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【のむコレ2018特集】宣伝担当&『ゴッズ・オウン・カントリー』上映委員会 村井さん インタビュー




去年からシネマート新宿&シネマート心斎橋でスタートした、劇場発信型映画祭「のむコレ」。Cinemartでは「のむコレ2018」の見どころや裏話をお届け!

今回は「のむコレ2018」宣伝担当の村井さんのインタビューをお届けします。普段はフリーランスで多くの配給会社の映画宣伝を担当している村井さんですが、じつは「のむコレ2018」話題作のひとつ『ゴッズ・オウン・カントリー』上映委員会でもある!ということで、『ゴッズ・オウン・カントリー』上映の経緯など様々なお話をお伺いしました。
※「のむコレ」のチェアマンでありシネマート番組編成担当・野村も登場します。

【「のむコレ2018」公式サイト】 
【今までの「のむコレ2018」特集記事】

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― まず村井さんが「のむコレ2018」の宣伝を担当されることになった経緯を教えてください。

「のむコレ2018」宣伝&『ゴッズ・オウン・カントリー』上映委員会 村井さん(以下、村井) 私は普段、劇場で公開される映画の宣伝をフリーランスでやらせていただいているのですが、東京テアトル主催の「未体験ゾーンの映画たち」の宣伝も5年やらせていただいていまして。そういった経験から、今回は「のむコレ2018」でもオファーをいただきました。あと、実は以前から野村さんとは知り合いでもあるんです(笑)。


― そうだったんですね!

村井 野村さんとの最初のコンタクトは、もう十数年前になります。私は、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(※1)のスタッフも長くやっているんです。以前、新宿バルト9で開催していた時が数年あったんですが、野村さんから「シネマート新宿での開催も検討して欲しい」というお話を頂いたんです。でもそこから実現するまで十年ぐらいかかったんですけど(笑)。

※1)レインボー・リール東京 ?東京国際レズビアン&ゲイ映画祭?
セクシュアル・マイノリティをテーマとする作品を上映する映画祭で、1992年より「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」の名称で開催され、今年で第27回を迎えた。2015年より名称が「レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」へ変更。主に表参道のスパイラルホールを会場としているが、加えて新宿バルト9、シネマート新宿など映画館でも同時開催されることがある。



― 村井さんは宣伝のお仕事だけではなく、映画を上映する活動もされているということでしょうか?

村井 順番から言うと、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭のほうが、プロとして映画宣伝の仕事をするより先です。最初はただの映画好きでした。私が大学生の頃はまだ雑誌の「ぴあ」があったんですね。ネットの時代じゃなかったので「ぴあ」を毎号買って、「今週は何を観ようかな」って楽しみにしているような学生だったんです。

そのうち、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭が1992年に始まったんですけど、映画祭の存在もぴあで知ったんです。世の中が、今のようにセクシュアル・マイノリティに理解が進みつつある時代ではない時に、堂々と「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」なんて大胆な名前を付けて上映会をする人たちがいるなんて、驚きでしたね。

それで実際会場に行ってみると、そこにはゲイと思われるオスどもが大勢群がって一緒にゲイ映画を観ているわけです(笑)。もうその時に上映されていた映画が何だったのか覚えてはいないんですけど、大勢のゲイがゲイ映画を観ているという初めて見た光景ははっきり覚えています。もう感動しちゃったんですよ、その体験自体に。それで東京国際レズビアン&ゲイ映画祭のスタッフをやろうと思ったんです。


― 最初は、映画祭のボランティアスタッフから。

村井 そう、だから最初はただの映画好きな人。あと、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭は全員ボランティアによる運営なんです。

そのうち、映画祭でもアミューズ配給の『花蓮の夏』や、ツイン配給の『後悔なんてしない』、ギャガ配給の『シングルマン』を先行上映するチャンスを頂くようになって。劇場公開される予定の映画は、なかなかウチのようなカルトな映画祭では上映させてもらえないのですが(笑)、『花蓮の夏』はメチャクチャ惚れ込んでいたので、もう土下座するぐらいの勢いで「上映させてください!」って頼み込んで上映する許可を頂きました。

そんなふうにプロの配給会社や宣伝会社とやり取りするようになってきて、プロの仕事って大変そうだけど、体験してみたいなって思うようになって。それでこの業界に入ったんです。


― まさに村井さんのライフワークですね。長年、映画宣伝を担当されてきた村井さんから見て「のむコレ2018」の魅力はどんなところにあると思いますか?

