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レポート・インタビュー
特別インタビュー

Cinemartで不定期連載中の「【韓流お仕事図鑑】あなたのもとに韓国ドラマが届くまで」。この連載は、韓国ドラマを日本のお茶の間に届ける過程に携わる人たちへのインタビューです。

今回、その中で「師任堂(サイムダン)、色の日記」に携わる人たちへのインタビューを、この「師任堂~」特集ページでも掲載!

今回は、海外の映像作品には欠かせない<日本語吹き替え>。意外と知られていない、<日本語吹き替え>にまつわるお仕事についてお話をお伺いしました。韓国ドラマの吹き替えあるあるや、時代劇と現代劇の演じ方の違い、最新作「師任堂(サイムダン)、色の日記」吹替版の見どころなど、思わず吹替版が見たくなるエピソードが満載です!


<プロフィール>
市来満さん(吹き替え演出家)
1969年、東京都出身。主な演出作品は「宮~Love in Palace」「花より男子〜Boys Over Flowers」<TV>「バトル・オーシャン 海上決戦」「暗殺」<映画>最新作は今夏公開「新感染 ファイナル・エクスプレス」

石狩勇気さん(声優)
1981年、大阪府出身。主な出演作は「朝鮮ガンマン」金丸役、「アイドゥ・アイドゥ」チュンベク役。「師任堂、色の日記」ではイ・ギョムの甥であるイ・フの吹替を担当。リマックス所属。


第1回 「キャリアに韓流ドラマがいっぱい」 :2017.3.21更新
第2回 「オーバーな演技が合う言語」 :2017.3.22更新
第3回 「『師任堂』のガヤ」 :2017.3.23更新
第4回 「日本人が聞いていて気持ち良い声」 :2017.3.24更新

<対談>吹き替え演出家・市来満さん×声優・石狩勇気さん#3

― ではこれからは、「師任堂(サイムダン)、色の日記」の吹き替えについていくつかお伺いさせてください。
1作品の中に時代劇パート、現代劇パートの両方がある特殊な作品ですが、演出・演技の面で、現代劇/時代劇で差別化されている点はありますか?

石狩:
演じ分けは特に意識していません。
人となりや環境や時代は、現代と過去でもちろん違いますよね。それぞれを演じた結果として、演じ分けられると思っています。

でも少し技術的なことをお話しすると、現代劇の方が早口で、時代劇の方がゆったり喋っています。昔の方が、時間の流れがゆったりとしていたからかもしれません。
あと、日本の時代劇がゆったりした喋り方が多い、ということも意識されていると思います。

もちろん、時代劇では堅い日本語というか、正しい日本語で話します。
たとえば「つーかさ」みたいなことは言わないですし(笑)。

でも、現代劇だと「つーかさ」と早口でまくしたてても画面に合うんです。
その感覚が体に馴染んでくると、ガヤ(※)を収録するときに、時代劇と現代劇の切り替えがとてもスムーズにできるようになりますよ。

現代だと「マジで」みたいなこと言っていても、時代劇のガヤを録るときは、自然と「まことだな」「さようか」みたいに言葉遣いが変わってしまうんです(笑)。

※ガヤ:周囲のがやがやとした声のこと。特定のセリフはなく、ほとんどが声優たちのアドリブで行われる。

「師任堂(サイムダン)、色の日記」より。


― その時代の話し方が、吹き替え作業を通じて体に馴染んでいくんですね。

石狩:
でも...やはり自分は現代人なので、たまに時代劇パートなのに現代語を使いそうになって。
「おっとっと...」ってなっています(笑)。

― 使ってしまうことはあるんですか?

石狩:
時代劇パートのガヤで英語の言葉を使ってしまえば、それは止められます(笑)。
たとえば「ラッキー」とか。「やべっ」とかもダメ。

でも、ついそれぐらいだと言ってしまいそうになることがあって。なんとかギリギリのところで止めたりしています。

― そもそも、ガヤって本当にお喋りしているんですね。
てっきり、それっぽい音を出しているだけかと思いました。

石狩:
声優によるし、シーンにもよりますよ。

それっぽい音を出している人もいれば喋っている人もいるし。マイクに向かってひとりでぶつぶつ言っている人もいれば、実際に声優同士で喋っている人もいます。
横の人と喋った方が会話は続くのですが、会話が上手く回らないかもしれない怖さもありますね。

どっちを選択するかは人それぞれだと思うんですけど、でもやっぱり喋っている人が多いかな。

「師任堂(サイムダン)、色の日記」より。

― そうなんですね。ガヤに注目して聞いてみるのも、おもしろいかもしれません。
演出面では現代劇と時代劇で切り替えていることはありますか?

