【韓流お仕事図鑑】吹替演出家×声優 対談|第2回「オーバーな演技が合う言語」
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普段私たちが見ている韓国ドラマ。韓国で制作されたドラマがどういう道のりを経て、日本でテレビ放送されたりDVDになったりするかご存知ですか? この連載は、韓国ドラマを日本のお茶の間に届ける過程に携わる人たちにインタビューをしていく【韓流お仕事図鑑】です。
海外の映像作品には欠かせない<日本語吹き替え>。意外と知られていない、<日本語吹き替え>にまつわるお仕事についてお話をお伺いしました。韓国ドラマの吹き替えあるあるや、時代劇と現代劇の演じ方の違い、最新作「師任堂(サイムダン)、色の日記」吹替版の見どころなど、思わず吹替版が見たくなるエピソードが満載です!
第1回 「キャリアに韓流ドラマがいっぱい」
第2回 「オーバーな演技が合う言語」
第3回 「ガヤの作り方」
第4回 「日本人が聞いていて気持ち良い声」
<プロフィール>
市来満さん(吹き替え演出家)
1969年、東京都出身。主な演出作品は「宮~Love in Palace」「花より男子?Boys Over Flowers」<TV>「バトル・オーシャン 海上決戦」「暗殺」<映画>最新作は今夏公開「新感染 ファイナル・エクスプレス」
石狩勇気さん(声優)
1981年、大阪府出身。主な出演作は「朝鮮ガンマン」金丸役、「アイドゥ・アイドゥ」チュンベク役。「師任堂、色の日記」ではイ・ギョムの甥であるイ・フの吹替を担当。リマックス所属。
声優の石狩勇気さん(左)と演出家の市来満さん(右)
― 担当された作品で印象に残っているドラマはありますか?理由も教えてください。
演出家・市来満さん(以下、市来) 僕は「ファンタスティック・カップル」ですね。初めて韓国ドラマを演出させてもらった作品なんです。映画だと吹き替えの収録は1日で終わってしまうんですが、ドラマは長い期間をかけて作り上げていくので。毎週「今日は何しよう」というふうに収録していきました。ドラマの内容も、声優陣もすごく良くて。ラブコメだったからアドリブも満載(笑)。
「ファンタスティック・カップル」より
― 収録期間中、声優の演技にも変化が出てくるのでしょうか?
市来 そうですね。収録を重ねることで、自分の役を掴んでくるから、より濃くなるだろうし。ドラマの吹き替えはそういう作り方が出来るので良いですね。その逆で、いつも思うのは"ドラマっていうのは1話目がすごく大事"ってことです。
― 1話目がすごく大事?
市来 視聴者の皆さんは、もちろん第1話からご覧になりますが、我々も最終話まで見ていないことがあるので、第1話の演出は手探りになる事が多いです。そこがギャップのあるところなんです。
― 収録は話数通りに行われるんですか?
市来 話数通りです。だから役を掴んできたってところでね...
声優・石狩勇気さん(以下、石狩) 最終回の後に1話録ってみませんか、試しに(笑)。
市来 ほんと、いつもそう思うよ(笑)。
石狩 最終話で慣れてきても、最終話まで見てくれている人ってだんだん減っていきますからね。
市来 1話目でこの作品おもしろい、おもしろくない、って判断されちゃうからね。
― 石狩さんは、印象に残っているドラマはありますか?
石狩 最初に関わった「アイドゥ・アイドゥ」ですね。初めて親に見てもらえた作品で、母親にとって、息子を声優として認識した最初の作品になったと思います。とても良い現場で、毎回飲み会があったり。ベテランの方々もいらっしゃって、たくさん勉強させていただきました。
実は...さきほどお話しした「体が動いている」方って、主人公テガン役の森久保祥太郎さんと、テガンの父親役の屋良有作さんなんです。ケンカするシーンや酔っぱらうシーンが多かったんですが、すごく動きながら演技していらっしゃって。「こんなにやっていいんだ!」って、演技の上でも勉強になりました。飲み会など収録以外でもすごく勉強させていただいて。大好きな作品ですね。
― 実際、人気のある作品です。テレビ放送も、都内だけでなく地方局でもたくさん放送されました。
石狩 そうですよね! だからあの作品は「見たよ!」って言ってくださる方が多いです。タイトルまで覚えていない人でも「あの靴のやつ」って(笑)。
「アイドゥ・アイドゥ~素敵な靴は恋のはじまり」より。
― たしかにその通り(笑)! 石狩さんが演じられた、チュンベクもインパクトのある役ですしね。
石狩 僕は、あの作品は素で演じたつもりだったんですが「石狩が演じてるってわかんなかった」って友達には言われます。逆に、声を作ったつもりの役が「わかる」って言われたり。わからないものですね(笑)。
― 実はこのインタビューの前に、石狩さんの出演作品を何本か見直して来たのですが、今お話しされている声を聞いていて「やっぱり違うな」って思いました。
石狩 そうですか! 意識してないんですけどね(笑)
― ではこれからは、日本語吹き替えでも、特に韓国ドラマでの吹き替えについてお伺いしていきたいと思います。
韓国ドラマの日本語吹き替えの演出・演技で、特に意識されているのはどういった箇所ですか?また、韓国ドラマならではの演出・演技のポイントがあれば教えてください。
市来 あんまりないですね~。でもアジア人ってやはり顔立ちが近いじゃないですか。だから、より生っぽくすることを意識しています。欧米人が日本語を話すとキャラクターのように感じますが、アジア人は顔立ちが近い分、より生っぽくやらないと違和感があるかな、と。
― "生っぽく"というのはどういうことでしょうか?
