【コラム】"F4"が巻き起こしたこと / 最終回「ケン・チュウ」 小俣悦子(フリーランス編集・ライター)
2004年に「流星花園~花より男子~」のDVD-BOXが日本で発売になり、今年で15年が経ちました。
今でも「流星花園」は根強い人気を誇っており、F4ファンからは熱い声が寄せられます。
ここまで人を夢中にさせる「流星花園」、そしてF4って、いったいどんなムーブメントだったんだろう?
当時をよく知る華流業界の4名に、F4の思い出を振り返ってもらいました。
第1回:F4
第2回:ジェリー・イェン
第3回:ヴィック・チョウ
第4回:ヴァネス・ウー
第5回:ケン・チュウ
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初めてF4のビジュアルを見たときは、正直なところけっこう衝撃的だった。
それは当時、旅行で定期的によく行っていたインドネシアでのことだった。それまでは、中華圏のスターといえば香港が中心で、当時仕事で香港のスターや映画の本を作っていたので、中華圏の人気スターのだいたいは頭に入っているつもりでいた。
が、彼らは一体何者なんだろう? 日本人でもすぐに読むことができる『流星花園』の文字とともに、4人の写真が入ったバッグやマグカップ、ノートやペンケースなどの文具におまけ付きのお菓子まで、あらゆるグッズに、ジャカルタとデンパサールの空港の売店で、スーパーマーケットで、お土産屋やCD店で、と行く先々で出会うときがあった。
そんなグッズの数々は、恐らく独自に作っていることが一目でわかるようなものばかりで、「F4始めました!」と言わんばかりに店先にバーンと目立つように置かれていたのも印象的だった。
とりあえず、いますごく人気のある人だということはわかる。『流星花園』......と漢字なのに、そのときは「東南アジアの人気グループなのかもしれない」とルックスを見てふと思ったことも覚えている。
それが台湾発のスーパーアイドルユニット、F4だった。インドネシアでの人気ぶりを実感してから初来日までの間、いろんなものを見聞きして、すでに心はF4への期待でパンパンになっていた。
当時の業界はというと韓流ブームがまだ熱々で、公式初来日するF4が、韓流ブームの延長線上に突如置かれたような過熱ぶりもあったと思うし、それも狙いのひとつだったのかもしれない。
だけど私はそうではなくて、純粋にF4がやっと日本にきてくれることが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
そんな大きな期待感から、会見ではカメラマンを2人立ててF4を2人ずつ撮ってもらい、少しでもいい撮影ポジションを確保したくて受付開始時刻の2時間半以上も前から並んだ。それでも1番目ではなかったが、そこまでしたのは後にも先にもこのときだけだ。
来日したケンは、鼻ピアスをしたりしていなかったりして、そんなワイルドなアイドル像は新鮮そのものだった。黒髪のロングヘアにエキゾチックな美しい顔立ち。
4人のキャラはだいたいわかっていたけれど、コメントをうまくまとめたり何となく場を仕切ったりしている風なケンは安心感や安定感があって、実際にも180cmの長身だが、その存在感の大きさによって、彼自身がより大きく見える気がした。
日本で音楽活動を積極的にしていたケンは、2枚のソロアルバムをリリースし、東京国際フォーラム ホールAや当時のJCB HALL(現・TOKYO DOME CITY HALL)、大阪厚生年金会館大ホール(現・オリックス劇場)などの大きな会場で単独ライブを行なった。
ギターサウンドが中心のオリジナル曲をはじめ、父親の影響で好きだったというビートルズやカーペンターズ、ジャズなどを、自身の音楽のルーツや思い出のエピソードを交えながら披露したケン。
アイドルではない自分自身を見せたい、音楽が好きな思いをわかってほしい、という強い気持ちを全開にしたケンのライブは、いつもパワフルで圧倒された。
