「お仕事です!~The Arc of Life~」から知る、台湾華語の人称のこと【ドラマから知る台湾のこと #11】
この連載では、台湾のドラマ(ときどき映画)を観て感じた小さな疑問をきっかけに、台湾のくらしや文化をご紹介していきます。
教えてくれるひと:ローズさん
台湾・高雄生まれ、来日7年目。日本の映像系企業に勤務。台湾で10年間劇団に参加し、ドラマを観ることも大好き。言語と文化に興味を持ち、毎日日本人の旦那さんと日台文化の違いを楽しく体験している。将来の目標は台湾と日本の架け橋になること。
ローズさん 前回は「お仕事です!~The Arc of Life~ 」(以下、「お仕事です!」)に登場する台湾の飲み物について話しましたね。実は本作で、私が特に紹介したいキャラクターがいるんです。
― どのキャラクターですか?
ローズさん ジエン・マンシュー(簡嫚書)さんが演じる、永遠の愛を探し求める受付嬢・美季(メイジー)というキャラクターです。
(原作マンガでのキャラクター名は鴨下ミキ)
― どうしてこのキャラクターを特に紹介したいんですか?
ローズさん 日本語字幕では表現しづらいのですが……実はこのメイジーというキャラクター、一人称がちょっと珍しいんです。でも、それが彼女のキャラクターにぴったりなんです! 日本語では、性別や使う場面によって一人称を変えますよね? 私、僕、俺、自分……などたくさんありますが、台湾華語では基本的に「我(ウォ)」を使うのがほとんどです。でも、メイジーは、自分のことを言う時に、「我」ではなく「人家(レンジャ)」と言っているんです!
― レンジャ? 漢字的になんだか「人が住む家」と認識してしまいそう…。「我」と全然違いますが、「人家」も一人称になるんですか?
ローズさん 「人家」は、台湾でも日本と同じく「人が住む家」、もしくは「他人/人様」という意味として使いますが、自分のことを指す場合もあります。でも、台湾でも日常生活で自分のことを「人家」と言う人はそんなにいないんです。この一人称はとても甘えているように聞こえるので、恋人や親しい人に甘えるときだけ使うのがほとんど。メイジーのように、職場でも誰に対しても、自分のことをいつも「人家(レンジャ)」という人は、台湾でも基本的にいないですよ。
― すごく珍しい使い方なんですね。
ローズさん これは監督兼プロデューサーのジェリー・フォンさんが出した指示みたいです。メイジ―役を演じるジエン・マンシューさんも、この一人称を自然に言いだすのにかなり工夫したみたいです。でも、この一人称を使うことでメイジ―の性格がもっと鮮明になっていると思います。
実はメイジ―のように、甘えているように自分のことを「人家」と言い、異性に好かれるように努力するキャラクターは一見嫌われやすいタイプに思えますが、ジエン・マンシューさんはとてもバランスよく上手く演じたので、むしろ可愛くて愛嬌たっぷりなキャラクターになりました。その演技が高く評価され、去年(2021年)10月に発表された第56回金鐘奨で、ジエン・マンシューさんはメイジ―役で最優秀助演女優賞を受賞しました。
― 一人称から既に工夫があったなんて、面白いです! メイジー以外にも、辣腕な起業家・小蔦(シャオニャオ)と忠実で実践力が強い設計士・夏芷(シア・ジー)も個性的で魅力のあるキャラクターですよね。この女性三人のやり取りが面白くって。
ローズさん ちょうど三人の話が出てきたので、もう一つ台湾華語のトリビアをお伝えしましょう ! 実は本作の原題「她們創業的那些鳥事」の中には三人称が入っているんです。 先頭の二文字「她們(タ―メン)」というのは、「彼女たち」という意味です。「她」(ター)は女性の三人称、「們」(メン)は複数を表す「たち」の意味です。ちなみに、男性の三人称「彼」は「他(ター)」、二人称の「あなた」は男性だと「你(二―)」、女性だと「妳(二―)」になります。
― だから「愛してる」は「我愛你(ウォアイニー)」なんですね!
ローズさん もう1つ原題についてご紹介すると、最後の「鳥事(ニャオシー)」、実は台湾華語では「嫌なこと」を「鳥事」と言うんです。なので、原題「她們創業的那些鳥事」というのは、「彼女たちが起業する時に遭う嫌なこと」という意味なんです。ルビー・リン(林心如)が演じる小蔦(シャオニャオ)役の名前も、主人公たちが立ち上がるブランドの名前「リトルバード」(Little Bird)も原題と繋がっていますよ!
― 面白い! 今日は台湾華語についてたくさん教えてくれてありがとう!
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「お仕事です!~The Arc of Life~ 」
◎DVD-BOX1:2021.12.24(金) DVD-BOX2:2022.2.2(水) 各13,200円(税込)
◎レンタルDVD 2022.1.7(金)より全13巻順次リリース
2020年|台湾 発売元:コミックリズ/エスピーオー 販売元:エスピーオー
原作:「お仕事です!」(小学館刊) ©柴門ふみ/小学館 ©2021 Comic Communication Co., Ltd. All rights reserved.
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