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巨匠ウィリアム・フリードキンが見た紛れもない現実。『クルージング』 製作背景には、知られざるシリアルキラーの存在があった。 <事実喚起予告>解禁!

『フレンチ・コネクション』(1971)でアカデミー賞・作品賞と監督賞ほか5部門を受賞。
続く『エクソシスト』(1973)の世界的大ヒットでオカルト・ブームを巻き起こした巨匠ウィリアム・フリードキン。
長きにわたり失敗作と見なされていた『恐怖の報酬』(1977)は、ここ10年で評価が逆転し、今や各国で傑作と讃えられている。
それから3年、フリードキンが放ったさらなる野心作にして80年代アメリカ映画史上屈指の問題作が『クルージング』(1980)だ。
NYアンダーグラウンドのゲイ・カルチャーを背景にしたこのクライム・サスペンスは、結果的にハリウッド映画史上初めて男同士のSMセックスを正面から描いたことにより製作発表時から公開後まで全米各地で猛烈な抗議活動を受けた。
現在、ゲイ・カルチャーの貴重な記録としても再評価の機運が高まっている本作だが、もう一つ忘れてはならない重要な側面がある。
それは映画の基になった、NYで発生した猟奇殺人事件とフリードキン監督の驚くべき因縁の関係である。

この度、『クルージング』製作の背景にある衝撃的な事実と、フリードキンと事件の容疑者の対話を記録した映像二種<事実喚起予告>が到着した。どちらも黒バックに無音で文字だけが流れ、最後には劇中より、捜査対象にされた男たちの写真が一枚挿入されている予告となる。
こちらの予告で流れる文言は、下記のとおり。


これは1973年から1979年にニューヨークで発生した、ゲイの男性ばかりが惨殺された連続猟奇殺人事件を基にした映画である。被害者の死体は切り刻まれ、バラバラとなった部位が詰められたビニール袋はハドソン川に捨てられた。その肉塊は損壊が激しく身元は特定不能、集められた体の残骸を組み合わせても一人の人間とはならず、人数は少なくとも6人と推定された。1977年、逮捕された容疑者の名はポール・ベイトソン。報道でその顔を見た映画監督ウィリアム・フリードキンは愕然とした。それは自身の監督作『エクソシスト』に出演していた男だったのだ。フリードキンは速やかに容疑者と面会し、悪魔に導かれこの凄惨な事件を映画化した。『クルージング』はフリードキンが見た紛れもない現実である。

https://www.youtube.com/watch?v=NsY-3GrPA6c


ウィリアム・フリードキン監督と連続殺人事件容疑者の対話。
フリードキン: ポール、きみがあの人たちを殺したのか?
ベイトソン:よく覚えていない。ハイだったんだ。ヴァラエティ誌の男は覚えているよ。
フリードキン:アディソン・ベリル記者か?
ベイトソン: そうだ。SMクラブで彼を拾い、アパートに連れて帰った。セックスして、ラリって…フライパンで頭を殴ったのを覚えている。それから切り刻んだ…。
フリードキン: なぜそんなことを?
ベイトソン: 分からない。
フリードキン:他にも身元不明の死体がある。何人殺したか覚えていないのか?
ベイトソン:よく覚えていないんだ。でも自分がやったかもしれない…。
フリードキンは映画化を決意し、ベイトソンとの対話を作品内に引用した。ベイトソンは司法取引によって刑期を短縮され、2004年に釈放された。

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