「清越坊の女たち」歴史&用語解説 ~歴史と文化を知ればもっと面白い!~《清越坊の女たち:特集1》
「瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」のプロデューサー、ユー・ジョンが手がけた新作時代劇「清越坊の女たち〜当家主母〜」が日本上陸! 「瓔珞<エイラク>〜」と同じく清朝・乾隆帝時代が舞台となる本作は、経済・文化の中心地・蘇州で伝統織物の技術を受け継いでいく女性たちが主人公。2回にわたる特集の第1回は、物語の背景となる歴史や文化について解説します。
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「清越坊の女たち」特集① 目次
1. 「清越坊の女たち」のあらすじ
2. 物語の舞台は乾隆帝から嘉慶帝時代の蘇州
3. 用語解説(文化編)
4. COLUMN 1「正妻と妾」
5. 用語解説(政治編)
6. COLUMN 2「清代の織造局」
7. 「清越坊の女たち」DVD情報
「清越坊の女たち」のあらすじ
蘇州の四大織り元、任(じん)家で伝統織物・緙絲(こくし)の技術と経営を学んだ沈翠喜(しんすいき)は当主の任雪堂(じんせつどう)と結婚して工房・清越坊(せいえつぼう)を仕切る女主人となります。しかし、任雪堂が愛しているのは幼なじみの恋人で元令嬢の曽宝琴(そほうきん)。任雪堂は蘇州知府だった父親の汚職の罪で没落し楽戸(がっこ)に身を落とした曽宝琴を身請けすると別宅に囲います。その結果、正妻の沈翠喜と妾(めかけ)の曽宝琴は女性のプライドを懸けて対立することに。
そんな中、蘇州では生糸の値上がりが続いて不穏な陰謀の影がちらつき、任雪堂が行方不明となります。さらに、心に傷を抱えて生きる魏良弓(ぎりょうきゅう)が現れたことで、沈翠喜と曽宝琴の関係も変化していくことになります。
物語の舞台は乾隆帝から嘉慶帝時代の蘇州
清の第6代皇帝・乾隆帝の治世は文化や経済が繁栄した清代の最盛期と言われています。乾隆帝は江南地方を巡る視察旅行「南巡」を6回行い、蘇州は乾隆帝のお気に入りの地となりました。
蘇州はマルコ・ポーロが「東洋のベニス」と呼んだ運河の流れる美しい街並みや庭園で知られる古都。古くから刺繍や織物の技術が発達したほか、崑曲などの芸能文化や学問も盛んで、清代には商業地としてさらに発展しました。
用語解説(文化編)
家事を取り仕切る女主人。基本的には当主の正妻です。同じ清代の商家を舞台にした「月に咲く花の如く」では子供のないヒロインが夫の亡き後に家督を巡って争いますが、本作でも任雪堂の失踪後、子供のない沈翠喜が「当家主母」の地位を守るべく知恵を巡らせることになります。
©2022 Huanyu Entertainment Co., Ltd.