村井 他の劇場発信型映画祭とはカラーがちょっと違いますよね。他の劇場発信型映画祭はBlu-rayやDVDでしか観られなかったような作品がスクリーンでも観られるという感じがするけど、「のむコレ2018」は通常の興行で上映されそうな作品が多い。映画館で上映される作品を一足先に観ることができるようなお得感があると思います。

シネマート・野村 今年はほんとにそうかもね。配給会社さんも「のむコレ」を意識してくれてて。普通に特集上映の1つじゃなくても1本で十分興行できるような作品でも、シネマートだから、「のむコレ」だから、って。特に韓国作品はマジで勝負してきている作品がほとんど。とくに『The Witch/魔女』の上映には驚かれる。

村井 そして野村さんにお声掛けいただき、ありがたいことに私も『ゴッズ・オウン・カントリー』を「のむコレ2018」で上映させてもらうことになりました。

シネマート・野村 東京国際レズビアン&ゲイ映画祭に行きたくても行けない人はいると思う。だったら、「のむコレ」という枠の中ならハードルが下がって観に来れるかもしれないかなって。それに国もジャンルもごちゃまぜの「のむコレ」だから、いろんなきっかけにもなるんじゃないかなと思って、村井くんに「上映したら?」って声掛けた。上映作品が解禁になった時、Twitterとかで『ゴッズ・オウン・カントリー』を喜んでる人が多くて、よかったなぁってすごく思った。

『ゴッズ・オウン・カントリー』c Dales Productions Limited/The British Film Institute 2017


― 今話題にも出ましたが、今回「のむコレ2018」で上映される『ゴッズ・オウン・カントリー』ですが、この作品に村井さんが関わるきっかけになったのは、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でしょうか?

村井 今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭がきっかけですね。オープニング作品だったんです。「のむコレ2018」のチラシには、「2017年ベストゲイ映画」と書かせてもらっていますが、「ベストゲイ映画」という何かの賞があるわけじゃないんです。でも、2017年のベルリン国際映画祭や、サンダンス映画祭などで受賞して、海外のゲイ映画祭でも軒並み上映されていて。何より、作品を観ると「2017年のベストゲイ映画はこれで決まり!」って十分思えるんです。

東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも、前売券が即日完売だったんです。上映作品のラインナップを発表した直後から、今年の注目作として期待してチケット発売を待ってくれた人が多くいた証拠ですね。


― 「のむコレ2018」で上映されることも、注目度は高いですか?

村井 「のむコレ2018」で上映されることを喜んでくださっている方はいるけれど、世の中的にどうかは分かりません。東京国際レズビアン&ゲイ映画祭はもう27年もやっているので、常連のお客さんは、毎年初夏が来ると「そろそろ東京国際レズビアン&ゲイ映画祭の季節ね」と、風物詩として映画祭のことを思い出してくれます。でも「のむコレ2018」での上映はイレギュラー。宣伝を一からやらないと、上映するという情報が届きません。ひとりでも多くの人に上映についての情報を届けて、来場して欲しいですね。しかも関西での上映は初めてですから。しかもたった一回切り。この機会を逃して欲しくないです!


― 作品のクレジットに「『ゴッズ・オウン・カントリー』上映委員会」と書いてあるのは...

村井 それは、イコール「村井」ということになりますね(笑)。配給会社の表記で「村井」と個人名を書くわけにはいかないので、野村さんに相談したら「上映委員会でいいんじゃない?」とアドバイスを頂いて。それで「『ゴッズ・オウン・カントリー』上映委員会」にしています(笑)。


― お一人で上映権を購入されたということですか?

