Cinem@rt エスピーオーが運営するアジアカルチャーメディア

連載

中国ドラマあるある問題 第二弾 ~なぜみんな飛んでいるの?~

前回の「中国ドラマあるある問題 第一弾」で「なぜ本人の声ではないのか」について、中国のドラマの吹き替えの理由を紹介しました。今回は皆さんがいつも疑問を持っている「中国ドラマでは、なぜ人が飛んでいるの?」という疑問について「武侠」と「仙侠」、2つのポイントから説明したいと思います。



空を飛べる理由は…「武侠」にあり?!

「飛べる中国人」を説明する際には、「武侠」(ぶきょう/中国語発音:ウーシァー)に言及しなければいけません。

「武侠」は中国特有の文化です。武侠文化は数千年の歴史がある伝統文化であり、「荘子」や「史記」(紀元前)まで遡ります。近代に入り、金庸、梁羽生、古龍など武侠小説家の手掛けた武侠小説は、50年代から80年代にかけて中華圏で爆発的な人気を巻き起こしました。武侠小説の主旨は、主に武術に長けた主人公を通じて任侠精神を唱えています。80年代以降、映画やドラマなどの各種媒体への進出によって、中華圏の大衆娯楽文化でも大きな位置を占めるようになりました。

\武侠ドラマをもっと知りたい人はこちらもおすすめ!/


武侠小説に登場する「軽功」とは?

「武侠」を説明すると話が長くなってしまうので、今回は武侠小説に登場する「軽功」(けいこう/中国語発音:チンゴン)に話を絞りたいと思います。武侠小説の中で「軽功」は、武術に精通するヒーローたちに欠かせない特技です。軽功を得意とする者は、常人の何倍もの速さで疾走できるほか、草や木の葉を足掛かりに宙高く空を跳んだり、水面を渡ったり、垂直の壁を伝い登ったり、最高の境地に達すると空を自由自在に飛行する時もあります。

実は、「軽功」は小説や映像だけの幻想的なものではありません。中国武術において体を軽くする功夫は確かに存在します。食事と気功の元となった伝統的な気の訓練によって修得し、実際に空を飛ぶのではなく、高く跳ねたり速く走ったりするなど身軽になることを目的とします。一見、非現実的に思われますが、現代のスポーツ「パルクール」で考えるとわかりやすいでしょう。

通常、「三国志」「曹操」など正史ドラマでも、武術ができ常識の範囲内で「パルクール」ができます。それに対して、金庸や古龍など武侠作家原作の作品、例えば「月下の恋歌」(原作:笑傲江湖)や「倚天屠龍記」などは、みんな空を飛んでいます。

武侠小説に基づき実写化されたドラマはもちろんですが、次第に「軽功」がその他のジャンルまでにも広がっていきました。中国人にとって「武術ができる=飛べる」は「朝が来ると朝日が昇る」と同じぐらい常識として定着しました。そのため、謹厳な正史の中でも飛べる人が現れてもおかしいことではないのです。逆に、初めて日本人のファンから「中国ドラマでは、どうして人が飛んでいるの?」というコメントをいただき、初めて「そうか、外国人から見るとそれは理解できないんだ」と気が付きました。


空を飛ぶヒーローがモテるのは、中国のみならずアメリカでも?!

他にも、中国ドラマではヒロインがいろいろなところから落ちると(中国人にとって「なぜいつもヒロインはこけるの?」は気になるあるある問題ですが...)、主人公が飛んできて彼女をキャッチ(概ねお姫抱っこ)、空で360度、ときに720度回転しながら見つめ合い地面に着地する……という展開は、ほぼ全ての武侠ドラマに出てくる「定番」で、中国人もよく揶揄する「あるある」です。

中国ドラマ「後宮の涙」より

中国ドラマ「ハンシュク〜皇帝の女傅」より

武侠物語に出てくるヒーローだけではなく、実はアメリカのヒーロー映画でも、ヒーローはいつも空を飛んでいます。例えば、スーパーマンやスパイダーマン、バッドマン、マイティ・ソーなど。空を飛べないキャプテン・アメリカ、ホークアイも、飛べるほどの「パルクール」精通者です。やはり、飛べるヒーローがモテることは世界共通ですね。

道教名門「武当」のニュース映像(絶対真似しないでください!)



中国ドラマの人気ジャンル 「仙侠」とは?

中国ドラマ「花千骨(はなせんこつ)~舞い散る運命、永遠の誓い~」メイキングカット

そして、「武侠」と合わせてご紹介したいのが「仙侠」(せんきょう/中国語発音:シェンシァー)です。仙侠は伝統の武侠に比べ、ファンタジー色が濃く、中国の伝統の「道教」の思想や世界観を背景に、神、仙、妖、魔、人、鬼をめぐる六道の争いを中心に、煉丹術、法宝/仙器(神通力を持った宝)探し、悪者を倒す主人公の成長などが描かれます。

「道教」も古くから存在する中国伝統宗教ですが、文化大革命によって壊滅的な打撃を受けました。その後、徐々に宗教活動が許され、宗教観の修復が始まり、とりわけこの十数年に、ネット小説、オンライン/RPGゲームの普及によって、「仙侠」に生まれ変わり、若者たちの間で急速に広がっていきました。

2005年、RPGゲーム「仙剣奇侠伝」が初めて仙侠ドラマとして実写化され、爆発的な人気を獲得しました。本作で主演を務めたフー・ゴーとリウ・イーフェイも、仙侠モノに火をつけたシンボルとなります。「仙侠」は20~30代の若者の間で絶大な人気を得ましたが、文化大革命を経験した高年層の中ではがあまり広がりませんでした。

同じ世界観と文化で育ったはずの中国人でも、ジェネレーションギャップが生まれるので、「道教」の世界観が全く分からない日本人にとっては訳が分からないことが一層多いでしょう。それ故、「古剣奇譚~久遠の愛~」は日本で放送されたものの、中国で絶賛された「仙剣奇侠伝」や、社会現象にもなった「軒轅剣之天之痕」などは日本に輸入さえされませんでした。(それはさておき「古剣奇譚」はイケメンがいっぱいなので、ぜひご覧くださいね!)

中国ドラマ「花千骨(はなせんこつ)~舞い散る運命、永遠の誓い~」メイキングカット


中国ドラマ「花千骨(はなせんこつ)~舞い散る運命、永遠の誓い~」メイキングカット

仙侠ドラマでは、どうして人は飛べるの?

ここまで、仙侠の話をしましたが、仙侠ドラマでなぜ人が飛べるかについてはまだ説明していませんでしたね……。理由は簡単! 仙、神、妖、魔、鬼だから、飛べるのが当然! そもそも飛べないのは人間だけ! と言うしかありません。実は、古くから伝わってきた中国の伝説の中で、仙人や神は雲の上に住んでいるため、飛べて当たり前なのです。妖怪、悪魔、鬼は法術ができ、仙人や神と同じく飛べます。

もちろん、現実的に本当に飛べる人は中国にもいませんが、なぜか中国ドラマの中ではみんな飛びます。しかし、ドラマってそもそも非現実的な夢を叶えてくれるものですよね!

文:Jenny
エスピーオーの中国人社員Jennyが、中国・台湾のエンタメニュースや流行を紹介します。


中国ドラマ 関連商品

記事の更新情報を
Twitter、Facebookでお届け!

TOP