市来:
やはり時代劇口調ですね。
もちろん「こういう口調でいきます」と吹き替え翻訳者に事前に伝えているので、台本には反映してもらっています。でも、演出する際にも意識して演出します。

時代劇はすごく画面の力が強いんです。

出てくるものもすごく大きい。例えばセットは、大きなお屋敷だったり。
衣裳だってそうです。身に着けている物の重さの違いもある。現代は軽い洋服ですが、時代劇は重い和装ですよね。

そういった画面から感じるその重厚感を、声や音でも出したいと思っています。

― 中宗とミン教授の吹き替えは同じ声優さんが演じられていますよね。今のお話をお伺いして、同じ声優さんが演じられているのに、微妙に声の重々しさが違うと感じたので「そういうことだったのか!」と納得しました。

市来:
これが、現代風のお芝居だとなかなか合わないんです。
いつも若い声優には「セリフが洋服着ちゃってる」って言うんですが、時代劇の時は、より大仰に、よりくクサくしたいというか。

僕が見ていた時代劇って「遠山の金さん」のあたりですが、昭和の時代劇スターたちはみんなクサく大仰な演技をしているんですよね。
でも彼らも、現代劇と時代劇とでお芝居を変えていた。

そういうお芝居の大きさの違いは常に考えています。

「師任堂(サイムダン)、色の日記」より。
中宗/ミン教授の声を上別府仁資さんが演じている。2役の声の違いは注目!

― 「セリフが洋服を着ている」というはとても面白い表現ですね。

市来:
着物って背筋がピッと伸びるし、重量感があるから重心が下に来ると思うんです。
そうすると、より地に足がついたお芝居になってくると思います。

「洋服着ちゃってる」というのは上半身が軽いというか。現代の時間の流れも含めて、より会話がウィットになっちゃう。

― たしかに服って身体に直接触れるものですし。声の出し方にも影響はありますよね。

市来:
画面に映っている俳優たちは、実際に着て演じているじゃないですか。あの重みや感覚って着たことがある人にしかわからないと思うんです。
でも、僕たちは衣裳を着て収録するわけにはいかないから。

ちゃんと意識していないと、どうしても洋服着ているセリフになってしまう。

石狩:
画面に映る俳優さんも、もちろんあの時代の本当の喋り方を知らないと思うんです。だけど、当時の服を着て、当時の雰囲気のある舞台で演じていると、自然とその時代にあった演技や話し方になるんだと思います。

だから、吹き替えの僕たちもそれを受けて演じたいです。

― あと収録現場を見学させていただいて驚いたのは、セリフを付け足されていたことです。
そういうことって結構あるのでしょうか?どういったところで足したくなるんですか?

市来:
まぁコミカルなシーンですよね。ここかな、というところがあるんです。

吹き替え版は良い意味でサラっとご覧になってもらうもの。そこで「面白かった!」って感じてもらいたいだけなんです。見てる間に「ん?」って残しちゃいけない。
考えて止めさせちゃいけないから、一笑いの連続で良いと思うんです。

あんまり練りに練られて伏線を貼っていくことよりも、その場で「面白い!」というのが、吹き替えには合っているのかなという気がしています。


石狩:
ドキドキハラハラするシーンってどの国の人が見ても、ドキドキハラハラするんです。

でも、笑いってたぶん国によって違うから、吹き替えで足すってこともありますよね。元の言葉をそのまま翻訳してもあまりピンとこなかったりするので、やっぱり日本人が考えた笑いの方が合うのかなって。

市来さんの前で三枚目をやる時は、声優はみんな口がはっきり大きく映っていないところは何言っても良いと思ってます(笑)

― 「師任堂~」でも、あるシーンで一笑がちりばめられていたので、このインタビューを読まれた方はぜひ吹き替え版と字幕版を見比べてみていただきたいですね。


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●予告編



★お二人が関わった日本語吹替え版も収録!★
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「師任堂(サイムダン)、色の日記」©Group Eight