大きなショックを受けたことでも吐血します。怒り、悲しみ、驚き……負の感情が体を駆け巡った出た結果、体が耐えられなくなったと言ったところでしょうか。怒りの場合はそのまま憤死することもあるくらいです。

心理的ダメージによる吐血では、血の吐き出し方、表情にも注目しておきたいところ。

武侠ブロマンス「山河令」では、主人公・周子舒が、知己である温客行が死んだと聞き、ショックのあまり吐血。中国でこのシーンは「最も美しい愛情表現」と称されました。

「山河令」周子舒の吐血シーン
「山河令」より。温客行が死んだと聞き、吐血する周子舒。吐血直前の表情も注目です
©Youku Information Technology (Beijing) Co., Ltd.

中国ドラマの吐血シーンには、原因、吐き出し方、表情などに様々な情報や感情が込められていることが見えてきますね。


吐血には演技力が必要!

そんな吐血演技は誰でもできるものではありません。一歩間違えるとコミカルに見えかねないため、しぐさ、吐く血の量、吐血の前後の表情など、かなりの演技力が求められるそう。続いては吐血演技に定評のある俳優を紹介します。


「吐血プリンス」ことチュー・イーロン

鎮魂」の吐血シーンが「美しすぎる」と話題になったのが若き大学教授・沈魏役を務めたチュー・イーロン(朱一龍)です。チュー・イーロンは役にのめり込むタイプで、彼の演技はかなりエモーショナルだと言われますが、それは吐血シーンも同じであるよう。

「鎮魂」沈魏の吐血シーン1
「鎮魂」©Youku information technology (Beijing) co., LTD

彼が演じる吐血シーンは、感情に訴えてくるものがあります。さらに吐血シーンで見せる潤んだ瞳と、血糊で紅をさしたようになる口元が儚げで美しいのも人気。

吐血表現の妖しいまでの美しさと、彼が出演作の多くに吐血シーンがあることから中国のファンの間では「吐血プリンス(吐血小王子)」と呼ばれています。

「鎮魂」沈魏の吐血シーン2
「鎮魂」©Youku information technology (Beijing) co., LTD

優雅さに定評のウォレス・フォ

吐血シーンの表現力と優雅さに定評があるのがウォレス・フォ(霍建華)です。「花千骨(はなせんこつ)~舞い散る運命、永遠の誓い~」で演じた白子画は、仙界を守る仙人のうち最も高貴な人物。吐血シーンにもどこか優美さがあります。

その優美な吐血演技は視聴者を魅了し、「ウォレスの吐血回は視聴率が上がる」とさえ言われたほど。ちなみに白子画は劇中で10回以上吐血していますが、原因は様々。それらを全て演じ分け、視聴者の心をグッとつかむとは、さすがはベテラン俳優ですね!

「花千骨」白子画の吐血シーン
「花千骨(はなせんこつ)~舞い散る運命、永遠の誓い~」©CIWEN(SHANGHAI)MEDIA LIMITED

ブレイク作で80回以上も吐血! チョン・イー

ドラマ「琉璃~めぐり逢う2人、封じられた愛~」の禹司鳳(う・しほう)役でブレイクしたチョン・イー(成毅)。ヒロインを思う一途な姿にキュンとした視聴者も多いなか、同時に注目されたのが吐血シーンの多さ。なんと全59話で80回以上吐血しているそうです。

ブレイク作で一気に吐血演技の名手としても知られるようになった訳ですが、当然、他の作品もと期待してしまいますよね。彼は、中国で「琉璃」と同じ年に放送された「長安 賢后伝」でも見事な吐血演技を見せています。

「長安 賢后伝」チョン・イーの吐血シーン
「長安 賢后伝」© 2019 Dongyang Yueshi Media Co.,Ltd and Mediaquiz International Holdings Limited.

吐血で女優魂を見せたチャオ・リーイン

愛らしい容貌でお馴染みのチャオ・リーイン(趙麗穎)ですが、吐血シーンではその高い演技力で普段の姿から想像もできないような凄みを見せてくれます。彼女の鬼気迫る吐血演技は「美貌に頼らない本物の女優」と高く評価。特に「花千骨」の吐血シーンでは口元だけでなく、満身血まみれになって訴える姿が視聴者の涙を誘いました。

「花千骨」花千骨の吐血シーン
「花千骨(はなせんこつ)~舞い散る運命、永遠の誓い~」©CIWEN(SHANGHAI)MEDIA LIMITED

リアリティと美しさのヤン・ミー

吐血シーンは強く感情に訴える効果がある一方で、その吐き方や量が少し違うだけで急にコミカルになりかねない、言わば諸刃の剣です。そのため役者にはかなりの演技力、そして、リアリティと美しさを感じさせる技術が求められます。美しさとリアリティとのバランスで定評があるのがヤン・ミー(楊冪)です。

ヤン・ミーの吐血は「永遠の桃花~三生三世~」のものも高い人気がありますが、その後「扶揺(フーヤオ)~伝説の皇后~」ではさらに磨きがかかった吐血を見せ、中国の評論家も「さすがはヤン・ミーだ」と絶賛。「扶揺」では、真っ赤な衣装で血を吐く姿が特に強い印象を残し、本作を代表する吐血シーンになりました。

「フーヤオ」ヤン・ミーの吐血シーン
「扶揺(フーヤオ)~伝説の皇后~」© Jetsen Huashi Wangju Media Co., Limited

一口に「吐血」と言ってもとても奥深いものです。皆さんもぜひお気に入りのシーンを探してみてくださいね。


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\次の「#たのしいアジアドラマ番外編」はこちら/

Text:沢井メグ(ライター/中国語翻訳者)
大学で中国語と出会い上海留学、上海万博での勤務を経てライターとなる。エンタメ系を中心に中華圏のニュースの執筆、取材、翻訳。主な訳書に台湾ドラマ『いつでも君を待っている』の原作『用九商店』(トゥーヴァージンズ)等
Twitter  @Megmi381

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