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独占配信中!『悪いやつら』よくあるノワールものとは一線を画す “살아 있네!”な一本

1990年の盧泰愚(ノ・テウ)大統領による「犯罪との戦争」宣言で暴力組織の摘発が激化する中、熾烈な生存競争を繰り広げる釜山の裏社会の男たちを描いた『悪いやつら』は2012年に韓国で大ヒットし、翌年公開された日本でも話題となりました。タイトルや、コワモテの男たちがずらりと並んで闊歩するポスターからは、ヤクザな男たちの仁義なき戦いが想像できますが、主人公のキャラクターはよくあるノワールものとは一線を画しています。

一介の税関職員だったチェ・イクヒョンは、解雇されると同時に偶然見つけた大量の麻薬をさばくため、紹介されて暴力団トップの男チェ・ヒョンベと会うと、たまたま彼が遠縁だったことで、いつの間にかビジネスパートナーの座に収まります。

そこから、カタギでもヤクザでもなく、その時々で都合よくどちらかに寄って、生き残るために必死に立ち回るイクヒョンの悪あがき人生が始まるのです。何度となく危機に陥ろうとも、あらゆる血縁やコネを頼って舌先三寸で切り抜けていく姿は、時に滑稽でぶざまに見えますが、あまりのなりふり構わなさはむしろ潔いと思えなくもありません。


『悪いやつら』©2012 SHOWBOX/MEDIAPLEX AND PALETTE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

そんな泥くさいイクヒョンを演じるため、実に10kgも増量して臨んだチェ・ミンシクの自在な演技が圧巻です。ソウル育ちの彼は釜山方言には苦労したそうですが、イクヒョンが劇中「イケてるね」といった意味で言う「살아 있네(サラインネ)」というセリフは大流行。韓国映画最高の名セリフとも言われ、今ではすっかり浸透しています。

他方、何の意地も矜持も持たないイクヒョンとは対照的なヒョンベに扮したハ・ジョンウの存在感も負けていません。上半身全体に彫り物を入れたヒョンベは義理を重んじる典型的なヤクザ。寡黙で声を荒げるようなことのない彼が、表情も変えずにビール瓶やカラオケマイクで容赦なく相手に制裁を加える場面は、これぞヤクザという感じ満点。


『悪いやつら』©2012 SHOWBOX/MEDIAPLEX AND PALETTE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

主役二人をはじめとする名優たちの演技合戦が何と言っても楽しい本作。豪華なキャストが顔を揃えた中、公開当時は馴染みが薄かったものの、今では誰もが知る有名俳優になった人が何人も出演しています。

中でも、ヒョンベの右腕チャンウ役で映画デビューを飾ったキム・ソンギュンに注目です。この演技で大鐘賞をはじめ各映画賞で新人賞を受賞し、続くドラマ「応答せよ1994」で人気・知名度をさらに高めました。ちなみに彼の長男は本作の最後で、イクヒョンの1歳になる孫息子として登場。デビュー作で親子共演を果たしたというわけです。

ほかにチョ・ジヌン、マ・ドンソクなど、韓国映画を面白くする俳優たちがそれぞれに持ち味を発揮しています。そんな中、改めて見直してみて「こんな人も出ていたのか!」と驚いたのが、クァク・ドウォン演じる検事の横で黙々と任務を遂行する捜査員役のユ・ジェミョンです。ドラマ「梨泰院クラス」や「ヴィンチェンツォ」などで誰もが知る名脇役となった彼ですが、この時はセリフもほとんどなく大きな役ではありませんでした。それでも、妙に目立っている気がします。

年月を経て映画を見直す楽しみの一つでもある、こうした“発見”が本作ではちょい役にも。ヒョンベの仕切るナイトクラブのステージで、当時絶大な人気を誇っていたグループ「消防車(ソバンチャ)」として登場し、「全然似てない!」と罵倒される3人組が出てきます。そのうちの2人はコ・ギュピルとクォン・ユルだったということを、クレジットを確認して初めて知りました。今では名脇役と主役級として活躍する彼らの出番はほんの一瞬ですが、実際の彼らを真似たアクロバティックなパフォーマンスは一見の価値あり。




『悪いやつら』©2012 SHOWBOX/MEDIAPLEX AND PALETTE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

80年代後半や90年代初頭の釜山という、時代や土地の空気を感じられるのも本作の大きな魅力。1979年生まれのユン・ジョンビン監督は、映画の時代はまだ子供でしたが、釜山の公務員だった父の知人たちに取材を重ねてシナリオを練り上げたそうです。本作では、冒頭で警察に連行されるイクヒョンを取り囲む報道陣の中でカメラマンとして、ちらっと顔も出しています。

ハ・ジョンウとは名コンビとして知られている監督。本作の後も『群盗』『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』を次々ヒットさせ、まさに「살아 있네!」と声をかけたくなる活躍を続けています。


Text:小田香
出版社勤務を経てフリーとなり、01年頃より日韓の俳優、映画・舞台関係者に数多く取材。現在は『韓流ぴあ』『韓国TVドラマガイド』等の韓流誌を中心に、ミュージカルや映画・華流ドラマについての寄稿も行っている。著書にノベライズを手がけた『イニョプの道』がある。毎週金曜日AuDee配信の番組 「韓流ぴあpresents K❤❤❤(Love Max)」に不定期出演中。

  

\独占配信中!!『悪いやつら』が観られるのはおうちでシネマートだけ!/



1982年、釜山。賄賂でクビになった元悪徳税関職員のチェ・イクヒョンは、裏社会の若きボス、チェ・ヒョンベが遠い親戚であることに気づく。2人は結束して一気に釜山を掌握する。だが、1990年にノ・テウ大統領が組織犯罪を一掃する“犯罪との戦争”を宣言したことをきっかけに、2人の間には次第に亀裂が生じてゆく……。
旧作440円(税込)(視聴可能時間:48時間)
※「おうちでCinem@rt」は月額制ではなく、作品ごとの購入となります。

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