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【インタビュー】『心に吹く風』ユン・ソクホ監督インタビュー#1




★★今までの「インタビュー(韓国)」はこちら★★




ユン・ソクホ監督と言えば、「冬のソナタ」をはじめ多くの傑作韓国ドラマを演出し、日本の韓流ブームの火付け役となった人物。そんな彼が、初の長編映画に挑戦&舞台は日本!という事で、映画『心に吹く風』について、そして韓国ドラマについてのお話をお伺いしてきました。



第1回「純粋な恋の描き方」:2017年6月17日(土)更新
第2回「ユン監督から見た韓ドラ」:2017年6月18日(日)更新



プロフィール:ユン・ソクホ
1957年生まれ。92年「明日は愛」で演出家デビュー。自然を細やかにとらえる映像美と卓越した色彩感覚を発揮しながら数々のドラマを手がける。00年の「秋の童話」は、韓国だけでなく中華圏でも大ヒットし、"韓流"の火付け役に。さらに続く「冬のソナタ」が04年、日本でも地上波で放送され、空前のブームを巻き起こす。主演のペ・ヨンジュンをはじめとする俳優たちが爆発的な人気を獲得すると同時にユン・ソクホ監督も韓流の立役者として広く知られるようになり、大統領表彰をはじめ、数々の賞に輝いた。「夏の香り」(03)、「春のワルツ」(06)と続いた四季シリーズを完結させた後は、人気俳優チャン・グンソクとガールズグループ少女時代のユナを主人公に起用した「ラブレイン」(12)を発表。


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― 『心に吹く風』は、ユン・ソクホ監督初の長編劇映画となりますが、挑戦されていかがでしたか?


今までドラマを監督してきて、とても忙しかったんです。ただ、元々映画は好きで死ぬ前に撮るチャンスがあればいいな、と思っていました。ですので、今回挑戦することが出来てとても嬉しく思います。今回は脚本も自分で書いたのですが、脚本だったり、日本で映画を撮ることだったり、様々なことが私にとって挑戦でした。
そういうチャレンジングな生き方をすることになったことは、喜びのひとつですね。




― 本作で主人公のリョウスケ/春香以外に、富良野の大自然も重要な登場人物だと感じました。今回、富良野を舞台にしようと思ったのはどうしてですか?

私は、その土地の良いところを出せるのはその土地を良く知っていてこそだと考えています。
以前インタビューでもお話ししたことがあるのですが、私は日本のドラマ「北の国から」が大好きなんです。それで実際に富良野に行ってみたら、とても素敵で。それから何度も何度も訪れて、富良野の良さを知りました。
今回、日本で映画を撮ることになり、自分の好きな場所、長所も地理もよく知っているところで撮影したいと思い、富良野を選びました。




― ということは、富良野で撮影することは、最初から決めていたのでしょうか?

最初から富良野で撮ることを100%決めて行ったわけではないです。日本で映画を撮ることが決まったので、日本に行って構想を練ってみようと思い、まずは好きな富良野に行ってみたんです。まだ、「可能性として無くはない」という状態でした。
その時に、実際に映画のストーリーのもとになったいくつかの体験があったんです。そういう体験を重ね、「ここで撮ろう」と決めました。



― その決め手になった"いくつかの体験"とは、どういうものだったんですか?

二つあります。
一つ目は富良野のスーパーマーケットで、ある女性とバッタリ再会したんです。数年前に富良野で食べに行った、韓国料理のお店の方でした。こういう風に男女が出会う、しかも初恋の相手に全然見知らぬ土地で出会うっていうことも、映画としてありえるかもしれない、と考えるきっかけになった体験でした。実際に会った方はそういう対象の女性ではないのですが。

