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【配信で楽しめる!今月のおすすめ韓国映画】#3 監督チョン・ジニョン×主演チョ・ジヌン! 記憶の迷宮をさまよう、ユーモラスな名作『消えた時間』

     


山深い田舎の村外れの古い一軒家。小学校で働く教師と、夜中になると別人に変わってしまう教師の妻。秘密を知った村人がこの夫婦の家に設置した鍵付きの鉄柵。やがて起きた不慮の火災によって命を落とす夫婦。事件の捜査のためにやってきた刑事は、何かを隠していそうな村人たちの様子に不審を抱く。

もし、何の予備知識もなく『消えた時間』を見始めたとしたら、閉鎖的な村が抱える闇や、秘密を隠し持った人々による凄惨な事件を描くおどろおどろしい展開が待ち構えているとドキドキする人もいるでしょう。ところが、チョ・ジヌン演じる刑事ヒョングが、村の長老から自家製の酒を飲まされて泥酔し、目が覚めると火災で燃えたはずの教師の家にいて、村人からは「先生」と呼びかけられるあたりから、これは普通のスリラーやサスペンスではないことに気づかされます。彼を待ち受けている結末は……。


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監督・脚本を手がけたチョン・ジニョンは『王の男』をはじめ多くの作品で知られるベテラン俳優。本作で満を持して監督デビューを飾り、第21回釜山映画評論家協会賞新人監督賞をはじめ海外でも各賞を受賞しました。カナダで開かれた第24回ファンタジア国際映画祭では、監督と主演男優の2部門で審査員特別賞を獲得。「驚くべき構成とシンプルな設定の中のユーモアに幻惑された」と評価されています。

チョン・ジニョンによれば「ストーリー自体は『アラビアン・ナイト』。他人が見る自分と実際の自分は異なる場合がある」とのこと。妻子のいる刑事だったはずのヒョングが、突然周囲から独身教師として扱われるという設定には、常に別人として生きてきた俳優ならではの視点が投影されているように思えます。

豪華なキャスティングにも、長年のキャリアで培ったチョン・ジニョンの豊富な人脈が活かされています。チョ・ジヌンとは『大将キム・チャンス』で、最初に登場する小学校教師役のぺ・スビンとは「トンイ」で共演。また、口の軽い村長を演じたチョン・ウォニョンとは「華麗なる誘惑」で顔を合わせています。

そして、最初に妻の秘密を知る村人役でチョン・ヘギュンが出演。彼はチョン・ジニョン主演の『黄山ヶ原』で端役を務めましたが、当時はまだ無名でした。それから10年以上経って、チョ・ジヌン主演のドラマ「シグナル」で彼の同僚役を演じて広く知られるように。「シグナル」ファンとしては、この配役は嬉しい限りです。


ドラマ「シグナル」より。チョン・ヘギュン(左)とチョ・ジヌン(右)
©2016 Studio Dragon & ASTORY


また、役名にちょっとした遊びが感じられるので、そこも注目してほしいところです。自分には妻子がいたと主張するヒョングの「妻の名はチョン・ジヒョンで長男はパク・チソンだ」と言うセリフに、村人のヘギュンがぷっと吹き出す場面が出てきます。この名前が有名女優とサッカー選手だということに気づく人も多いのでは。監督の意図は不明ですが、不穏な空気の中で、ふっと肩の力を抜くことができる場面になっています。

もう一つ、監督に聞いてみたいのは、チョン・ヘギュンが演じた村人が、本人と同名なのはどういう理由なのか、ということです。やはり彼の持つ独特な雰囲気から、ほかにしっくりくる役名が思い浮かばなかったのでしょうか……。

最初のうちこそ、ヒョングはこの先どうなるのか、教師夫婦、編み物教室の女性講師、何かを知っていそうな少年たち登場人物やセリフにどんな意味があるのか、などと考えたりもしたのですが、いつしか映画に流れる時間の中にただ身を委ねていました。

今いる世界に自分は本当に存在しているのか、この瞬間が現実だと言えるのか……、見ているうちに様々な思いが浮かび、消えてしまった時間を探し求めるヒョングとともに記憶の迷宮をさまよう気分になってきます。それが意外にも心地よく感じられ、夢のような不思議な時間を過ごすことができる一作なのです。




Text:小田香
出版社勤務を経てフリーとなり、01年頃より日韓の俳優、映画・舞台関係者に数多く取材。現在は『韓流ぴあ』『韓国TVドラマガイド』等の韓流誌を中心に、ミュージカルや映画・華流ドラマについての寄稿も行っている。著書にノベライズを手がけた『イニョプの道』がある。毎週金曜日AuDee配信の番組 「韓流ぴあpresents K❤❤❤(Love Max)」に不定期出演中。


『消えた時間』
田舎で小学校の先生をしているスヒョクはある秘密を持っていた。毎晩、彼の妻のイヨンは別の人間に変わるのであった。彼の生徒の父親がスヒョクとイヨンの秘密を知り村じゅうに、毎晩イヨンの体は霊に取り憑かれていることを言いふらし、村人は彼らの家に檻を取り付けてしまう。
ある日、檻の中に火が上がりスヒョクとイヨンが焼け死んでいるのが発見された。この事件によって今まで静かで平和だった村の状況は一変する。ヒョングという刑事が火事の調査のためその村を訪れ、一人一人村人を取り調べる。ある夜、村人たちは部外者であるヒョングを役場での宴会に招待する。村一番の年寄りの男が全ては自分のせいだと告げ、ヒョングのグラスに酒を注いだ。酒を飲み干した後、ヒョングは意識を失う。
ヒョングが檻の中で目を覚ますと、まるで火事が起こる前のようであった。しかし、全員がヒョングを「先生」と呼ぶ。そこでヒョングは自分がスヒョクになっていることに気づくのであった。これは夢か、それとも現実か――。

監督:チョン・ジニョン
出演:チョ・ジヌン、ペ・スビン、チョン・ヘギュン、チャ・スヨン
2020年/105分/韓国/配給:エスピーオー
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