ロングインタビュー後編|「奇蹟」脚本家リン・ペイユー(林珮瑜)、亡き友人に捧げた原作小説をドラマ化
台湾BLファンの間で、一番ドラマ化してほしい小説NO.1として名高い『奇蹟』。その原作者であり、ドラマ化にあたって自ら脚本も手掛けたリン・ペイユー(林珮瑜)さんのインタビューをお届けします。ドラマ化の経緯をはじめ、キャスティングや撮影裏話についてもお伺いしました。
《前編はこちら》
リン・ペイユーさん
「キャスト4人は、原作キャラクターのイメージにぴったり」
――キャスティングにはどのくらい関わられましたか?
リン・ペイユー 今回はプロデューサーも兼任しているので、キャスティングの全プロセスに携わっています。書類審査と選考を重ね、オーディションで候補者を絞った後、さらにワークショップを通してキャストを選びました。
――キャスティングに関して何か譲れない点はありましたか?
リン・ペイユー 心理的な面です。例えば、愛を信じられない人がBLを演じることはできませんよね。ボディタッチに抵抗感があるなら、演者自身にとってもあまり快適ではないでしょうから、その点を特に注意深く観察しました。それ以外のこだわりはなかったですね。台湾がLGBTQフレンドリーだからかもしれませんが、オーディションで素晴らしかったのは、みんな同性間の恋愛を自然に受け入れ、思い切って演じていたところです。
――愛を信じているかどうか、どのように見極められたのでしょう?
リン・ペイユー 直感でしょうね。雑談や演技のときの眼差しを観察しました。目で嘘をつくのは難しいので、もしそれを演じられるならオスカー賞が獲れるでしょう(笑)。もし本能的に嫌悪感があったら、相手との演技や言葉など、細かいリアクションに滲み出てしまうと思います。
――オーディションで一番印象に残っているのはどなたですか?
リン・ペイユー ルイス・ジャン(姜典)です。デビュー作ではとても真面目で大人しい学生に見えますが、金鐘奨の新人賞にノミネートされたときのインタビュー映像を見たとき、言葉の裏に隠された自信と、束縛を嫌う反逆的な一面を感じました。野心や苦労を厭わない爆発力が艾迪(アイ・ディー)役に適任だと思ったので、すぐにキャスティングの先生に「絶対にルイスをオーディションに呼んでください」とお願いしました。実際彼に会ったときも一目で艾迪だと確信しましたし、その期待を裏切らない演技を見せてくれたと思います。
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――確かにルイス・ジャンさんは最高でしたね。他のキャストの皆さんもそれぞれ素晴らしかったですが、リン・ペイユーさんのイメージと比べていかがでしたか?
リン・ペイユー (日本語で)やっぱり“奇蹟”だなあと思います。キャスト4人とも、ほぼ原作のイメージどおりですから。一人ずつ挙げていくと、白宗易(バイ・ゾンイー)役のタロ・リン(林毓桐)は演技初挑戦ですが、若さならではの清々しさがあります。彼自身が目標に挑むアスリートでもあったので、白宗易というキャラクターの核にぴったりはまりました。演技面は多少ぎこちなさもありましたが、学生らしい青臭さという意味でむしろよかったと思います。
范哲睿(ファン・ジョールイ)役のカイ・シュー(徐愷)は、俳優としての己の立ち位置や価値を見出すことに努力してきた人です。自分は何者なのか、常に自身の存在意義や価値について自問している范哲睿の本質にかなり近いと思います。
ナット・チェン(陳柏文)の場合、おかしなことに最初は彼にあまり注目していなかったのですが(笑)、オーディションの過程で、快活に見える彼が実はとても真剣に物事を捉えていて、それを心にしまうタイプだと後から気づきました。その蓄積が、陳毅(チェン・イー)の抑圧された部分に共通していると思います。
キャラクターにぴったりな4人に出会えたという、まさに奇跡的な幸運に恵まれました。おかげで視聴者の方にもより共感してもらえたのだと思います。
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――脚本執筆時、特にこだわったシーンや思い入れのあるシーンはありますか?
リン・ペイユー どうしよう、ないです(笑)。いえ、全部ですね。どの瞬間も気に入っています。小説は主人公の心境の変化やターニングポイントの描写に重点を置きますが、ドラマではそれを映像で表現します。ですから小説には書き込めなかったものを、脚本の各エピソードに落とし込みました。それぞれのシーンに目的と意図があるので、おざなりにした部分はなく、ストーリー性、絵面、人物間の小さな動きまで作り込む必要があります。脚本にそれらを補足して、小説で再構築してはまたその部分を補って、というふうに作り上げました。
――9話の陳艾CPのベッドシーンの涙が印象的ですが、それも脚本で指示されたのですか?
リン・ペイユー 私も好きなシーンです。脚本自体には書いていませんが、そのシーンには面白い撮影エピソードがあります。現場でルイスとナットのやりとりを見たとき、二人ならもっと表現を広げられる伸び代があると感じ、あることを思いつきました。それで監督にも相談した上で、リハーサル後、ルイスに「もしこのシーンで涙を流してほしいと言ったら、どのタイミングがいいと思う?」と尋ねたんです。自分の中でここぞというタイミングはあったのですが、ルイスはきっと自分で答えにたどりつけると思い、私の正解は伝えませんでした。いざ本番の撮影時、ルイスは私が考えていたとおりのタイミングで涙を流してくれました。すごいです。これも“奇蹟”ですね。
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――范姜睿臣(ファンジアン・ルイチェン)や、陳東揚(チェン・ドンヤン)と周明磊(チョウ・ミンレイ)のストーリーも気になるのですが、「KISEKI+」のようにスピンオフのご予定はありますか?
