台湾ニューシネマのあとで|第1回 芸術と産業、台湾映画の発展に向けて
5月に開催予定だった「台湾巨匠傑作選2020」がいよいよ明日から幕を開ける。待っていて下さった方が大勢いることは、本当にうれしい。
台湾映画をまとめて見られるこの特集上映は、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)やエドワード・ヤン(楊德昌)ほかによる"台湾ニューシネマ"と呼ばれる1980年代〜90年代にかけて当時の若手監督達による作品群を紹介してきた。そこから年代やジャンルを広げ、今年は未公開作まで含まれ、多彩なラインナップとなった。そしてこれは、台湾映画史をたどる映像の旅でもある。
台湾映画といえば、ホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』やエドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』が国際的に高い評価を得て有名だが、同時に"暗くて重い"というイメージも背負ってしまった。そして、台湾人でこれらの映画を見る人は少なかった。
映画館で多くの観客を呼び込めるのは、ハリウッド映画がほとんど。アクションやラブストーリーなど、エンターテインメント作品しかヒットしないのだ。しかし時代の流れと新しい世代のクリエイターたちの登場により、台湾映画は徐々に変わっていく。
2001年、アジアを席巻したドラマ「流星花園〜花より団子〜」に始まるアイドルドラマの成功で、このムーブメントを映画にも、と考えるのは当然の成り行きだ。"台湾人が見たいと思う映画"を作る為、映画人たちの試行錯誤が始まる。様々なアプローチの中で、ふたりの映画人の功績を紹介しよう。
一人はホウ・シャオシェン。自らの創作活動と平行して台湾映画界の発展のため金馬奨(※1)や台北電影節(※2)の主席をつとめ、ワークショップの創設、プロデューサーとして若手育成に尽力するほか、その功績は枚挙にいとまがない。「流星花園〜花より団子〜」の続編でオリジナル脚本で製作した「流星花園 II 〜花より団子〜」のプロデューサーに名を連ね、オリジナリティとクォリティアップのサポートもしている。
もう一人は、2002年に台湾で公開され青春映画のレジェンドと呼ばれる『藍色夏恋(原題:藍色大門)』のプロデューサーとして知られるペギー・ジャオ(焦雄屏)だ。マーケティングを熟知していて、政府からの委託で金馬奨の主席をつとめ、補助金の改革や海外との連携にも手腕を振るった。もちろん多くの若い監督を育て、産業としての台湾映画発展に尽くした。
『藍色夏恋』のイー・ツーイエン(易智言)監督は言う。「どうせどん底なんだから、作りたいものを作ろうと思った」。低迷する映画界でクリエイターに自由な空間を与える懐の深さ、それがこの後の台湾映画に大きく影響していくのだ。
※1:金馬奨:台湾で毎年開催される中華圏を代表する映画賞。
※2:台北電影節:台湾・台北で毎年開催される映画祭。
Text:江口 洋子
台湾映画コーディネーター。民放ラジオ局で映画情報番組やアジアのエンタメ番組を制作し2010年より2013年まで語学留学を兼ねて台北に在住。現在は拠点を東京に戻し、映画・映像、イベント、取材のコーディネート、記者、ライターなどで活動。台湾映画『KANO』の製作スタッフをつとめた。2016年から台湾文化センターとの共催で年8回の台湾映画上映&トークイベントを実施。
「台湾巨匠傑作選2020」
9月19日(土)~ 11月13日(金)新宿 K's cinemaにて開催!
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