清代のシスターフッドを描く傑作「清越坊の女たち」が示す女性の生き方とは?《清越坊の女たち:特集2》
第2回の特集は「清越坊の女たち〜当家主母〜」に登場するヒロイン沈翠喜と曽宝琴にフォーカス! 性格も正反対で正妻と妾として対立する彼女たちが、宿敵からかけがえのない存在となっていく波乱万丈の展開とは? 2人のヒロインを中心に封建社会に生きる女性たちの生き様を描き出す力強いドラマは熱い感動が満載。観る前の予習、観た後の復習に押さえておきたい見どころをご紹介します。
ネタバレ注意「清越坊の女たち」みどころ解説・目次
1. 正妻 VS. 妾!正反対のタイプの2人のヒロイン
2. 実は2人は幼なじみのライバル関係
3. 2人の前に第二の男性が現れて関係に変化
4. 腐敗した男性社会に共に立ち向かう2人
COLUMN 1. 封建社会に生きる様々なタイプの女性たち
COLUMN 2. 封建社会の常識にとらわれない男性たち
COLUMN 3. 新しい女性の価値観を示すヒロインたち
正妻 VS. 妾!正反対のタイプの2人のヒロイン
©2022 Huanyu Entertainment Co., Ltd.
沈翠喜(しんすいき)
《経歴》
幼くして両親が亡くなり任家で育ちました。亡き大女将に見込まれた彼女は、9歳で緙絲を習い始めて12歳で帳簿の記帳を学び18歳で商いを任されることに。そして、任家の跡取り息子・任雪堂(じんせつどう)と結婚して女主人として清越坊を盛り立てていきます。
《性格》
冷静で規律に厳格。任家を守ることを第一に考えています。他人にも自分にも厳しく、同業者や使用人からも一目置かれる存在です。
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曽宝琴(そほうきん)
《経歴》
蘇州知府の令嬢として何不自由なく育ち、幼なじみの任雪堂と相思相愛で成長してきました。しかし、父親の失脚でお家取り潰しとなり、一人生き残った彼女は苛酷な拷問を経て行院に送られます。その後、任雪堂に身請けされた彼女は別宅に囲われます。
《性格》
情熱的で自分に正直。高い教養と芸術的センスの持ち主です。必要とあらば女性を武器にしてでも困難に立ち向かっていきます。
実は2人は幼なじみのライバル関係
物語の冒頭は正妻の沈翠喜が夫・任雪堂と妾の曽宝琴が逢い引きする別宅に乗り込んでいくという緊迫のシーンから始まります。
“よくできた正妻”と“甘え上手な妾”が夫を巡って争うのは、中国時代劇ではよくあるストーリー。でも、本作はこの2人が一緒に育った幼なじみ同士というのがドラマを面白くしているポイントです。
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中国語で“青梅竹馬”と表現される幼い頃からのお似合いのカップルなのは、任雪堂と曽宝琴。屈託のない心を持ちセンスも合う2人は、ラブ史劇なら引き裂かれながらも初恋を貫く主人公カップルでもおかしくない設定です。
沈翠喜もかつてはそんな2人をそばで見守ってきましたが、彼らの駆け落ちを土壇場で阻止することになりました。なぜなら、清代の封建社会にあって現実はそうロマンティックには行きません。当時、任家は没落する曽家と一緒に泥をかぶるわけにはいかなかったのです。
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そして今、一度卑しい身分に落ちた曽宝琴は科挙試験で出世を目指す任雪堂にとって足手まといで、常に任家を守ることを考える沈翠喜は曽宝琴の存在を許すわけにはいきません。
一方、曽宝琴の方は任雪堂との仲を知りながら何度も自分の恋路の邪魔をしてくる沈翠喜が、手ひどい裏切り者としか思えません。しかも、ある日突然全てを奪われた辛い経験がトラウマとなって不安から抜け出せない曽宝琴は、何の保証もない妾の身分では任雪堂の愛だけが頼りだと考え、あざとい手練手管を使ってでも彼を失うまいとするのです。
こうして子供の頃のままの無邪気な友人ではいられなくなってしまった沈翠喜と曽宝琴による、争いと葛藤のドラマが展開していくことになります。
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COLUMN 1「封建社会に生きる様々なタイプの女性たち」
本作はヒロイン2人の他にも様々なタイプの女性たちが登場します。
沈翠喜の下で商売に励む林舒芳(りんじょほう)はこの時代に女性ながら大番頭を志すキャリア志向。同じく沈翠喜の侍女でも野心のない巧児(こうじ)は好きになった男性との結婚を叶えますが嫁ぎ先で苦労します。また、行院育ちの曽宝琴の侍女・如意(にょい)は世間の常識にとらわれずにありのままの自分を貫いた結果、最後に幸せを掴むことに。
一方で封建社会の規律に縛られたままの女性たちの姿も描かれ、女性の生き方について考えさせられる示唆に富んだエピソードの数々を堪能できます。
2人の前に第二の男性が現れて関係に変化
任家を守ることが自分の生きる道なのだと信じ、任雪堂が自分を愛してくれないことを承知で妻となった沈翠喜。初恋の恋人・任雪堂だけを心の頼りに屈辱を耐え忍び、今日まで生き延びてきた曽宝琴。
そんなヒロイン2人の間で板挟みに苦しんでいた任雪堂が突然、旅先で失踪してしまったことから、彼女たちの溝はさらに深まっていきます。曽宝琴は任雪堂が不在の間に息子を産むものの、自分は任家に入ることを許されず、息子だけが任家の跡取りとして沈翠喜に引き取られたことで、ますます恨みを募らせていくのです。