市来 日本人が普通に日本語を喋っているように見せる、ということですね。視聴者の方に、「あの俳優さん日本語うまいのね」って思ってもらえるぐらいを目指したいというか。あとは、言語の音の違いも大きいと思います。韓国語は音として強いイメージがあります。だから、画面に負けないような声を演出しています。
― 演じられる声優さんにとっては、いかがでしょうか?
石狩 声優目線で言うと、韓国の作品だからと意識している点はあまりないです。極論を言うと、可愛い声で話す萌えなアニメも全部同じです。絵があって、セリフがあって、キャラクターに合うように取り組んだ結果としてそうなると考えています。
あとは吹き替えの翻訳家さんを信じているので、台本に書いてある台詞、それによる口の動きを信じて演じています。
― たしかに、画面の中の俳優は韓国語を話しているので口の動きは韓国語ですが、吹き替えでは、違和感がなくその口の動きから日本語を出さないといけないですよね。視聴者として違和感を感じたことは無いのですが、そこにも工夫があるのでしょうか?
石狩 実は、よほど癖のある口の動きをしない限り、合うと思います。脳の錯覚というか。韓国語の口の動きだったとしても、聞こえてくるのが日本語であれば、そう喋ってるように聞こえるんじゃないかなと思います。
ただ向こうが「あぁー!」とかわかりやすい口をしたときは、もちろん揃えないとダメですけどね(笑)。例えば、喋り終わりが「~します」だったとして、俳優の口が閉じ気味で終わっていれば「します」ってなるし。わーっと開け気味だったら、「しまーす!」の方が合う。もちろんシーンにもよります(笑)。そもそもセリフの母音が全て合うということは不可能ですしね。
市来 合わせる、というより、活かす、こともありますよ。ハングルは「~スムニダ」って言うときに口が閉まらない。そういう時は、本来はそこに音がなくても、日本語だとそこまでお芝居が出来たり。
石狩 そうですね。たとえば、英語だと「ナントカカントカ」ってセリフを言い終わって口を閉じているのに、「ですよね?」という日本語が聞こえてきたら変ですよね。でも韓国語の場合は、最後まで口が開いているから、1秒ぐらい原音より多めに喋ることができるんです。
― アレンジがしやすいんですね。それは、吹き替えにおける韓国ドラマあるあるなのかもしれないですね。
市来 そうだと思います。今の声優さんはアフレコ慣れしているというか。どうしてもセリフを口の動きにはめようとしてしまう。口の動きに合わせることをメインに考えてしまうので、お芝居が小さくなってしまうんですね。それをどう思い切ってできるか。
欧米作品はスマートさを要求されることが多いけれど、韓国ドラマに関してはより大仰にというか「お芝居を大きくやりなさい」って言えるのかな。香港ものも含めアジアものはそういうテイストだと思います。
石狩 自由度が高いですよね。意識せずオーバーに演じても合いますし。
「ファンタスティック・カップル」より。
― オーバーな演技が合う言語。
石狩 ご覧になっている方もそういう方が多いのではないでしょうか。吹き替えで韓国ドラマをご覧になる方は、コテコテな演技がお好きな方多いと思います。
市来 韓流ブームの前に、香港映画ブームがありましたよね。僕はその流れがあって韓流があると思うんです。香港映画の良さの一つに自由度の高さがあって。例えば、『Mr.Boo!』シリーズだとか、ジャッキー・チェンの映画だとか。そういった作品たちは、アドリブ満載のとても自由な吹き替えの演技をやっていたんですよね。香港映画程ではないけれど、韓国ドラマにもその流れは多少あるのではないかと考えています。
― オーバー気味だからこそ面白い。それが、韓国はじめ、アジア作品ならではの魅力のひとつなのかもしれませんね。
石狩 主人公の美男美女は普通に演技をしていても、周りのおもしろ系おじさんが香港映画みたいな雰囲気を持ち込むから...(笑)
市来 韓国ドラマって、よく出来ているんです。だけど...たまに見える雑さの醍醐味というんでしょうか(笑)。欧米のドラマって、最初から台本も全話揃っていて、カット割りとかも全部決まっていて、演技プランも緻密に出来ていて。でも韓国ドラマって平気で話数増やしたりするでしょう。そういう雑さの醍醐味が、ものすごく魅力になっていると思うんです。その魅力を吹き替え版でも出せるといいな、と。
石狩 僕もそういうところは好きですね(笑)。細かいこと気にせず見ようよ、みたいなね。映画館で笑ってる奴がいても気にならない。欧米とかのマニア向けの単館系映画だとシーンみたいな空気になるところを、みんなで笑いながら見てるみたいな。
― それってすごく魅力ですよね!
石狩 ヒロインのピンチに、必ず主人公は駆けつけますしね。いつもヒロインを見ているから「ストーカーだろ!」って思ってしまうけど、そのツッコミは粋じゃないんですよね(笑)
― でも、カッコよく見えるんですよね~!これが韓ドラマジックです。現在、お二人が関わられている「師任堂(サイムダン)、色の日記」でソン・スンホンさん演じるイ・ギョムもその気がありますよね(笑)。
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