二つ目は、劇中に出てくるあの倉庫を見つけたことです。私はドライブが好きなので、ドライブをしながらよく考え事をします。富良野でもロケハンをしながらドライブをしていたのですが、その時にあの倉庫を見つけました。以前から倉庫が好きだったんです。倉庫って古くなればなるほど、壁が錆びたりするじゃないですか。そこに雨粒が落ちて、色が変わっていく、みたいなシーンがあったら素敵だろうな、って。




― そういえば、ユン・ソクホ監督のドラマでもよく倉庫って出てきますよね。2人で雨宿りしてたり。

昔からそう思っていて、確かに「秋の童話」や他の作品で倉庫を使ったことがあります。ですが、そう思っていたことをすっかり忘れていたんです。今回、富良野で倉庫を見た途端にその感覚を思い出して。これを映画に入れたらどうかと考えました。そうして、男性の主人公をビデオアーティストにして、倉庫で撮影をするっていう風にしたらどうかな、とアイデアが繋がっていきました。

映画は大きく分けて、「初恋」というテーマと「場所」からいろんな物語が発展するんですけど、その大きな軸となったのが、この二つの体験でしたね。




― ということは、映画に登場したあの倉庫は、本当にあのままの状態で建っているんですか?

そうです、あのままです。雨のシーンは、降るのを待って撮りました。




― 本当に雰囲気のある倉庫だったので、美術で作られたのかと思ってました。

劇中のセリフにもあるとおり、本当に時間と偶然が作った作品です。




― 倉庫以外にも、風景もとても美しく。どのシーンを見ても、空や雲さえも計算されているような完璧さでした。
ただ、自然を相手にこれだけ多くの美しいカットを撮影できたという事は、撮影にかなり時間をかけられたのではないかな、と思いました。
実際、撮影期間はどのくらいだったのでしょうか?


実際の撮影期間は一か月です。でも、撮影に入る一年前から同じ時期にロケハンやストーリーを練るために富良野に行き、どの時間帯にどこに行けば光がキレイに撮れるか、というのは何度も確かめていたんです。それから一年経っていたとしても、季節や時間帯による光の位置はさほど変わりませんよね。なので、初めて富良野に行って一か月で撮った、というわけではないです。

撮影中は天気があまり良くなく、雨の日も多くて撮影が出来ない日もあったんですが、そうやって一年前から準備をしていたので、スムーズに進めることが出来ました。




― ということは、構想から完成までを考えるとかなり長い期間がかかったんですね。

全体で言うと3年ぐらいです。構想に1年、撮影に1年、公開までに1年、です。



― 舞台だけでなく、俳優やスタッフもほとんどが日本人ですが、撮影時に韓国/日本で違いを感じたことはありましたか?


文化の違いなのかもしれませんが、やはり撮影現場の雰囲気は違うと思いました。

日本は、どちらかと言うと仕事が始まると真剣で、みんなが集中して静かな雰囲気でした。
韓国はあまりそういう雰囲気ではありません。冗談を言ったり、わざと大きい声を出したり、騒がしいとまではいかないですけど、わいわい撮影する感じなのです。なので、現場の雰囲気は少し違うな、と思いました。




―  言語の違う俳優に演出をするのは大変ではなかったですか?
また、ほとんどが初対面の俳優だったと思いますが、俳優とはどのように距離を縮めていったのでしょうか?


コミュニケーションをとるにあたり、やはりディテールまで伝えることは限界があると思います。演出的な面で自分が何を表現したいのかを、自分の中で確信が持てていないと俳優に苦労をかけてしまうと思いました。なので、まずは何よりも自分がしっかりと準備をしました。

あと、今回の映画はセリフがあまり多くないんです。表情や瞳、イメージでストーリーを伝えていく。そう考えていた上でのキャスティングだったので、言語の面において演出が大変だったというのはあまりなかったです。




― 監督のキャラクター造形のこだわりについてお伺いしたいのですが、本作で主人公・リョウスケ(眞島秀和扮)が登場した瞬間、ソフトで知的なメガネ姿に"ヨン様だ!"と思わずにはいられませんでした。