リン・ペイユー もちろん、そう願います! 実は范姜睿臣の物語はすでに『心機(原題)』という小説があり、陳東揚と周明磊の小説『契羈(原題)』は間もなく出版予定なんです。将来的には、第二部の范姜睿臣、第三部の陳東揚と周明磊の物語も映像化できればと思っています。このシリーズを書き始めたときから、ドラマ・映画を問わず映像化を望んでいたので実現してほしいですね。資金調達など現実的な検討課題はありますが、もし日本サイドでご要望があればぜひご連絡ください!
――それは期待してしまいますね! いち「奇蹟」ファンとしても、ぜひ映像化を熱望します。では范姜睿臣役のアン・ジュンポン(安俊朋)さんには、『心機』を読んで役作りしてもらったのですか?
リン・ペイユー 私から小説を読ませることはしませんでしたが、ジュンポンが演じた奥行きのある范姜睿臣には驚かされました。後から知ったのですが、撮影前にこっそり小説を読んでいたそうで、「范姜睿臣の話はこんなふうに展開するんですね」と話してくれたんです。それを聞いて、こんなに真摯で努力家の俳優さんに出会えて幸せだと思いましたね。
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「BLドラマは私にとって特別」
――『奇蹟』の前にも、いろいろなペンネームで多くの小説を書かれていますね。順風満帆に作家、脚本家への道を歩まれたのですか?
リン・ペイユー 全然そんなことはありません。高校1年生で小説を出版できたときは我ながらすごいと思ったのですが(笑)、大学受験に失敗しました。じゃあ小説家になって自立すればいいと思ったところで、勉強不足では書ける小説にも限界があります。そこで翌年再度大学を受験し、法学部に入学しました。進学後、インプットとアウトプットの重要性を痛感したため、引き続き創作活動は続けていました。出版業界の不況で、恋愛小説やBL小説も斜陽の一途だったので、卒業後は他の仕事に就きましたが、やはり自分が本当にやりたいのは創作活動だと気づき、4年ほど失業していた時期を経て、31歳のころに脚本家としてのキャリアをスタートしました。
――学生時代に法律を学ばれたことが、後の法曹ドラマに生かされたのですね。
リン・ペイユー ええ。キャリアにしろ挫折にしろ、あるいは小説市場の衰退でさえ、これまでの経験は何一つ無駄ではなかったとやっと悟りました。
――リン・ペイユーさんの作品には、一貫して「愛の多様性」というメッセージが感じられますが、今後女性同士やトランスジェンダーの恋愛をテーマに書くご予定はありますか?
リン・ペイユー ええ、考えたことはあります。実は『心機』のサブキャラクターにフォーカスした番外編はGLなんですよ。范姜睿臣の母親が本当に愛していたのは女性で、当時その愛を手放してしまった後悔を『心機』の背景に意図的に忍ばせました。自分にとって、あらゆる創作の出発点が「愛」なので、性を超越したラブストーリーはもっと書いていきたいですね。
――これから「奇蹟」を見る方はもちろん、すでに鑑賞済みの方もまた見たくなるような、劇中の知られざるトリビアを教えていただけますか?
リン・ペイユー トリビアはたくさんありますよ(笑)! ですが、BLファンの皆さんは本当にすごくて、細部のトリビアまでほとんど探し当てられているので、「知られざる」ものはもうないのでは……。
――白宗易のお母さんの声は……?
リン・ペイユー ええ、私です(笑)。それもバレました。脚本以外に、キャスト同士が共鳴し合った小さな動きまでキャッチできる視聴者の皆さんは、本当にすごいと思います。今回「奇蹟」を完成できたのは、一緒にプロデューサーをしようと誘ってくれたアニタ、それから皆さんの励ましのおかげです。私にとってBLドラマが特別なのは、皆さんのあらゆる反響がドラマそのもの、俳優、制作チームに返ってきて、ドラマを見てもらえること自体が作品の栄養分になるからです。昔作っていた同人誌のように、作り手と見る側が相互に循環していて、とても温かい気持ちになります。
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――最後に、昨今ブランドを確立しているともいえる台湾BLの強みを教えてください。
リン・ペイユー 台湾のオープンな空気に加え、早い時期にアイドルドラマが発展したおかげで、人をどう愛するか、恋愛の甘さをディティールでどう表現するかという点において、私自身も含めて長けていると思います。また同性婚や性の多様性にオープンな社会なので、制作にあたって恋愛上の制約がありません。私たちの子ども世代ともいえる若者は、演じる中での親密な身体的接触もとても自然体で、感情とのつながりも感じられます。特に、細やかな感情の変化、情熱的な身体的表現がいずれも非常に繊細な点も、台湾BLドラマの強みだと思います。
――お忙しい中、インタビューにお応えいただきありがとうございました!
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https://www.cinemart.co.jp/dc/t/kiseki.html
聞き手・文:二瓶里美
編集者、ライター。2014年より台湾在住。中華圏のエンターテインメント誌、旅行情報誌、中国語教材などの執筆・編集に携わる。2020年5月、張克柔(字幕翻訳家・通訳者)との共著『日本人が知りたい台湾人の当たり前 台湾華語リーディング』(三修社)を上梓。
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