村井 そうですね。私のお金で上映します。オールライツ(※2)ではさすがに高額過ぎて買えなくて、予算的に5回分の上映料が限界だったんです。だから、この上映で儲けようなんて全く思っていなくて、赤字にならないことを目標にしています。もちろん本業もあるので、『ゴッズ・オウン・カントリー』のことだけやっていればいいわけではなく、「のむコレ2018」や他の作品の宣伝をやりながら、空いた時間で準備を進めています。

正直、どれくらいの方が観に来てくださるか、私自身もわかりません。ただ、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映した時、キャパ350人の会場で2回上映したのですが、どちらもチケットは完売だったので観られない人もたくさんいたと思います。追加の上映はもう無いのかと問い合わせもいっぱいありました。この『ゴッズ・オウン・カントリー』をこれから観たい、あるいはもう一度観たいと思っている人が、300人いるのか、3,000人いるのかは分かりませんが、その人たちが観るための機会を得られた「のむコレ2018」に感謝感謝ですね!

※2)オールライツ:日本における興行やテレビ放映、ビデオ化、配信、関連商品販売など、その映画に関するすべての権利のこと。

『ゴッズ・オウン・カントリー』c Dales Productions Limited/The British Film Institute 2017


― お話をお伺いしていて、なにか村井さんの使命感のようなものを感じます。そこまでして、この作品を上映しようとされる理由は何なのでしょうか?

村井 それは『ゴッズ・オウン・カントリー』に限らないのですが、すべては雑誌の「ぴあ」で東京国際レズビアン&ゲイ映画祭を見つけ、会場の扉を開けたら、普段はクローゼットであろう多くのゲイたちが、スクリーンに映るゲイ映画を一緒に観ているという、その光景に感動したからです。それがきっかけで映画祭スタッフをやることになり、映画祭で「ここで上映されなければ観られなかった映画を観せてくれてありがとう」と、爆笑したり涙したりするお客さんを見たら、こっちも泣きたくなるぐらい感動します。

それに、私自身も若い時には、たくさんのゲイ映画に支えられました。『トーチソング・トリロジー』を劇場で観て母親との対峙に大号泣し、『クライング・ゲーム』の秀逸な脚本や主題歌に高揚し、『マイ・ビューティフル・ランドレット』のダニエル・デイ=ルイスや、『太陽と月に背いて』のレオナルド・ディカプリオ、『マイ・プライベート・アイダホ』のリバー・フェニックスとキアヌ・リーブスのカップルに惚れ惚れし、『ブエノスアイレス』の世界観に浸り切っていました。当時はそこまで考えが及びませんでしたが、私が劇場でそれらの映画から生きる活力、勇気をもらうまでには、配給会社や宣伝会社の多くの人たちの努力があったのです。そんな人生の先輩方から与えられた力を、今度は、私が若い世代に与えられることが出来たらと思っています。セクシュアル・マイノリティであることに悩み、自殺してしまう若い子がまだいっぱいいます。そんな子たちに、映画というツールでひと筋の光を照らせたら、今の努力も報われます。

東京国際レズビアン&ゲイ映画祭も、そういう気持ちでスタッフを続けていますし、本業である映画宣伝でもセクシュアル・マイノリティをテーマにした映画を積極的に受けるようにしています。「のむコレ」もそうですね。野村さんに「村井くんのやりたいLGBT 映画を一本やっていいよ」と思いがけない提案を頂いて、貴重な機会を無駄にしたくない、喜んでやりたいと思って、今回『ゴッズ・オウン・カントリー』を選びました。


― .........すみません...お話を聞きながらグッときてしまって...

村井 あはははは!

『ゴッズ・オウン・カントリー』c Dales Productions Limited/The British Film Institute 2017



― 最後に『ゴッズ・オウン・カントリー』の魅力はどんなところにあると思いますか?

村井 今年日本で公開された『君の名前で僕を呼んで』は大ヒットしましたね。特に女子にスゴい人気です。『ゴッズ・オウン・カントリー』と全く同じ2017年のサンダンス映画祭や、ベルリン国際映画祭で上映され話題を呼びました。もし私が配給会社の買い付け担当で「2作品のどちらを買いますか?」と聞かれたら、『君の名前で僕を呼んで』を選びます。

『君の名前で僕を呼んで』は、若くて美しく恵まれた家庭に育った男の子が北イタリアの避暑地の別荘で体験するキラキラしたひと夏の恋。一方『ゴッズ・オウン・カントリー』は、自分が望まない家庭環境に育ったむさくるしい男と、そこに季節労働者として雇われるオスくさい髭面の男が、イギリスの曇天の下で愛し合うという、"見た目の設定は"全く対称的な作品です(笑)。

