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遠くで呼んでる声がする【前編】


先日、正月休みに地元のクサレ縁の友人宅に招かれて久々に昔話に花を咲かせた。

それはいいのだが、部屋をふと見渡すと「パーマン」のDVDが転がっていた。

聞けばどうやら子供が"王道のピーマン嫌い"なのでパーマンを観せてサブリミナル的に
「ピーマン」という言葉を好きにさせる、という凄いのかショボいのかわからない理由だ。
そもそも適当なヤツなので適当に言った節もあるがこちらとしては理由なんて何でもよい。
目の前に突然「パーマン」がある事に吠えた。
さすがはクサレ縁、タイミングが完璧だ。これをクサレ縁と呼ばずになんと呼ぶ。

そんなところ誰も見ちゃいないとは思うが、昨年の当コラム内のプロフィールにて
名曲ベスト3のひとつとしてOP曲「きてよパーマン」をあげたのは事実だ。
書いたら再燃したのでサントラでも探そうかな、くらいに思ってたほどだ。
そういう流れでもあったし夢中でパーマンを再生して懐かしんだ。

僕がリアルタイムでTVアニメを観ていた頃は小学生。
そして原作コミックも全巻集めていた。ボロボロだが今でも実家にある。
なので設定もストーリーも覚えている。そして王道の藤子不二雄ワールド。
「ドラえもん」をはじめ「忍者ハットリくん」「キテレツ大百科」など、
問答無用のラインナップの中で敢えて1つあげろと言えば僕は迷わず「パーマン」だ。
言うまでもないと思うが「ドラえもん」が王者に決まっている。それでも「パーマン」だ。

それはなぜなのか理由を話そう。
大の大人が昔の子供アニメにムキになって語るんじゃないよ、と思うだろうが
そこは華麗にスルーして続けることにする。僕とかっぱえびせんは誰にも止められない。

くり返しだが、王道の藤子不二雄ワールドなので骨子となるものはだいたい同じだ。
タイトルキャラクター&ちょっとダメな主人公、同級生のガキ大将とその子分、
そしてあこがれのヒロイン。この安心感はみなさんご存じのとおりだろう。

しかしパーマンが他の作品とちょっと違うのは、ドラえもんにおけるのび太くん、
キテレツにおけるコロ助といったペア設定ではなく、ダメな主人公ミツ夫くんが
そのままタイトルキャラのパーマンとして変身するところだ。つまり一人二役。
細かいこと言うとミツ夫くんのコピーロボット(アリバイ工作用)までいるので三役だ。

さらにパーマンには4号までいる。(過去に5号の存在もあるが、めんどうなので割愛)
そう、「パーマン」とは単一人物のそれではなくてヒーロー戦隊シリーズのタイトルだ。
2号がサル、3号は女の子、4号は太っちょ切れもの関西人。キャラ割りもバランスがよい。
仲間のパーマン以外には絶対に正体がバレてはいけないというルールのもとに平和を守る、
いわゆる浮かばれないヒーロー物語だ。

さて、ここからが重要なポイントのひとつだがパーマン1号であるミツ夫くんには
あこがれのミチ子ちゃんがいる。通称ミッチャン。まあしずかちゃん的ポジションだ。
ヒーローとして活躍する疲れで授業中は居眠りばかりしているのでミッチャンには
そういうミツ夫くんとしか見られない。そこはまあ影のヒーローの定番だろう。
基本的にはそんなダメダメ主人公とヒロインのやりとりが繰り広げられる。
テイスト的にはのび太くんを心配するしずかちゃんとまったく同じと思ってもらっていい。
もちろん災害を救助したりとカッコいいパーマンも存分に描かれる。
これまたお約束としてミッチャンはパーマン1号を好きになる。

そしてお気づきだろうか。物語はそこだけがラブラインではない。
「パーマン」にはパーマン3号ことパー子いうスーパーヒロインがもうひとり存在する。
おそらくここが他の藤子不二雄作品とは圧倒的に異なる。
さらに、パー子の正体は「星野スミレ」という国民的スーパーアイドルなのだ。

パー子はアイドルということをバレたくないので仲間にも普段から素性は隠している。
1号とパー子は仕事仲間でありいつもケンカしているが、実はお互いに好意がある。
いや、どちらかといえば無頓着な1号よりパー子のほうが意識している。
1号は常にミッチャンを助けるが、パー子としてはマスク越しに密かに面白くない。
そしてミツ夫くんはミッチャンにあこがれると同時に星野スミレの大ファンでもある。
1号が星野スミレの事で夢中になっているとほんとは自分なのに"別の自分"に嫉妬する。
3号のおてんばキャラとしてしょっちゅう爆発するものの1号には当然理由がわからない。
「ふん、あんなアイドルどこがいいのよ」とかスネる始末。かわいい。
星野スミレに戻れば、そんなミツ夫に対してもファンの1人として接しなければならない。

つまり「パーマン」は三角関係、いや星野スミレを含む四角関係のラブコメなのである。

実は誰よりも複雑で奥が深くて、誰よりもせつない立ち位置のキャラクターがパー子だ。
このパー子の存在があるからこそ僕が「パーマン」を推す理由だと言っても過言ではない。
普段から大人気アイドルとして過ごし、ある意味では常に「マスク」をしている生活だ。
他の2人(と1匹)と違い、皮肉なことにパーマンマスクをかぶる時だけが素の自分に戻れる。
世間に正体を出してる時が「演じている自分」、マスクで隠してる時が「本来の自分」
だなんて改めて考えると抜群にセンスのいい設定だ。

素でありたいがために「星野スミレ」をバラして仲間にまで特別扱いされることを嫌い、
本来の自分と接してもらえているという"心の居場所"がなくなるので言いたくないのだ。
かわいい。

アイドルとしての激務、パーマンとしての激務、普通の女の子としての1号への想い。
1号が好きなのはミッチャンと"別の自分"。ミッチャンが好きなのはミツ夫でなくて1号。
1号=ミツ夫を知っているという優位性はあるものの、そんな自分の感情を出せる時は
あくまでも「パーマン3号」という立場なので逆に身動きが取れないというジレンマ。
そんな2つの仮面のずっと奥の深いところでパー子は苦悩しながらも明るく強くふるまう。
実際にそういうちょっぴり切ない青春描写が随所に観られるのだ。
それを考えるともはや子供向けアニメのヒロインの設定ではないだろう。

さあどうなる、パーマン1号、ミツ夫、ミッチャン、パー子、星野スミレ。

ブービーとパーやん、完全に空気でごめん。

~後編へ続く~


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