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そんなある日、曽宝琴は雪の中で行き倒れていた魏良弓(ぎりょうきゅう)という男性の命を助けます。若くして学業優秀だった彼は前途洋々のはずが、正妻である義母のせいで生母が死に追いやられたと恨み、生きる希望を失っていました。そして、曽宝琴を慕うようになった魏良弓は彼女の頼みで、任家に家庭教師として入り、彼女の息子を指導するようになります。
そうとは知らない沈翠喜は清廉潔白な心を持ち、教養に溢れた魏良弓に惹かれていきます。幼い頃から任雪堂以外の男性と親しくなる機会もなかった彼女は、どんな女性にも優しい任雪堂に好感を抱き、その気持ちが愛なのかもしれないと思い込んでいました。
でも、母親を失った悲しみと孤独感、曽宝琴への報われない想いを抱く魏良弓の心に共鳴し、彼と心を通わせることで本当の愛を見つけていくのです。
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しかし、失踪中とはいえ夫のある身の沈翠喜にとって、これは誰にも知られてはいけない世を忍ぶ恋。彼女は葛藤と愛する喜びの間で心を揺らしますが、そんな彼女の気持ちに気づいて誰よりも理解してくれたのは曽宝琴でした。
また、曽宝琴は沈翠喜の裏切りの裏に隠されていた事実と、彼女が任家を守るためにどれだけ多くのことに耐えてきたのかを知って、心境が変わっていくことになります。
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COLUMN 2「封建社会の常識にとらわれない男性たち」
任雪堂は頼りになる妻・沈翠喜と初恋の恋人・曽宝琴のどちらかを1人を選ぶことができない優柔不断な男性。でも、初恋を守り抜こうとするロマンティックな心、女性を尊重する公平な目を持っています。
また、魏良弓は教養人ながら当時の規律や儀礼に反抗し厭世的になっている男性。名利を追い求めることを潔しとせず、清く正しい心を守り抜きます。
そんなふうに世間から見れば頼りないようでいて実は封建社会の常識にとらわれない強さを持つ男性キャラクターたちとのロマンスが描かれるのも本作の魅力。観れば観るほど人間ドラマの深さも味わえます。
腐敗した男性社会に共に立ち向かう2人
こうして魏良弓を通して次第に歩み寄っていった沈翠喜と曽宝琴は、疑心暗鬼になるのをやめて本音をぶつけ合うことで互いを理解し、かつての友情を取り戻していきます。そして、手を取り合って任家を守ることになるのです。
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当時の織物業は大金が動く花形産業で、裏金を稼ぎたい役人たちの格好のターゲットとなっていました。そのため生糸の値段が吊り上げられ多くの織物工房が苦境に陥っていましたが、職人としても経営者としても有能で人望のある沈翠喜は、同業者たちの先頭に立って組合を作り、汚職役人たちに対抗していきます。
しかし、女性というだけで虐げられる男性社会にあって、沈翠喜のような存在が許されるはずがありません。いつしか彼女は卑劣な陰謀に巻き込まれていくことになります。そんな沈翠喜を志を同じくする女性として支えていくのが曽宝琴です。無実の罪を着せられた沈翠喜に死が迫った時も、曽宝琴は最後まであきらめずに彼女を救おうと奔走します。
このような波乱万丈の過程を経て、“宿敵”でありながら“親友”そして“家族”として強い絆で結ばれていく沈翠喜と曽宝琴。固い信頼関係で結ばれた2人が共に腐敗した男性社会に立ち向かっていくドラマには深い感動と共感を覚えてしまうはず。さらに、先の読めない2人のラブストーリーの結末も見逃せません。
©2022 Huanyu Entertainment Co., Ltd.
COLUMN 3「新しい女性の価値観を示すヒロインたち」
清代の女性は自由に生きることを認められず家庭に縛られ、名節(名誉と操)を失うぐらいなら一族の恥とならぬように死を選ぶべきと教えられていました。しかし、本作のヒロイン2人はそんな因習に抗って何があっても自尊心を失わず生き抜くことを選びます。
また、沈翠喜は自分の技術を女子たちに教え、手に職を持てば女性でも自立して生きられると示していきます。こうした女性目線で現代に通じる価値観を力強く打ち出していくストーリーは、これまでの中国時代劇にはなかった新鮮な見どころ。
近年、世界的に流行している女性の連帯を意味する“シスターフッド”をテーマにした新しい中国時代劇といえます。
DVD-SET1~3 発売中 各17,600円(税抜16,000円) ※同時レンタル開始
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※U-NEXTにて独占先行配信中
©2022 Huanyu Entertainment Co., Ltd.
公式サイト:https://kandera.jp/sp/toukeshubo/
TEXT: 小酒真由子(フリーライター)
映画界・出版界での会社勤めを経てフリーライターに。アジアから欧米までドラマについて執筆しています。双葉社『韓国TVドラマガイド』にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を連載、Cinem@rtにて「『山河令』の台詞を読み解く」「アジアドラマの処方箋」などを執筆。
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