あはは!そうですか(笑)




― ペ・ヨンジュンさん以外にも、監督の作品に登場する男性はソフトで知的な印象の方が多いように思います。そして今日、初めて監督にお会いして、監督自身がまさにそういったイメージの方なのだと感じました。

どうしても自分自身が投影されるのだろうと思います。撮影場所の選び方と同じで、一人の人間を表現することにおいて、性格などよく理解していないと表現できないところがあると思います。となると、どうしても一番よく知っているのは自分だから、好きなものや癖は自分が出てきてしまうんでしょうね。例えば、ホン・サンス監督の映画を見ていると、いつも主人公は監督そのものですよ(笑)。今回の作品も意図的ではないのですが、気が付かないうちに自分が出てきているんじゃないかと思います。

実は、撮影現場で少し遠めからリョウスケを撮った写真があったのですが、その写真を知人に見せたときに、「これってお前じゃないの?」って言われましたよ。(笑)



― 確かに、ご挨拶させていただいたとき、監督がリョウスケに空気感がそっくりで驚きました(笑)。



― 今までも多くの"初恋"を描かれてきたユン・ソクホ監督ですが、その多くが "初恋のさなか" ではなく、終わってしまった初恋 "初恋の追憶" という描かれ方です。どうして初恋がテーマでありながら、終わった視点から描かれているのか、理由を教えてください。


世の中のことをまだ知らない幼い頃というのは、きっと社会を生きるということに期待があったり、純粋な気持ちを持っていると思います。そして、社会に出ていき、人と触れ合うことで妥協していったり慣れていったりしてしまうことが生まれます。
しかし、まず他人との一番本格的なコミュニケーションというか、意思疎通は、男女の出会いだと思うんです。初めての男女の出会い、つまり自分自身にとって初めての異性との出会いこそ、一番純粋で、ときめきがあって、透き通っている気持ちが表現されます。それが初恋なんだと思います。

歳をとることで自分の環境に慣れていったり、受け入れたり、妥協したりして、その純粋さや透き通っている気持ちに戻ることは出来なくなっていきます。
私は、その"純粋さ"に価値があると考え、それが一番表現されるのは初恋だと思っているので、初恋というものが好きなのかもしれません。





― 主人公の二人はもう大人になってしまって、しかも春香は結婚して子供もいる。途中で「高校生のあの頃に戻ろう」というセリフがありますが、そこから次第に2人が若返っていくというか。見た目はそのままですが、ピュアなものに戻っていくような印象を受けたのですが、今のお話を聞いてすごく納得しました。

それぞれ社会においての自分の立場というものがあると思います。女性だったら家庭、男性だったら仕事など。仕方なく社会的な自分の位置にいて、社会的な姿になっていると思うんですけど、リョウスケと春香は純粋な記憶を持っているまま再会したので、それがある程度復元できると私は思いました。偽善ではなく、本当に純粋な気持ちになって、純粋な二人としてそこにいられる、という風に。

今回の映画の描き方にも繋がる話なんですが、二人はもう中年なので、世の中というか様々なことを知り得ているんです。中年の恋というものの描き方は、大きく分けて二つあると思います。

ひとつは、すでに様々な経験をしたし、昔みたいに手を繋ぐだとか、触れ合うことにときめくことはない、もっと大人の恋。大人の関係で、「もうわかるでしょ」と、行動してしまう。中年らしい恋の描き方です。

もうひとつは、昔の純粋な初恋の記憶というものがとても美しくて、それが忘れられない人もいると思うんです。そこにもう一度戻りたい、その感覚をもう一度思い出したいと、そこにまだ浸っている人ですね。見た目や実際の経験は中年相応なのだけれど、その特定の人に会った途端に少年少女に戻れる、というような中年の恋もあると思います。