蘇州の名産品として知られる中国伝統のつづれ織り。2009年に世界無形文化遺産に登録されました。宮廷御用達の伝統織物で、同時代を描いた宮廷ドラマ「瓔珞<エイラク>~」にも妃嬪たちの衣装などで登場。表と裏に立体的な模様が織り込まれる精緻な織物で、特に名画を再現した作品などは芸術品として高く評価されています。
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任家の経営する織物工房。ここでは養蚕から糸づくり、染色、機織りまで手がけて緙絲をはじめとする織物を生産しています。その商品は経営する店舗で販売したり、織造局の発注を受けて宮廷に納めたりしています。
蘇州で織物業を営む大商家は任家のほかに陸家、趙家、張家があり、この4家が「四大織り元」と呼ばれています。その代表として織造局との連絡役を務める「領職」は3代続けて任家が務めており、沈翠喜は「四大織り元」と協議して生糸の値上がりに対応しようと考えます。
犯罪人の娘となった曽宝琴は「楽戸」に身分を落とし「行院」と呼ばれる妓楼に送られました。当時、楽器や歌などで娯楽を提供する「楽戸」は差別の対象となる賎民でした。その後、任雪堂が大金を使って彼女を「行院」から身請けし「楽戸」の身分からも抜けさせ、妾として娶れるように計らいます。
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劇中で曽宝琴と魏良弓が歌っているのが「崑曲」。14世紀の蘇州・崑山で生まれた中国の伝統演劇で、美しい衣装、楽器演奏や歌によって物語を上演する芸術です。「君、花海棠の紅にあらず」のテーマとなっている京劇よりも歴史が古く、「百劇の祖」と呼ばれています。
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COLUMN 1「正妻と妾」
宮廷で皇后とその他の妃たちの身分にはっきりと違いがあるように、庶民の一族でも正妻と妾の待遇には大きな差がありました。妾は正門から輿入れできず、夫と正妻に跪くだけの婚礼が行われ、夫との共寝は多くて5日に1度。毎朝、正妻に挨拶を欠かしてはならないなど正妻に尽くすことが義務づけられていました。また、妾は子供を産んでも一緒に暮らせるとは限らず、正妻に子供がいない場合などは、正妻が嫡母として妾の子供を育てることも珍しくありませんでした。
用語解説(政治編)
科挙|かきょ
官吏の登用試験。本試験は「郷試」「会試」「殿試」があり、高級官僚となるには「殿試」で「進士」となって「朝考」を受験する資格を得る必要がありました。魏良弓はわずか16歳で「郷試」に受かった秀才で都に行って「会試」を受けるように勧められますが、彼はそれを拒みます。一方、任雪堂は商家の生まれですが科挙で出世を目指します。
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「知府」は地方行政を担当する長官。曽宝琴の父親は「蘇州知府」でしたが、乾隆帝の「南巡」を迎える大金を工面するために多額の借金を作った末、汚職の罪で失脚し、一族は没落して曽宝琴以外は皆、命を落とすことになりました。
織造局|しょくぞうきょく
織物を生産・管理する役所。清代には北京、南京、杭州、蘇州に設けられていました。劇中に登場する「蘇州織造局」の長官・李照(りしょう)は野心家の役人で、沈翠喜と対立することになります。
海禁令|かいきんれい
元代末から海賊が暗躍したことから、明代には海賊を取り締まり密貿易を禁止するために海上利用を制限する「海禁令」が敷かれ、その政策は清代にも引き継がれました。本作にも海賊が登場し、彼らを利用した陰謀などが描かれます。
杖刑|じょうけい
杖で背中や尻を打つ刑。五刑と呼ばれる笞刑(鞭打ち)・杖刑・徒刑(強制労働)・流刑・死刑の中では比較的軽い刑ではありますが、清代では姦通などの罪状に問われた女性は人前で肌を露出した状態で打たれることになりました。そのため女性にとっては名節を汚されて生きていけなくなる、死にも等しい刑でした。
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COLUMN 2「清代の織造局」
清代は各地の織造局が政治に大きな影響力を持っていました。例えば康熙帝時代、蘇州織造局の長官を務めた李煦は現地の経済や社会状況、官吏の評判などの情報を皇帝に直接報告する役目を果たしていました。なお、李煦の妹が嫁いだのが江寧織造局の長官・曹寅。「紅楼夢」の作者として有名な曹雪芹は曹寅の一族で、彼の父も康熙帝時代に江寧織造局の長官として栄華を誇りました。しかし、雍正帝に代替わりすると没落、曹雪芹はその後、貧しい生活の中で「紅楼夢」を書いたと言われています。
観る前の予習、観た後の復習に押さえておきたい見どころをご紹介します。
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©2022 Huanyu Entertainment Co., Ltd.
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TEXT: 小酒真由子(フリーライター)
映画界・出版界での会社勤めを経てフリーライターに。アジアから欧米までドラマについて執筆しています。双葉社『韓国TVドラマガイド』にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を連載、Cinem@rtにて「『山河令』の台詞を読み解く」「アジアドラマの処方箋」などを執筆。
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