やはりビジネスとして映画を買い付けるならキラキラ映画の『君の名前で僕を呼んで』ですよね。女子受けは絶対こっちです。実際、日本の配給会社も海外映画祭などで『ゴッズ・オウン・カントリー』を買い付け目的で試写しています。ところがどの配給会社も買わない。とても残念ではありますが、私自身も会社のお金で責任を伴って買い付けるのであれば、『君の名前で僕を呼んで』を選択しますから、『ゴッズ・オウン・カントリー』を買わない配給会社を批判できませんね(笑)。日本でなかなか劇場公開されないのはわかります。でも観たら本作の素晴らしさを実感できるんです。

先ほど"見た目の設定は"全く対称的な作品と言いました。でもどちらの作品も描かれているのは、あるきっかけで出会った二人が最初は衝突するものの、ふとしたきっかけで惹かれ合っていく姿です。『ゴッズ・オウン・カントリー』も『君の名前で僕を呼んで』も絵面が違うだけで、カップルの二人に流れる情感は同じものです。そして主人公の成長物語であることも、です。君と出会えて僕は強くなれた、僕は変われたというテッパンのテーマが『ゴッズ・オウン・カントリー』にも活き活きと流れています。

東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも観客は大絶賛でした!この映画をヘテロセクシュアルの人は受け入れてくれるか不安はありますし、逆に私もヘテロセクシュアルではないので、そこは正確には分かりません。もしかすると、ゲイのためのゲイ映画と評する人がいるかもしれません。でもベルリン国際映画祭をはじめ、多くの受賞歴が作品のクオリティを保証していますので、そこは是非安心してご来場いただきたいです。

あと、『ゴッズ・オウン・カントリー』というタイトルも洒落てるんですよ。「ゴッズ・オウン・カントリー」って、ヨークシャー地方のニックネームなんです。「神の恵みの地」という意味なんですが、これが本編はもちろん、エンドロールに流れる映像にも係っているんですね。詳細はこれから観る楽しみを奪うのでここで止めますが、エンディングテーマのPatrick Wolfの"The Days"と相俟って、感動のエンディングになっています。最後の最後まで楽しんで欲しいです!


<おわり>


<「レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」の名称表記に関して>
2015年より正式名称は「レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」ですが、文中では改名前の「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」で統一しました。


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『ゴッズ・オウン・カントリー』




【国内最終上映!】
シネマート新宿&シネマート心斎橋にて、計5回のみ 超・限定公開!


<シネマート新宿(東京)>
12月
2日(日)15:35
7日(金)18:50
17日(月)夜
19日(水) 夜

<シネマート心斎橋(大阪)>
12月9日(日) 午後帯

『ゴッズ・オウン・カントリー』公式Twitter


"神の恵みの地"で、僕らは出逢い、愛し合った ――
2017年ベストゲイ映画が日本で観られるのは、これで最後!


青年ジョニー(ジョシュ・オコナー)は、老いた祖母(ジェマ・ジョーンズ)と病気の父(イアン・ハート)に代わって、ヨークシャーにある牧場をひとりで管理している。孤独でやり甲斐を感じられない寂れた牧場での日々の労働を、酒と行きずりの不毛なセックスで紛らわすジョニー。ある日、季節労働者のゲオルゲ(アレック・セカレアヌ)が羊の出産シーズンに雇われる。初めは衝突する二人だったが、羊に優しく接するゲオルゲに、ジョニーは今まで感じたことのない恋心を抱き、突き動かされていく...。ベルリン国際映画祭やサンダンス映画祭をはじめ、世界中の映画祭で多数受賞したほか、Rotten Tomatoesで99%の高評価を獲得した傑作!


監督・脚本:フランシス・リー
出演:ジョシュ・オコナー、アレック・セカレアヌ、ジェマ・ジョーンズ、イアン・ハート

原題:God's Own Country
配給:「ゴッズ・オウン・カントリー」上映委員会
エンディングテーマ:パトリック・ウルフ「The Days」
イギリス/2017年/104分/カラー
c Dales Productions Limited/The British Film Institute 2017

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