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中国、 「まけて!」のテクニック

購買欲が芽生えた瞬間から、買い物は始まっている。これは 高校のとき、親友が放った一言である。

今から10数年前、私は北京の高校に通っていた。学校の近くには、ファッション市場と呼ばれる建物があって、私たちは暇さえあれば買い物に行っていた。


ファッション市場といっても、取り扱っている商品はファッションのほか、雑貨や漫画、生活用品など様々で、小さなお店がぎっしり詰まった大きな建物だった。慣れていないと迷子になるほどである。

そんなファッション市場に私もよく、親友と行った。彼女はさばさばした大らかな性格で、値切るのがうまかった。そのテクニックをまとめると、こうだ。

まず、市場に向かう途中で、今日買いたいものを、指を折りながら整理する。そしてどのお店から回るか、ある程度予定を立てる。

市場に入ると、第一の標的となったお店に入るのだが、もちろん何も考えずに入ってはいけない。彼女いわく、戦いはすでに始まっているのである。

「探してるものがある」というのを、店員にばれてはいけないのだ。何となとくふらっと入った、別に大して欲しくない、買っても買わなくても、といった素振りを見せる。

そして目当てのものが見つかると、どうでもよさそうに店員に、「これ、いくら?」と聞く。

店員が答えると、彼女は決まってものを元の位置に戻す。運よく、安くするよと言ってくれるときもあるけれど、何も言われなければ、高いなとぼそっと呟く。

ではいくらならと聞かれ、ものにもよるが、多くの場合は半額めがけて交渉をする。すると店員は、あり得ないといったような態度を取る。

それを感じ取ると彼女は、別れ話でもしたかのように、きっぱりと店を出ていく。私は後ろを追いかけていくのだが、彼女は一度も振り返ることはない。しかしそのとき、店員の「待って」という声が背中に響いてくるのだ。

勝った。

彼女は店に戻り、欲しかったものを半額で買う。そして店を出ると、決まって私に、「なんだ、こんなにすんなりいくなら、もっと値切っておけばよかった」と言う。

まけてといくら口で言っても、ダメなときがある。しかし、別にどうでもいいというような態度を取ると今度は、客を失うのが怖くて引き留めたりするのだ。そんな心理戦が繰り広げられていたのである。

中国では、大きなデパートやスーパーは別として、市場や小さな路面店などでは誰でも「まけて!」のテクニックを使う。

相手を観察し、ケースバイケースでありながらも、チャンスを見極め、ばしっと決める。
「リアル三十六計」を、日常生活の中で目にすることができる。それは、日本での生活が長い私にとっては、とても新鮮でおもしろい光景となった。

市場にはいろんな人の、いろんなやりとりがある。私の叔母 は、北戴河(ほくたいが、河北省にある観光地)へ旅行に行ったとき、300元もするアクセサリーを安くならないかと聞いたら、じゃあ5元でと言われ、ひっくり返ったことがある。

世界も、市場も、本当に広い。中国旅行に行ったら、運よく勇者に出会えるかもしれないので、市場などで人間観察をしてみてはどうか。そして、旅の恥は掻き捨てというように、自らチャレンジしてみてほしい。

筆者:于 然(いう らん)

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