俳優活動では、おなじみの台湾アイドルドラマの数々のほか、意外に濃厚なベットシーンもあったフィリピン映画「バタネス(Batanes)」(08年の第4回アジア海洋映画祭イン幕張で上映)や、約2カ月かけて中国各都市を回った舞台劇「他和他的両個老婆」など、個性的な作品にも挑んだケン。
この舞台劇を見て、ケンのいきいきとしたコメディ演技に感動したが、もうひとつ忘れられないのは、会場で日本のファンの方が、日本語に訳した台本を日本人の観客に配っていたことだ。ケンの情熱に応えて後押しするようなファンの姿もまた感動的だった。そのおかげで一観客の私は上海での3日間の全公演を存分に楽しむことができたのだ。
舞台劇に出た理由を「演技を極めたいから」とインタビューで語っていたケン。その先に彼が見つめていたのは、監督への道だった。
2014年、日本での活動を休止することを告げた、涙、涙の日本で最後のファンミーティングのあと、監督を学ぶために北京電影学院に入学した。
それからどうしたものかと思っていたら、2016年に中国の女優、ハン・ウェンウェン(韓??)とゴールイン!というニュースが。バリ島までお祝いに駆けつけたジェリーとヴァネスのF3で「流星雨」を歌う姿はメディアでも紹介された。
恋多き男のイメージもあったケンだが、それはきっと、秘やかに付き合っていたら世間に知れることもないでしょうに、恋愛においてもケンらしく、正々堂々といつも向き合っていたからではないのかな、と勝手に思っている。
今年4月、中国のバラエティ番組「王牌対王牌4」にジェリーと2人でゲスト出演したことが久々に話題になっていた。
シャイなジェリーとは対照的に、よくしゃべりよく笑い、すっかり番組に溶け込んでいたケン。グァン・シャオトン(關曉?)、ホァ・ チャンユー(華晨宇)といったいまをときめく若手人気スターや中堅人気俳優のシェン・トン(沈?)らがレギュラーを務める人気番組だ。
トークコーナーでは、ケンが『怪盗 楚留香』の撮影中に父が亡くなり、ロケ地が新疆ウイグル自治区だったために帰れず、悲しみに耐えながら撮影に臨んだことを語り、若い2人の涙も誘っていた。そんな情に厚いケン節も、豪快なガハハ笑いも健在だった。
ちなみにケンは4月に新曲を発表※1していて、weibo(新浪微信)では自身の最新情報も発信しているので、気になる人はチェックしてみてほしい※2。そして、いつの日か、ケンの監督作を見ることができたらいいなと願っている。できれば映画館で。
F4が歌う「流星雨」のイントロが流れてくるだけで、いまでも瞬時にどこかノスタルジックでファンタジーな別の次元に引き込まれるような感覚になる。時間が経ったいまは実際のなつかしさがプラスされているけれど、当時からこの曲を聴くとそんな感覚になっていた。
同じように、台湾はもちろん、香港、中国の中華圏だけでなく、日本にも韓国にも東南アジアの各国にも、そんな感覚を抱いているたくさんの人がいるだろう。「流星雨」が名曲であることを物語るかのように。
そして、ここ東京にぽつんといるちっぽけな自分もその広い世界の大勢の中の一人、ということを幸せに思う。この感覚や思いは、きっと10年先も変わらないんじゃないかな。
※1:ケン・チュウ「?当我想起?」https://www.weibo.com/p/10151501_100540894
※2:ケン・チュウweiboアカウント https://www.weibo.com/kenchu9?is_hot=1
Text:小俣悦子
フリーランス編集・ライター
編集プロダクションで数年、出版社で10年の勤務を経てフリーランスに。アジアのエンタメ関連を中心に編集・執筆。台湾が好きで、台湾のスター名鑑「アーティスト・ファイル台湾」のあと、2011年から2018年まで「台湾エンタメパラダイス」(共にキネマ旬報社)20号分を企画・編集。現在、新しい華流雑誌「華流日和」を真心込めて編集中。コスミック出版より8月28日発売予定。
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