【きゅんとあじあ】東京国際映画祭 『The Kids』(台湾) Q&A
皆さんは、映画を観る前にある程度の知識を入れて挑みますか?
私はどちらかというと、先入観を持たないように、あまり情報を入れずに観に行くタイプです。
これが功を奏する場合もあれば、ある程度先にお勉強しておけばよかったな~という場合もあるのですが。
さて、本作はというと、
「チャン・ツォーチ監督の元で様々な経験を積んだサニー・ユイが、幼くして1児の父母となってしまった10代の男女の破綻を描いた監督デビュー作」という前情報が完全に先入観となり、もう全編ドロドロの暗い映画なんじゃないかな~と身構えて席に着きました。
ところが、です。
ここに描かれている彼らの生活は、確かに重い現実なのですが、どうも淡々としているというか、飄々としているというか...。拍子抜けするくらいでした。
中学2年生の少年バオリーが、いじめられている上級生のジアジアを助けに行くところから物語は始まります。また別の日、生理痛のため医務室で寝ていたジアジアの手を、バオリーが優しくマッサージしています。『GF*BF』にもあった、親指と人差し指の間を押して痛みを和らげるというもの。こういった断片的な情景で、徐々にふたりの距離が近づいていくのがわかります。
そしてタイトルが出て、すぐ次のシーンでは、バオリーが食堂で働いていて、「あの子は16歳の若さで子供を養っているのよ」といったセリフで、もう子供が生まれていることが分かります。
子供が出来てしまい、学校を退学して...といった、実際はセンセーショナルな事件であったろう部分は一切描かれません。これにまず、うなりました。
ジアジアはというと、カフェでアルバイトをしていて、実はカフェのオーナーと不倫しています。
バオリーは、近所の人から広くてきれいなアパートを紹介され、「ここに引っ越せば家族でもっと幸せになれる。元気がないジアジアを喜ばせることができる」と夢を描くようになります。
ところが、ギャンブル癖があるバオリーの母親が、多額の借金を負ってしまいます。
それでもバオリーはどこか達観しているというか、現実を受け入れているような感じで。
おそらく彼は小さい時から母とふたりきりで生きるうちに、あまり深く考えないようになっていたのかもしれません。しかしこの借金がもとで、ジアジアは不倫していることをバオリーに告げ、赤ん坊を連れて家を出てしまいます。「借金を返済し、引っ越しさえすれば彼女が帰ってくる」。その一心でバオリーは犯罪に手を染めようとし...
主演のウー・チエンホー(バオリー)とウェン・チェンリン(ジアジア)は、前年に東京国際映画祭で上映され一般公開もされた『共犯』でも共演している若手注目株。
私は『共犯』に出てくる少年たちの中で、ウー・チエンホーの演技に一番惹かれたのですが、本作の彼は全然風貌が違う! 華奢なイメージから一転、ぷにゅぷにゅ。これがバオリーの、優しいけど隙がある感じを表しているように思えました。それにしても別人にしか見えない!
ウェン・チェンリンは、とてもカメラ映えする女優さんですね。『The Kids』のメイン画像に惹かれてチケット買った方もいるのではないでしょうか? 彼女は「ニエズ」の曹瑞原監督の最新ドラマ「一把青」に出演しています。
ふたりの儚いラストカットが印象的でした。今後の活躍が楽しみです。
台湾映画ファンにとっては共演者も要チェック。『きらめきの季節‐美麗時光‐』(チャン・ツォーチ監督)のガオ・モンジェが食堂の店主役、『念念』のクー・ユールンがカフェのオーナー役で出演しています。
さて、この切なく苦くピュアな青春映画を描いたサニー・ユイ監督がQ&Aに登壇。
まだあどけない少女のようで、大変びっくりしました。
■ジアジアが生んだ子供は、本当にバオリーの子供ですか?
たくさんの人によく聞かれるのですが、バオリーの子供です。ラストカットから想像していただければと思います。
■子供を引き取りたいという女性が出てきますが、仲介ビジネスなのか、本当に子供が欲しいのか、どちらでしょうか?
アメリカから帰国していた女性は、子供に恵まれなかったため、より良い環境で子供を育ててあげたいと思っているという設定です。
■手持ちカメラが感情の揺れ動きをよく表していたと思いますが、撮影時の意図などは?
最初の長編なので、資金的な部分など様々な困難がありました。スタッフは以前助監督をしていた現場で知り合った友人たちです。低予算でしたが、友情と人情で頑張ってくれたと思います。
私は手持ちカメラの雰囲気がとても好きで、現在の場面を撮る時に手持ちカメラを多用しました。
人物に接近して感情を掬い取るという目的です。一方、美しい過去を描くフラッシュバックの場面では固定で撮ったり、レールを使っています。過去と現在の区別が、撮影手法の違いになっています。
■すいぶんとシンプルなポスターですね。
私とエグゼクティブプロデューサーのアービン・チェン(陳駿霖)とでデザインしました。
低予算の独立系の作品ですが、国際映画祭で上映されるということで、私と彼とでデザインしました。私はこのさっぱりとした感じがとても好きです。
※アービン・チェン:『台北の朝、僕は恋をする』の監督
■主演のふたりがとても魅力的でした。キャストについて教えてください。
彼らのデビュー作で知り合って、もう5~6年の付き合いがある友人です。
台湾の新電影(インディペンデント)を代表する俳優で、とても人気があります。
ウェン・チェンリンはこれが初の主演作となります。
■爽やかなラストカットと対照的に、最後に絶望的な状況にふたりを置いたのはなぜですか?
このラストカットには希望を込めています。現実に打ちのめされ絶望したふたりですが、かつては
幸せに未来を夢見ていたわけです。今は絶望の中にいても、未来に新たな希望を見つけることができるだろうと願い、あのようなラストにしました。
■父親が亡くなってから、主人公の母親が全く働いていないように見えますが?
かつては工場か飲食店で働いていて、今は孫の面倒を見るために家にいるという設定です。また彼女は博打で負けて借金が返せず、指を詰めています。台湾のヤクザ社会にはそういう文化があります。何かと体裁が悪いため、外に出て働いていないという設定です。
■もしターゲットを絞るとしたら、どの年代の人に観てもらいたいですか?
私が伝えたいのは、家族であれ男女であれ、愛というものは理解してもらえるだろうと思っています。これは私の身近なところで実際に起こったことでした。悪い結果だけを見るのではなく、なぜ若い父親が社会的に追い詰められてしまったのか、10代の子供たちを理解したくてこの作品を撮りました。(高校生、主婦、大人に絞るとして)もしその三択でしたら、大人に観に来てもらいたいです。若い世代には好みもあるでしょうし、子供たちがどういう状況にいるかを、大人に観てもらいたいと思います。
■甘酸っぱい過去の恋愛と現在の部分をつなぐ中間をごっそりカットしているのは、どのような意図がありますか?
特に語る必要はないと思いました。彼らが知り合って恋をするという美しい過去の部分から、いきなり現在の苦しい現実に繋げました。子供を産むあたりというのは特に必要がなく、いきなり今の残酷で苦しい生活に迫られているところを描いたほうが、対比が分かりやすいと思い、その中間は省略しています。(文:村野奈穂美)
『The Kids』 原題:小孩 (2015/台湾)
監督:サニー・ユイ(于?珊)
出演:ウー・チエンホー(巫建和)、ウェン・チェンリン(?貞菱)、クー・ユールン(柯宇綸)、ヤン・チー(楊琪)、ガオ・モンジェ(高盟傑)
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