戦乱の世を生き抜く男性たちの生き方のみならず、女性たちのさまざまな人生を描き出すことも多い中国時代劇の世界。ドラマ「明蘭～才媛の春～」では、ヒロインの明蘭が顧廷燁に嫁ぎ、顧家の女主人として愛する人と共に新しい人生を歩む姿を描き、深い感動を与えてくれます。今回はそんな人生の転機や節目となる婚姻について、当時の習わしなどと共にご紹介していきたいと思います。

政治的利用や親族間の取り決めなどで、早々に嫁ぐことになるヒロインがドラマには登場することがありますが、史実では女性の婚姻年齢は何歳くらいだったのでしょうか？

史書などにのこされた記録の解説を参照すると、春秋時代から前漢においては、女子15～20才、男子20～30才というのが一般的だったとか。前漢では15～30才で結婚しなかった女性には厳しい罰金も課せられ、徹底されたようです。

唐の時代においても女性は一般的に早婚の傾向があり、大半が15才前後で嫁ぎ、早い人は13～14才、遅くて17～18才で、18才を過ぎたら婚期を逃したとみなされてしまったとか。この頃、女性が嫁に選ばれる資格の第一は容姿（！）、第二が金と財産。これとは逆に、男性の婿に選ばれる資格は、第一に家柄、第二に財産と才能で、この才能はいわゆる文才であり、唐代から科挙制度が発達して文才で出世することも可能となったことが背景にあります。年齢や経済的条件など、婚姻に至るまでの道は厳しくもありますが、唐の社会風潮はわりあい開放的で、婚姻相手の選び方に関しては一律ではなかったそう。

たとえば父母の言いつけや、家柄のつり合いを重視することもあれば、ドラマ「霜花の姫～香蜜が咲かせし花～」で登場する縁結びの神様・月下神が決めるという前世・因縁を信じて決定したり、娘が自ら気に入った婿を選んだり、ということもあったようです。

「明蘭」の一場面でチラッと描かれた、娘たちが集まって、客間に来た殿方の様子（容姿）をのぞき見する...というようなシチュエーションは、比較的自由な唐の時代においてはまさに"お嬢様あるある!"な場面だったようです。時は移れど、お年頃ガールズたちの気になることは一緒！ということで、北宋時代のお話である「明蘭」でもこうした場面が出てくるあたり、普遍の乙女心の可愛らしさが感じられますね！

続いては、先にご紹介した「明蘭」の時代、宋代の婚姻事情を探っていきましょう。

「明蘭」の原題である「知否知否...」の詞（ツー）の作者、李清照は18歳で嫁いでいます。結婚年齢に関してはこの時代も唐代からの流れと大きな違いはありませんが、貞節観念に関しては宋代から清代にかけては大きな変化が訪れます。

開放的だった唐代は女性の離婚、再婚が当たり前の風潮でしたが、北宋時代の儒学者・程頤（ていい）が語ったとされる「餓死は事極めて小なり、失節は事極めて大なり」とういう概念（※諸説有り）が、宋代以降にはさらに強まり、再婚せずに一人身を貫く寡婦が称賛されて表彰を得るようになり、逆に再婚する寡婦は次第に批判さるようになっていきます。

ドラマ「月に咲く花の如く」の背景となる清代には、亡き夫や婚約者を追っての寡婦の殉死を、康熙帝（こうきてい）や雍正帝（ようせいてい）は「軽死（命を軽んずる）」として禁止しましたが、この方針は一貫せず、こうした行為を完全になくすには至りませんでした。また、寡婦に再婚を強制した場合、女性の祖父母、父母、夫の祖父母、父母には杖八十の罰が課せられ、近親者の場合でも罰が与えられるなど、厳しく処分されたそうです。

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＜参考文献＞
高世瑜著　小林一美　任明　訳「大唐帝国の女性たち」岩波書店
「中国ジェンダー史研究入門」京都大学学術出版会
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Text:島田亜希子
ライター。中華圏を中心としたドラマ・映画に関して執筆する他、中文翻訳も時々担当。『台湾エンタメパラダイス』『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』（キネマ旬報社）にて執筆記事掲載中。