まさに今回の映画は後者なんです。もちろん中年らしい恋の描き方も出来たかもしれませんが、今回の映画では後者のように二人の気持ちにフォーカスを当てて、もう少し純粋な気持ちに戻った二人、手を触れるだけでもどきどきしてしまう、そういう男女を描きたかったんです。






― 作品を拝見していて一番好きだなと思ったのが、まさにその初々しさでした。
大人だけれど、とても初々しくて。手を繋ぎたいのに繋げないだとか、ボタンに髪の毛が引っかかったり、自転車に乗りながら花を摘んで渡したり。そういう随所に散りばめられたピュアな恋愛の演出が本当に素晴らしいな、と思って。そのようなアイデアやイメージはどこから湧いてくるのでしょうか?


オランダに行ったとき、チューリップ畑で自転車に乗っていた少女がいきなり花を摘んで持っていくのを見たんです。それがCMのワンシーンみたいで、とても美しくて。それで、例えば男の子が後ろに女の子を乗せて、摘んだ花を渡したらどうかな、と思いつきました。今まで使うチャンスがなかったんですけど、今回それを思い出して、映画で使ってみました。

髪の毛のシーンも実際の体験なんです。ロンドンの地下鉄で、一人の女性が男性のシャツのボタンに髪の毛が絡まってしまって。なかなかほどけず、女性が本当に恥ずかしくて真っ赤になって困っていた表情がとてもかわいくて。どこかで使おうと思っていました。






― 実際にご覧になった風景が全部、「いつか使おう」と監督の頭の中の引き出しに入っているんですね。
ちなみに、監督が今作の中で1番気に入っているシーンを教えてもらえますか?


親が我が子に順位を付けることが出来ないように、1つ選ぶというのはなかなか難しいです(笑)。
では、2つに絞って...ひとつはピアノを弾くシーンです。このシーンは春香とリョウスケが互いに心の扉を開くシーンだったので、とても印象的です。実際の撮影現場もとても良い雰囲気でした。現場の雰囲気が良いと、やっぱり映像に映るものも良いんですよね。編集のときに見たら、当初考えていたことよりもはるかに良いものが撮れていたので、とても嬉しかったです。

もうひとつは、春香が展覧会に来るシーンです。そのシーンでは今回描きたかった"偶然"というテーマが、とても良く描かれています。

まずひとつめの偶然は、倉庫の壁に雨粒がかかっていく映像作品です。これは本当の雨で、ビデオアートとしてリョウスケがその雨を撮っているのですが、これも偶然が作る作品です。本来の狙いはこれだったんです。もうひとつは、2人の手が映っている映像作品。こちらに関しては、リョウスケが狙って撮影したわけではなく、雨やどりの為に倉庫に入った時に、カメラをオフするのを忘れていて、たまたま自分が偶然の作品の中に入った。

だから偶然をテーマに撮った作品と、その作品の中に入っているもうひとつの作品というものが一緒に並ぶことで、今回のテーマもよく出ているし、偶然というメタファーも活きています。なので、その展覧会のシーンも好きです。




― ありがとうございます。作品についての理解が深まりました。もう一度見てみたら、新しい発見がありそうです。

(日本語で)是非、ご覧ください。

<第2回へ続きます>


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『心に吹く風』







北海道 札幌シネマフロンティア/ディノスシネマズ旭川 | 愛知 センチュリーシネマ 現在公開中!
本日6月17日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
<詳細な劇場情報はこちら>


STORY
仕事で富良野を訪れたビデオアーティストのリョウスケは、高校時代の恋人・春香と23年ぶりに偶然の再会を果たす。春香は既に結婚していたが、春香をずっと想い続けていたリョウスケはビデオ撮影へと連れ出す。春香は戸惑いながらもリョウスケに同行し、忘れかけていた想いをよみがえらせていく。失った時間を取り戻すように急接近していく2人は、ついに越えてはならない一線を越える決意をするが......。

<「心に吹く風」作品公式サイト>


(C)松竹ブロードキャスティング




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